あなたが写る世界は

村濱よろず

第1話

人は事故に遭う瞬間冷静になるらしい。時が止まったみたいに。友達曰く、「多分成す術がないことを本能が自覚して巡り巡って冷静になるんだよ」だと。信憑性もなければ、実際事故に遭ったことなんてなかったし、実感出来なかったけれど。実際に経験してみると、友達のいうことも聞いておくもんだなっていうのが感想。

あ、やばい私死ぬかも。まぁ、平凡だったし、特別不幸なことがあった訳ではないしいっか。子供一人守って死ねるなら悪くない人生か。あー、でも、出来ればやっぱり、拓海の写真撮りたかったかもな。

今の私のこの考えている時間は、世界にとってはいつもと変わりのない平凡なごくありふれた1秒や2秒なのだろう。私にとっては今までに体験したことがないくらいに長い時間に感じているが。

子供を歩道へどうにか投げ飛ばす。やけに鮮明に聞こえるトラックのクラクションに、周りの悲鳴。泣け叫ぶ子供の声。ごめん。強く投げ飛ばしすぎた。泣かないで、あなたはもっと長生きして好きなことして生きていくんだよ。君なら大丈夫。

私はそこそこの人生だったよ。ちょっとの心残りだけは置いていきそうだけど。

覚悟を決めて迫ってくるトラックを最後に残し目を閉じる。

「華!!!!!!!!」 

愛しい人の声を最期に私の意識は途切れた。

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