102 突き付けられる罪

「さて、今ここに全ての役者が揃いました。この場所こそ、此度の復讐、その最後を飾るに最も相応しいでしょう。さぁ、貴方達が犯した大罪、それに相応しい罰を今こそ貴方達に与えて差し上げましょうか!!」


 アメリアは高らかに復讐の始まりを告げた。ここから、彼女の此度の最後の復讐が始まろうとしていた。


「大罪、だと!? ふざけるな!!先程も言っただろう、お前の両親を処刑した事は国の命令で行った事だ!! 私に罰を与えるというのなら、命令を下した者が先だろう!! それに、ここにいる私の妻と娘は関係ない筈だ!!」


 だが、リチャードは事ここに至っても自分の犯した罪を認めようとはしない。その様子には見苦しさすら感じられる。しかし、アメリアはそんな彼に対して、畳みかける様に一つの疑問を投げかけた。


「なら、未だ自らの犯した大罪を認めようとはしない貴方に一つだけ問いましょうか。ここが一体何の場所であるか、貴方には分かりますよね?」

「……なっ、何の事だ? こ、ここが何処だか私は全く知らない」


 無論、リチャードはここで自分達が黒魔術の儀式を行った事は当然分かっている。しかし、彼はその事だけは認めない、認めてはならないと言わんばかりに言い逃れをしようとする。


「はぁ、全く、まだ認めようとはしないのですか。本当に見苦しいという他にありませんね。 ……正直に言うなら、貴方達が彼等を生贄にして黒魔術の儀式を行っていたなどと、私は全く想像もしていませんでしたよ。おかげで残りの準備が全て無駄になってしまいました」


 本来、アメリアはもっと別の方法でリチャードが犯した罪に対する残りの罰を与えるつもりだった。

 しかし、リチャードの記憶で見たあの事実を知った今では元々用意していた方法では彼等の罪を清算するには到底足りないと彼女は感じてしまった。その為、予定を変更せざるを得なくなったのだ。

 それ程までに、リチャード達が黒魔術の儀式を行っていた事、その儀式に自分に仕えていた使用人達が使われていた事の二つはアメリアには想定外の出来事だったである。

 だが、呆れ気味に溜め息をついたアメリアとは対照的にリチャードは驚愕の表情を浮かべる。


「く、黒魔術……? なっ、何の事だ……?」


 それでも、リチャードは必死に言い逃れをしようとするが、彼の記憶を覗き見たアメリアには無駄な事だ。


「ここに来てまで、言い逃れをするつもりですか? 私は貴方達が犯した罪の全てを知っていますよ。貴方達は私に仕えていた使用人達を生贄にして黒魔術の儀式を行った事もね」

「どっ、どうしてその事を……」


 リチャードは黒魔術の事を外に漏らした覚えはなかった。黒魔術の儀式を行った事を知っているのはオーランデュ侯爵家に仕えている者達の中でもごく一部の筈である。

 特に、アメリアに仕えていた使用人達を彼等が行った黒魔術の生贄とした事を知っているのはここにいるローザリアとリリアローズの三人だけだ。

 だというのに、アメリアは自分達だけが知っている筈の事を知っている。リチャードには全く訳が分からず、動揺を隠せなかった。


「どうしてお前がその事を知っているのだ!!」

「ふふっ、それは簡単な話です。貴方の記憶を見たからですよ」

「記憶を見た、だと……」

「ええ、今の私にはそんな事も難しくは無いのですよ。他にも色々と知っていますよ。貴方が自分のコレクションの試し切りと称して、私に仕えてくれていた使用人達を痛めつけて殺めた事も、ね」

