104 断罪の後で①
これは、アメリアがリチャード達三人に最後の罰を与えた後、リチャードが見せられる事になった初めての夢での出来事である。
この夢の中ではリチャードは一国の国王として君臨していた。だが、ある日、国内で大規模な反乱が発生した。そして、その反乱軍は途轍もない速度で勢力を増していき、反乱発生から数日でこの国の王都を制圧してしまう程の勢力にまでなってしまった。
更には、国王であるリチャードを守る筈の近衛騎士団も既に反乱軍に取り込まれており、彼は反乱軍に制圧されてしまった王都から脱出する事も出来ずに、呆気なく反乱軍に捕まってしまったのだ。
そして、今日はそんな前国王であるリチャードの処刑を反乱軍が行う日なのであった。
この日、数多の民衆が見守る前に両手を縛られたリチャードが連行されて来た。彼はこの国の王都にある王城、その手前の広場に設置されたギロチンによって処刑されるのだ。前国王の処刑というだけあって、ギロチンの前には数多の民衆達が処刑の時を今か今かと待ち構えている。
だが、ギロチンの前まで連れて来られたリチャードの表情は諦めと絶望に完全に支配されていた。今迄自分が積み上げてきた物の全てが突然無くなってしまったのだから、それも当然だろう。
そして、リチャードを連行してきた反乱軍の兵士達の手によって彼の首がギロチンにセットされたその時だった。
リチャードの頭の中に突如として、知らない記憶や知識が一気に流れ込んできたのだ。その記憶とは、言うまでも無く、現実でのリチャードの記憶だ。
(そうだ……、思い出したぞ……。私はエルクート王国のオーランデュ侯爵家の当主であるリチャード・オーランデュだ)
そして、リチャードはオーランデュ侯爵家の当主として過ごしてきた日々の事、アメリアの復讐の事、そのアメリアの手によってあの黒魔術の祭壇の大穴に飲み込まれた時の事までの全ての出来事を思い出した。
(そして、それからどうなったのだ……?)
だが、不思議な事にリチャードはあの祭壇の大穴に飲み込まれた後の事は一切思い出す事が出来なかったのだ。
(私はあの後、どうなったのだ? 死んだのか? まさか、死んだ後にこの国の王として生まれ変わったとでもいうのか?)
幾ら、かつての記憶が蘇ったからといっても、彼が国王として今迄過ごしてきた記憶が消えたわけではない。
それらから考えて、あの後自分はアメリアの手によって殺されて、その後にこの国の国王として生まれ変わり、今になって昔の記憶を思い出したのだという結論を出した。
普通に考えればあり得ないと思うだろうが、そうとでも考えなければ、リチャードは自分の身に起きた事に説明を付ける事が出来なかったのである。
(しかし、もし本当に生まれ変わったのだとしても、嘗ての自分が死んだ時の記憶を一切思い出せないのは何故だ?)
やはり、ネックになっているのは今も思い出す事が出来る最後の記憶、あの大穴に飲み込まれた後の記憶だろう。
(つまり、あの漆黒の大穴に飲み込まれた後に、自分の死に繋がる何らかの出来事があったのは間違いないだろう)
そして、彼が大穴に吸い込まれた後の事をなんとか思い出そうとした、その瞬間だった。
「これより、前国王の処刑を開始する!!」
此度の処刑を仕切る処刑執行人が高らかに処刑の開始を宣言したのだ。
(そっ、そうだ!! 私は、こっ、これから……)
その時、リチャードは改めて自分が処刑寸前である事を思い出し、慌てふためいた。
(ふっ、ふざけるな!! 何故っ、何故、今になってあの記憶を思い出すのだ!!)
記憶を思い出す前のリチャードは自分の全てを奪われた絶望の末に処刑とそれによって訪れる死への覚悟が出来ていた。しかし、かつての記憶を思い出してしまった今となってはその覚悟も無駄な物になっていた。蘇ってしまった嘗ての記憶が、これから訪れる死に拒否反応を示しているのだ。
だが、もう遅い。再度、死の覚悟をしようにも、その為の猶予は欠片もない。処刑人はギロチンを今にも落とそうとしている。
そして、彼は思わず上を見上げた。そこにはこれから振り下されるであろうギロチンの刃が鈍く輝いている。
「ひっ、ひぃっ!!」
ギロチンの刃を見た彼はこれから自分の身に降り掛かるであろう死への恐怖から思わず呻き声を上げた。
(なっ、何故だっ、何故、今になってかつての記憶を……。くそっ、これもあの女、アメリアの仕業だとでもいうのか!?)
それは、当てつけの様な推測ではあったが、彼の推測は偶然にも的を得ていた。
そう、これもアメリアが仕組んだ事の一つだ。アメリアはリチャード達三人が夢の中で死ぬ直前になった時、嘗ての、つまりは現実での記憶の殆どを思い出すように仕掛けをしていたのだ。
思い出せない様にしているのはあの祭壇の中にある異空間での会話や出来事だけである為、彼等はこれが夢であるという事を絶対に思い出せない様になっていた。それ故、彼は自分に迫っている死が現実のものだと信じ込んでいる。
(くそっ、くそっ、くそっ!!!!)
リチャードは死にたくないが故に、必死に抵抗するが両手は縄で厳重に縛られており、抜け出す事は叶わない。だが、そうしている内にも処刑の最終準備は着々と進んでいる。
(くそっ、くそっ、くそっ、死にたくないっ、死にたくないっ!!)
そして、処刑の為の全ての準備を終えた事を確認した処刑執行人は処刑執行の合図を出し、遂にギロチンは振り落とされる。
「死にたくないっ、死にたくないっ!! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!! あああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!」
――――ズシャッッ!!
リチャードが無様な叫び声を上げている内にギロチンの刃は彼の首を綺麗に切断する。そして、彼は呆気なく
しかし、この処刑がこれからも彼の身に延々と続いていく地獄の始まりに過ぎないのだという事など、この時の彼は知る由もないのだった。
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