僕と黒剣 short ver.

暗黒星雲

第1話 殺人事件

 僕はいつものように自転車に乗って登校した。しかし、校門の前には人だかりができていて、中には入れなかった。


「おはよう」


 突然、後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには黒剣がいた。


 黒剣こくけん


 勿論愛称だ。彼女の名は黒沢くろさわつるぎ。こんな名前でも女の子だ。


 日本人離れした褐色の肌をしているエキゾチックな美少女。僕が気になっている女の子だ。突然彼女に声をかけられて、僕は物凄く驚いてしまった。


「殺人事件だ。今日は休校だな」


 更にビックリして転倒しそうになった。殺人事件だなんて信じられない。


「本当?」


 僕の言葉に黒剣が頷く。


 教頭先生が出てきて大声で帰宅を促した。理由は言ってなかったけど、休校になっていたのは本当だった。


 殺人事件。

 つまり、学校で誰かが殺された。

 

 何で黒剣は知っているんだ。


 彼女は薄ら笑いを浮かべていた。


「休校になったな。サイクリングでもしよう」

「サイクリングって?」


 黒剣はニヤニヤしながら僕が跨っている自転車を指さした。

 まさか、二人乗りする気なのか?


 自転車の荷台に横座りする黒剣。彼女は僕の腰に手を回した。


「早く出せよ。二人乗り出来ないのか?」

「違法なんだけど」

「気にするな」


 僕は黒剣の考えていることが分からなかった。これじゃあじゃないか。


 僕は自転車をこぎ始めた。


「どこに行くの?」

「人気のない場所」


 黒剣の言葉に頷いて自転車を走らせる。僕は河原の公園へと向かった。平日の午前中なので人はまばらだ。


 二人でベンチに座った。こんな所で二人っきりになるなんて信じられなかった。もう、爆発するんじゃないかって位に心臓がドキドキしていた。


 僕は多分真っ赤になっていただろう。でも、黒剣は何事もないように落ち着いていた。


「聞きたいことがあるんじゃないのか?」


 そう。

 何故、休校になった理由が殺人事件だって知ってたのか。


「どうして殺人事件があった事知ってたの?」

「監視カメラに映ってた」

「そんな事分かるの?」

「簡単さ」


 黒剣はスマホを取り出し、映像を見せてくれた。

 そこには、警察関係者が現場検証をしている様子が映し出されていた。その中心に誰か倒れていた。


「それ。殺人現場なの?」

「ああ、理科室だな」


 理科室に遺体があった。

 それは物凄くショッキングな映像だった。


「それ、誰かな?」

「用務員の佐倉さんだよ」


 元々建築関係の仕事をしていて、何でも修理する器用な人だと聞いたことがある。仕事熱心で親切で人懐こかった。そんな良い人が何故殺されたのだろうか。


「何で殺されたのかな?」

「私が知っている筈ないだろう」

「それもそうだね」

 

 僕は引きつった愛想笑いをしていた。でも、黒剣は冷静に見えた。


「学校で殺人事件があるなんてビックリするよね」

「まあな」

「学校がないと何していいか分かんないよ」

「そうか?」


 黒剣は僕の方を向き顔を近づけてぼそりと言った。


「ちょっと冒険してみたくはないか?」

「冒険って何さ」

「不純な事」


 黒剣の言葉にドギマギしてしまう。

 何だ、誘われているのか?

 いやこれは、からかわれているに違いない。


「からかわないでくれ」

「意気地なし」


 蔑まれたと思った。僕は俯いて、両手を握りしめていた。


「冗談だよ。事件の方さ」

「事件って?」

「ああ、今朝の事件さ」

「事件をどうするの?」

「犯人を捕まえるんだ」


 僕たち高校生にそんなことができるわけがない。そう反論しようとした僕の唇は、黒剣の人差し指で押さえられた。


「今回の犯人は警察では捕まえられない。だから私がやる」


 自信満々だった。


「犯人が分かっているの?」

「大体な」


 まさかそんなことが……しかし、黒剣は監視カメラの画像を簡単に入手していた。しかし、そんなものは警察だって入手している筈。


「この事件に興味はないか?」


 僕を見つめる黒剣。

 興味がないはずがない。


 僕は黒剣の目を見ながら即答していた。


「ある。真相を確かめたい」

「いい返事だ。よろしく頼むよ」


 黒剣が差し出した右手を握った。


 黒剣と一緒に事件を追う。

 僕はこのシチュエーションに胸が高鳴るのを押さえられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る