「何故、その事まで……」


 アメリアの口から語られた自分達しか知らない筈の事実を聞かされたリチャードは思わず絶句する。

 すると、アメリアはおもむろにリチャードから目を離し、自分の後ろにある祭壇へとその視線を向けた。


「まぁ、この祭壇がここにあった事はある意味では僥倖なのでしょう。ここならば、貴方達への復讐にある意味では最も相応しい場所ですからね」


 そう、アメリアはこの祭壇の事を知っていた。正確に言うならば、この場所にある様な黒魔術に使われる祭壇の事を知っていたのだ。

 それらの知識の出所は言うまでも無く、アメリアが受け継いだあの古代魔術を習得した時の魔導書だ。

 その為、アメリアはこの祭壇に隠されたもう一つの使い道も知っていた。そして、彼女は今回の復讐の終幕を飾るのは、その使い道こそが最も相応しいと考えているのだ。


「さて、これより貴方達の罪の清算を始めましょうか」


 そう言って、アメリアが何処からか取り出したのは一本の短剣だ。だが、その短剣を見たリチャードは思わず声を上げる。


「おっ、お前っ、それはまさかっ!?」


 彼女が取り出した短剣はリチャードが黒魔術の儀式を行った時に使った短剣と酷似していた。

 だが、これはあの儀式の時にリチャードが使った物ではない。必要な事とはいえ、アメリアにとっては自分に仕えてくれていたメイアを殺めた凶器であるあの短剣を使うのは虫唾が走るだろう。

 また、この短剣の出所は、あの魔導書と共に彼女が受け継いだ古代の魔道具である。その中に、リチャードが使った短剣と同じ物が運良く残されていたのだ。

 そして、アメリアはリチャードが儀式を行った時と同じ様に自身の手の平を短剣で少しだけ切り裂き、その血を魔法陣へと垂らした。

 すると、アメリアのいる祭壇に描かれている魔法陣が突如として輝き始める。それは、リチャードが黒魔術の儀式を行った時と全く同じ輝きだ。


「さぁ、目覚めなさい」


 アメリアがそう告げたその瞬間、魔法陣の上に突如として人が数人は余裕に通るであろう漆黒の巨大な穴が現れた。すると、彼女は迷う事無くその現れた穴の中へと入っていく。

 そして、アメリアが穴の中へと消えた直後、その穴はこの周囲一帯の全ての物を飲み込むかの様なとてつもなく激しい勢いで吸引を始めた。


「なっ、なんなのっ!?」

「きゃっ!!」

「っ、二人共っ、何かに掴まれ!!」


 リチャードのその指示の直後、三人は近くにあった物にそれぞれ掴まり、祭壇の大穴が起こす吸引に対して必死に抵抗しようとした。だが、その吸引も時間の経過とともにその吸引は激しさを増していく。

 そして、それから数分後、遂に一人目の限界が訪れた。


「きゃああああ!!」

「リリィ!!」


 大穴が起こす吸引に耐え切れず、リリアローズは思わず掴まっていた物から手を離してしまったのだ。

 そうなれば、もうどうしようもない。彼女は必死に父親であるリチャードに手を伸ばすが、そんなものが届く筈も無く、無情にもリリアローズは祭壇の大穴へと飲み込まれていく。


「リリィ!! くっ!!」


 娘であるリリアローズが穴に飲み込まれた事でリチャードは思わず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。

 しかし、彼等の目の前にある大穴はリリアローズを飲み込んでも吸引を弱めるどころか、その勢いを更に増していく。

 そして、リリアローズに続きローザリアにも遂に限界が訪れた。


「きゃっ」

「っ、ローザ!!」


 先程のリリアローズと同じ様に、ローザリアも大穴が起こす吸引に耐え切れず、掴まっていた物から手を離してしまう。それを見たリチャードは慌ててローザリアに手を伸ばすが、彼の手はギリギリの所で彼女には届かず、ローザリアの手を掠めるだけに終わってしまった。


「あっ、あああああああああああっ!!」


 そして、そのままの勢いでローザリアは大穴の中へと飲み込まれていった。


「ローザ!!!!」


 リチャードは大穴に飲み込まれたローザリアに向かって叫ぶが、彼も他人を気遣っている場合ではない。ローザリアを飲み込んだ大穴は更にその勢いを増していく。それでも、彼は大穴に飲み込まれまいと必死に掴まるが、そんなリチャードにも遂に限界が訪れた。


「ぐっ、あっ、ああああああああああああっ!!」


 そして、最後に残ったリチャードもそんな声を上げながら大穴に飲み込まれるのだった。

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