休日の支配者
おぽちょ
第1話 休日を愛する男と邪魔する幼馴染
俺の名前は、
今日は土曜日。学校は休みだから平日よりも早起きした俺の上に心地よいぐらいの重さを感じる。ちなみに休日は必ず平日より早く起きるべきだ。より休日を楽しむために。
「おはよう幸也。こんなに早く起きれて偉いわね。」
小さい頃から何度も聞きなれている声だ。声の主は天使のような笑みで俺を見つめ、両の手で俺の頭を包み込むように優しくなでている。
「おはよう悠乃。目覚まし時計を止めてくれてありがとう。」
彼女の名前は
「愛しい幸也のためならなんでもするわよ。私がいれば目覚まし時計なんか必要ないんだから。」
彼女が言うならそうなのかもしれない。そう思わせるほど凛とした声音に、俺はため息をつく。悠乃は俺の頭をなでるのを止め、布団の上から俺の胸に自分の頭を埋めつつ、続ける。
「どーせ私が起こすの。必要ないから後で捨てておくわね。」
「いや、そこまでしなくても…」
生まれた時からの知り合い、いわゆる幼馴染である悠乃は物心ついたときからこんな感じである。いつ頃からか忘れたが、他者を寄せ付けない程の異常な愛情を俺に向けてくるのだ。男友達もそうだが、女の子なんかと話した日には手が付けられないほど怒りを露わにしてくる。俺に対する独占欲がカンストしているのだ。俺が1人でいるのが好きになったのは悠乃の存在も多少関わっている。
「なぁ、そろそろ起きるからどいてくれよ。朝飯作らなきゃならん。」
我が家は両親が共働きのため、朝食は自分で作らなければならない。平日に休みがあることが多い2人なので、どうせ今日もいないのだろう。
「私も幸也のご飯食べたいわ。でもそのためにはまずおはようのチューしないと。」
顔をあげた悠乃の瞳は熱っぽくこっちをのぞき込むように見ている。なんでチューしなきゃご飯食べれないんだよ。
「意味が分からんが…せめて先に歯を磨かせてくれないか。」
「私は平気よ。」
「いや、俺が気にするから。それにキスしたら色々我慢できなくなっちゃうだろうし、きちんとしたいな。ちょっと待っててくれない?」
少し微笑みながらそう伝えると、何かを察した悠乃の瞳は熱を増し、息も少し荒くなっている。何を想像しているのだろうか。
「そうよね…幸也も年頃の男の子だもの。それを理解してあげるのも妻の務め。じゃあベッドで待ってるわね。」
俺たちは夫婦ではない。嬉しそうに布団に包まっている悠乃を後目に、俺は部屋の扉を閉めた。そして、洗面所に向かい歯ブラシをくわえてからそのままキッチンで朝食を作り始める。トースターから焼けた食パンを取り出し、目玉焼きとウィンナーを焼き上げたところで、急に背中にドン、と衝撃が走る。どうやら悠乃が俺の部屋から出てきたらしい。すごい強さで俺を抱きしめてくる。
「…知っていたけど、でも期待していたわ。嘘はいやよ。」
…ちょっと罪悪感を感じてしまう。でも嘘つかないと出られなかったもんね。
「悪かったよ。ほら、朝飯できたから。」
謝りながら悠乃の拘束を解くと、できた簡単な料理を皿に盛りつける。
「今日1日私にかまってくれるなら許すわ。」
「どーせいつも我が家に入り浸っているだろ。」
「お母さまから幸也のことを託されているもの。義務だから仕方ないわ。」
どうやら悠乃の毎度の不法侵入は親の公認らしい。隣の家で両親が仲が良いとはいえ、年頃の女の子がこれとは…。将来が心配だな。
「はいはい。ほら食べるぞ。」
下手に口を挟むと不機嫌になりかねないので、流しながら朝食をテーブルに並べる。
「ええ。いただきます。」
俺の席の向かい側に朝食を置いたのに、わざわざ隣に置きなおして食べ始める悠乃。なんて無駄のない動き。料理とも呼べない簡単なものだがすごくおいしそうに食べてくれるのは嬉しいけどさ。
「今日はお買い物に付き合ってね。」
「今日は昨日買った本を読むんだ。家から出ない。」
せっかくの休日に、しかもこんな日差しが強いときに外なんか出られるか。
「そう…。今朝の会話すべて録音してたのだけど、それをお母さまに聞かせるわ。」
「どこに行きたい?」
今日は買い物に行きたい気分だったかもしれない。こんなに天気も良いし出かけるとしよう。
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