第十一話 ユージ、冬の訪れを知らせる「ゆきふりむし」を目撃する

「まじかー、日本語を話してるつもりだったのになあ……。どうりでアリスと言葉が通じるわけだ。これじゃあ今度は日本に帰れても言葉が通じるかわからないか……」


 掲示板に街の所在や貴族、多種族や魔法など異世界事情を報告したユージ。動画をアップした際に判明したユージも謎言語を・・・・・・・・話している・・・・・ことがショックだったようだ。

 だいじょうぶ? と心配げにユージを見つめてくるコタロー。いてほしい時にそばにいる。できる女である。犬だけど。


「まあいま気にしてもしょうがないか……。ひとまずアリスが森を歩けるぐらい体力を回復させて、それから川沿いに街探しだな。方針は変更なし! っと、あとは冬の状況か」


 今日も今日とて大きな声でユージは独り言である。



 自室からリビングへ向かうユージとコタロー。アリスはリビングのソファに腰かけ、絵本を開いていたようだ。


「アリスはお勉強かな? 偉いぞー、なに読んでるの?」


「あ、ユージ兄! んっとね、アリスはね、しんでれらのご本を読んでるの!」


 ちなみにアリスは日本語を読めない。当たり前だが。それでもユージが読み聞かせたお話を覚えており、ふんふーんと鼻歌まじりに絵を見て楽しんでいたようだ。

 でれっとニヤけるユージであった。うちのありすはかしこいのよ、とコタローも得意げである。


「アリス、ちょっと教えてほしいんだけど……この森、冬はどんな感じかな? 雪は降る? いつ頃から寒くなるんだろう?」


「えっとねー、森にゆきふりむし・・・・・・がたくさんきたら、もうすぐ冬になるぞーってあいずなんだって! ちょっとしたら雪がふるんだよ! 雪がふったら子どもは森に入っちゃいけないの!」


「ゆきふりむしが合図なんだね。どんな虫なの?」


「えーっと、えーっと……あ! ほら、あれだよユージ兄!」


 小さな手でリビングの窓の外を指差すアリス。

 ユージも窓の外に目を向ける。

 コタローも窓に近寄り、外を眺める。


 そこには美しい景色が広がっていた。


 指先ほどの小さな綿毛のような白い球。

 フワフワと風に揺られるように、ゆっくりと森の中を飛んでいる。

 一番近いのはタンポポの綿毛だろうか。

 それが無数に飛び交い、ときおり木の幹や枝にとまっている。

 ゆっくり、ゆっくり上昇していき、最後は木の枝でできた森の天蓋を越え、空に向かっていくようだ。


「ほえー」


 見とれたユージが情けない声をあげる。いつもなら、もうしゃっきりしなさいとコタローが一吠えかけるのだが、今はコタローも見とれていて気づかないようだ。


「あれがゆきふりむしだよ、ユージ兄! もうすぐ冬になって雪がふるんだよ!」


「そっかそっかー。アリスは物知りで偉いなあ。じゃあ冬の準備をしないとね」


 気を張って元気な声を出しながらも、ユージはうつむいている。


 そう、冬がきて、雪が降るのだ。

 つまり、外出は難しくなる。

 短時間の外出ならともかく、雪が積もる森をアリスと二人で歩き、どこにあるか、何日かかるかわからず街を探すのは自殺行為である。


 アリス一人が増えたところで、食糧はなんとかなる。

 石油ファンヒーターの灯油はゴブリンの処分に使ったが、電気はあるから暖房も動く。


 だが、もうすぐ森に雪が降る。

 もうすぐユージとアリスとコタローは家に閉じ込められるのだ。


「街を探すのは春になってからか……」


 もうすぐ人里を見つけられると思っていただけに、ユージの落胆も大きいのであった。

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