第6話:迷える魔術師
そして、冷静さを取り戻した舞が取った行動は大胆が過ぎた。
「成程、話はわかった。総合すると『魔王』と名乗る人間のせいでこの世界に紛れ込んでしまった、そういうことだ」
話を受けたのはくすんだ金色の髪が印象的でで端麗な容姿だが、どこか達観した様子が見える若い男だ。
舞が『この場所の責任者を出せ』と突撃しようと提案した先で現れたレイ・フォールドと名乗った男は、値踏みするような目線を二人に向ける。
確かに相談できるとしたら魔導院しかないが、最高責任者を出せと正面から突破するとまでは思っていなかった。
しかし、不審者を見るような目付きをした職員が話は通してくれた結果として、魔導院の幹部級であろう男との面会が叶ったわけだ。
結果、出てきたのは二十代半ばであろう責任者を名乗る男だった。
「そうなります。この場合に相談できそうな場所はここだと聞いていたので」
舞が頷くと金髪の男は目線を中空に放り投げて考え込んでいたが、結論は出たようで舞と輪を順番に見比べて愉しげに笑う。
穏やかな態度で接してくるレイという男を見て、最初に『何も感じない、空虚な男』と感想を抱いたのはなぜだろうか。
出会った当初はあまり興味がなさそうな表情だったが、二人を眺める内に何か琴線に引っかかるものを見出したようだ。
異世界の人間だと信用されずに叩き出されるパターンも十分に想定していただけに、こうもあっさりと受け入れられると逆に拍子抜けだった。
「実は君達と似た人間は他にいる。そういう人間は基本的にはここで預かることにしているから、私達を頼ってきたのは賢明な判断と言えるね」
他にもいるという言葉は気になったが、必ずしも二人と同じ世界から来たとは限らないだろう。
それよりも今は今後の身の振り方をしっかり話し合う必要があった。
「受け入れるってのは、住居の面倒を見るって意味ですか?」
「申し訳ないが、君達のような身元が知れない人間を雇う場所もないだろう。だから、ここに入って貰うと言っているんだ。もちろんタダ飯とはいかない。働くも働かないも自由、我々はそれに見合った報酬を出すだけだ」
「仕事に類似する何かを行う場所ということでしょうか?」
「その認識でいてくれ。ここは学校のように学ぶ機能を持ちながらも各人で仕事もして貰う。住居も当面は世話しよう。だが、食い扶持を稼ぐまでは世話をする義務も義理もない」
言葉の端に滲んだ冷たさをすぐに消したレイは試すような眼を向けて二人の反応を
要するに魔導院は魔術について学ぶ場所であり、社会への寄与を求められる場所でもあるのだ。
各自の働きでそれぞれ生活に必要な費用を稼いでいると考えるのが正しい。
同時に二人が敵ではない確信は向こうからすれば皆無で、魔導院の監視下に置かれるということに相違ない。
異世界から来たことを信用されたが故に、二人が普通の人間だと完全には信用されなくなってしまったのだ。
この世界での二人は完全なる異物なのだと改めて自覚する羽目になった。
「しかし……妙だな。君達の世界では謂わば、魔術と呼ばれる技能は存在したのかな?」
「存在はしないけど、俺達は持ってたって言った方がいいですかね」
「・・・・・・そうか、どちらにしても君達からは
別に現代魔術師としての素養に興味はないが、やはり持つ力や才能の差をはっきりと言われると少しばかり悲しかった。
どうやら力を振るえるだろう環境に置かれても英雄や勇者にはなれそうにない。
「さて、話が逸れてしまったがどうする?ここで生きるか、自分達だけで生きるか。私は前者を強くお勧めするがね」
後者を選んだ所で魔導院からは監視される可能性が高く、レイの言い方にはどこか含みがあった。
歪みが開く気配が皆無で第三者が絡んでいる以上は、ここで生きる術を考えるべきだ。
この機会を逃せば恐らく次はない。
二人は目を合わせると、思考を共有して頷く。
「ここでお世話になっても構わないでしょうか?」
代表して舞が意思を表明して、レイは満足げに首肯を返した。
自分の力に関しても知ることが出来るかもしれず、そこから前の世界に戻る糸口が見つかるかもしれない。
それに輪としていつまでも舞のヒモのような生活を続ける気はなかった。
そして、レイから続く言葉は奇しくも先程に見たものと似たものだった。
「ようこそ、アスガルド法立魔導院へ」
そして、ここからが輪と舞の本当の戦いの始まりだったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます