53 脱出の準備

 ネビルがアルバート司祭率いる反乱軍の大聖堂への強襲の報を聞いてから十数分後、彼はライアンと共に反乱軍の者達に見つかる事無く無事に大聖堂の地下に作られた秘密の会議場に到着する事が出来ていた。

 地下の会議場には既に二十人以上の男達が集まっている。その全員が、教会の上層部に属している者達だった。


「「「教皇猊下、お待ちしておりました!!」」」


 そう言って、ネビル達を迎えるのは先んじて地下に集まっていた教会上層部の者達であった。


「皆、集まっているようだな」

「はい、他の者達は既にここへと集まっており、教皇猊下で最後でございます」

「そうか」


 すると、会議場にいる内、数人の男達が手に木の板と釘を持ってこの場所に通じている唯一の扉に向かって行った。そして、その男達は扉を封鎖する様に木の板と釘を扉に対して打ち付けていった。

 気休め程度でしかないが、これで反乱軍がこの場所に到達しても多少は時間を稼ぐ事が出来る、と彼等は考えていたのだ。

 そして、扉の封鎖が終わった後、ネビルはこの場にいる全員に向けて言葉を放った。


「では、早速脱出を始めたいのだが……」


 ネビルはそこで一度言葉を区切り、隣にいるライアンへと視線を向けた。


「ライアン、お前は脱出通路が使えるかの確認と準備を急げ」

「はっ!!」


 ネビルの命令に従い、ライアンは脱出通路の様子の確認と脱出の為の準備をする為に彼等の元から離れていった。

 何故、ネビルがそんな命令をライアンに与えたのか、それには彼等が今から使用しようとしている脱出通路の状態に理由があった。大聖堂の地下に作られた脱出通路は非常用の為に長い間、使用されておらず、十分なメンテナンスも行われていない為に脱出通路が使用できるかの確認や使う為の準備が必要だったのだ。だからこそ、ネビルはライアンに脱出通路を使う事が出来るかを確認させる命令を与えたのだ。


そして、ネビルはライアンが様子を確認しに行っている間に、他の会議場に集まっている者達と話し合いを始める。


「それにしても、だ。何故連中は今日攻めてきたのだ? まさか今日が定例会議の日だと知っていたのか?」


 そう、今日は定例会議を行う予定だった為、秘密会議のメンバーは全員が大聖堂へと集まっていたのだ。だからこそ、このタイミングで反乱軍が攻め込んできたのは、メンバー全員が大聖堂に集まっているという情報を何処からか手に入れたからなのではないか、と思ってしまった。


「分かりませんが、タイミングを考えれば恐らくそれで間違いないかと……」

「我々全員がこの大聖堂に集まっている時に反乱軍が攻め込んでくる。これを偶然と言い切るには流石に無理があるでしょう」

「となると、何処からか情報が洩れている可能性も……?」

「或いは、連中は我々のスケジュールの全てを把握していたのでは?」


 だが、彼等が口々に述べている推測はどれもが確証の域に到達する答えとは言えなかった。もしかしたら、自分達のスケジュールを管理している補佐の者達が情報を流していた可能性もある、とまで彼等は考え始めていた。

 何故なら、大聖堂にいる騎士達の約半分が寝返ったのだ。なら自分達の補佐をしている者達が裏切っていないという確証も無い。寧ろ、その補佐の者達が裏切っていたからこそ、自分達の情報が漏れていたのではないか。だからこそ、全員が集まるこの時に攻めてきたのではないのか、そこまでの考えに至った彼等は一様に表情を暗くする。

 そんな中、彼等の中の一人がこの暗い空気を変えるべく、ネビルに対して今後の事について疑問を投げかけた。


「そう言えば、教皇猊下、これから如何なさるおつもりなのですか?」

「如何、とは?」

「この大聖堂から脱出した後の話です。脱出した後は、何処に向かわれるおつもりですか?」

「……脱出した後は、個人的な貸しのある貴族に協力を頼もうと思っている。こういった事態に備えて、予め作っておいた個人的な貸しが多くあるからな。それを返す事が出来るとなれば奴らも我々が返り咲く為の協力は惜しまないだろう」


 貴族にとっての貸し借りとは軽い物ではない。それこそ、何らかの事に対して協力を要請された時、貸しの話を持ち出されたりしたなら、それがどんな事であっても協力しなくてはならない程に重くなる時もある。もし、それを無碍にした場合、「あの貴族は貸しを作っても返してくれない」等と言われてしまい、貴族社会全体から爪弾きにされてしまうだろう。貴族達にとってはそれ程に貸し借りに対しては厳格なのだ。

 自身も権力を持つが故にそれを知っているネビルはこういった事態に備えて、教会の力を使い、多方面の貴族に貸しを作っていたのだ。ネビルは今迄貴族達に積み上げてきた貸しを上手く使って、再び教会のトップに返り咲くつもりだった。


「では、私も個人的に貸しのある貴族に協力を要請してみましょう」

「私にも幾つかの貴族に貸しがあります。教皇猊下への協力は惜しみません」

「そうか、皆の協力があれば我等が返り咲くのも早くなるだろう。皆のより一層の協力を期待しているぞ」

「「「はいっ!!」」」


 ネビルの言葉に、周囲の者達は力強く頷いた。彼等の眼には、このままでは終わらない、今は追われているが必ず自分達は権力の座に返り咲くのだという野心が燃え盛っていた。

 そんな時、地下通路を使う為の準備を続けているライアンの声がこの会議場内に響き渡った。


「教皇猊下、準備が整いました!! 脱出通路も問題なく使用できる様です!! 準備も全て整っております。すぐに脱出を始めましょう!!」

「そうか。ライアン、よくやった!! では、一刻も早く脱出するぞ!!」

「「「はっ!!」」」


 そして、彼等は大聖堂から脱出するべく、地下の脱出通路へと歩みを進めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る