51 大聖堂の秘密
最近、エルクート王国の王都に存在する教会の本部でもあるエルクタル大聖堂で侍女として働き始めた長い銀色の髪が特徴的なとある女性がいた。
その女性が今いるのは大聖堂の中でも一部の者以外の立ち入りが禁止されている区画、その手前だった。彼女はこの大聖堂で働き始めてからというもの、この先に何があるのかが、ずっと気になっていたのだ。もしかしたら、この先には自分が探し求めていた場所があるかもしれないと思った彼女は、仕事を早く終わらせて、誰にも見つからない様にこの先に行ってみようと考えていた。
そして、今日の仕事を早く終わらせた彼女が誰にも見つからない様にその立ち入り禁止区画に足を進めようとした、その瞬間だった。
「ちょっと、メアリさん!! そこで何をやっているの!?」
「っ、侍女長」
その女性、メアリの後ろから侍女長が慌てた様な声色で彼女に声を掛けてきたのだ。侍女長は慌てた様子でメアリの元へと駆け寄ってきた。
「その先は立ち入り禁止の区画よ。貴女、今日の仕事はもう終わりでしょう。一体何をやっているの?」
「いえ、この先に、何があるのかな、と少しだけ気になりまして……」
「はぁ……」
「すみません。ほんの少しだけ自分の中にある好奇心が疼いてしまいまして……」
「最初に言ったでしょう。ここには貴女が知るべきでない事が多数あると……」
「はい、それは聞きました。勿論、この先に進む気はありませんでした。ほんの少し気になっただけなんです」
「……いいわ。貴女のその言い分を信じましょう」
だが、そう言う侍女長は呆れた様な表情を浮かべていた。
「だけどね、この際だからもう一度言っておくわ。この先は立ち入りが禁止されている区画よ。だから絶対この先に進んでは駄目よ。この先にはあの噂もある事だし……」
「……噂、ですか?」
「……あっ!!」
侍女長は、思わず失言をしてしまった、と言わんばかりの表情を浮かべた。
「そう言えば、貴女は新人だったわね……」
「はい」
「だったら、知らないのも当然よね……」
「どういう事ですか?」
「まぁ、いいわ。どうせここで教えなくても何処かでいずれは知る事になるかもしれないし、この先に安易に進まれても困るから教えてあげるわ」
そして、侍女長は意を決した様に話し始める。
「昔から、この立ち入り禁止区画にはとある噂があるの」
「? それは一体……?」
「噂と言っても、それほど信憑性があるとはいえない、大した事のない只の噂なんだけどね。この先には教会の上層部の人間しか知らない秘密の会議場があるとか、上層部がいざという為にこの大聖堂から脱出する為の秘密の通路があると言われているのよ」
「え!?」
「まぁ、あくまでで噂よ。他には、この先には教会が秘密裏に蓄えてきた膨大な金銀財宝や山の様な金塊が眠っている、なんていう話もあるぐらいだし」
だが、侍女長は続けて「流石に、それは根も葉もない噂よねぇ……」と呆れた様な声色で呟いていた。
「だけどね。噂はこれだけじゃないの。この立ち入り禁止区画の先に関する噂は、もう一つだけあるの」
「もう一つ?」
「ええ。予め言っておくとこの話には信憑性は無いわ。昔にね、その噂を聞いた侍女がこの先に進んだらしいの。だけど、その侍女はこの先に進んだ話を他の人に話した数日後に行方不明になったらしいわ。その侍女はこの先にある秘密を知ってしまったから教会上層部の誰かに消されたなんて話もあるの」
「えっ……?」
「まぁ、その話もさっき言った通り、信憑性が定かではない噂程度の話でしかないから、本当かどうかわからないわ。その噂自体、私が働き始めた時から侍女の間で広まっていた噂で、本当の所どうだったかは分からないし。だけど、この先の立ち入り禁止区画の中にはそんな噂が立つ程の秘密が眠っているんじゃないかって言われているの。だから、その噂が広まってから、今迄この先に入った侍女は誰もいないのよ」
そう侍女長の表情は真剣そのものだった。その直後、何処からか侍女長を呼ぶような声が聞こえてきた。
「侍女長!! すみません、少し来てください!!」
その声の主は、この大聖堂で働いている別の侍女の声だった。その侍女の声に、侍女長は「はいはい!! 今行くわ!!」と返事を返していた。その直後、侍女長はメアリの方に向き直り、改めて警告の言葉を口にする。
「だからね、この先に進んでは駄目よ、メアリ。もしかしたら、本当にこの先には秘密があって、それを知れば貴女も消されるかもしれないのよ。分かったのなら、その好奇心を捨てて早く帰りなさい。いいわね?」
そして、侍女長は最後にメアリへと警告をした後、彼女の元から去っていった。だが、侍女長が去った後のメアリの口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
「なるほど、面白い話を聞けましたね。ますます、この先に興味が湧いてきました。この先を調べてみましょうか。彼女の話が確かなら、あの仕掛けを準備するにはこの先が最適でしょうからね」
周囲に誰もいない事を確認したメアリは先程の侍女長の警告を無視して立ち入り禁止区画に足を進めるのだった。
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