第七話 ユージ、アリスと日々を過ごす
「ユージ兄、おはよっ!」
看病すること一週間、アリスは元気を取り戻し、いまでは二人と一匹で生活するのであった。
「うーん、おはようアリス。まだ体力は戻ってないんだから、あんまり動きまわっちゃダメだよ」
ユージの横に寝ていたアリスは先に起きると着替えをすませ、わざわざユージを起こしに来たようだ。外はまだ薄暗い。夜明け前に目が覚めるのが村育ちのアリスのデフォルトだったのである。
今日のアリスの格好は、ユージの妹のプリントTシャツをワンピースにして、アリスが持っていたお気に入りの革ひもで腰元を結び、すねのあたりに裾がくるよう長さを調節している。
シンプルなTシャツだが、アリスの赤い髪とよく合っている。
しかしTシャツにプリントされた「Where am I? Who am I?」の英文が今は痛々しい。そんなの俺が知りたいわと苦笑するユージ。ユージの妹は何を思ってこのTシャツを買ったのか。そして文字はわからないはずのアリスはなぜこのTシャツをチョイスしたのか。永遠の謎である。
アリスの今日の髪型は、胸まである長い赤毛をおさげにしたようだ。アリスが自分で編んだため、ところどころほつれている。妹の私物である白い大きなリボンとあわさって、子供らしさいっぱいであった。頬に散るそばかすも、幼女にとってはチャームポイントである。かわいい。
ユージと目が合うと、いっぱいに笑顔を浮かべてくるっとターン。くりっとした目をキラキラ輝かせて、ユージの評価を待っている。何才であっても異世界の村娘でも
「うんうん、今日もかわいいよアリス」
ユージもにこにことご満悦である。コタローも賛成なのか、アリスかわいいわよ、とばかりに落ち着きなくアリスのまわりをぐるぐると周回している。
落ち込んでいたアリスのなぐさめになればと、妹の服やアクセサリーを「ぜんぶアリスの好きに使っていいよ」と許可したのは正解だったようだ。
笑顔を浮かべてぱたぱた動き、妹の部屋のクローゼットを探索していたアリスの姿を思い出すだけでユージはほっこりである。
「じゃあ朝ご飯食べて体操したら、今日はゆっくりリビングでお話ししようか」
「うんっ! アリス、しんでれらのお話が聞きたい!」
いや、今日は俺がアリスの話を聞きたいんだよなあ、とぶつぶつ呟きながらキッチンへ向かうユージ。コタローはアリスと一緒にリビングのソファである。
最近のコタローはアリスの相手で忙しいようだ。
今日の朝食は、コタローが仕留めた鳥肉を使った卵なし鳥雑炊と、森で見つけたベリー系果実である。小粒な果実はひどくすっぱい。だがすっぱい果物はビタミンがいっぱいで体にいいはずというユージの思い込みで、採取してからはほぼ毎朝食卓にのぼっている。
ちなみに、食事はすべてユージが作っている。ネットさえあればユージでもなんとかなるのだ。
小さな口いっぱいに頬ばり、もきゅもきゅと食べるアリス。かわいい。
食後は小学生の夏休みの朝の風物詩、おなじみのあの体操である。
庭に出て、ユージと並んでしっかり体を動かすアリス。
コタローは、さすがにわたしにはできないわ、と言わんばかりに二人のまわりを走りまわるのみである。コタローとて万能ではないのだ。たぶん。
まだ体力のない小さな体で一生懸命やったからか、終わるとアリスは息があがっている。
食事、運動、睡眠。失った体力を取り戻し、森を抜けて人里に行く体力をつけるため、アリスはがんばっているのだ。
庭で体操を終えたユージとアリス、コタローはリビングに戻り、休憩である。
ソファに腰掛けたユージはドングリコーヒーを、アリスはユージ手作りのベリージュースをこくこくと飲んでいる。
一時期ハマった母親が購入したジューサーさまさまである。これさえあればユージでも手作りジュースができるのだ。いまや母親が使った回数よりもユージが使った回数の方が多いほどだ。飽きっぽい母親であった。
「よし、じゃあアリスに森のこととか、村のこと、いろいろ聞いていいかな? もし辛いことを思い出したら言うんだよ。コタローがなぐさめてくれるから」
犬まかせである。
「うん、わかったユージ兄! アリスいい子だからがんばる!」
健気ないい子である。
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