第80話 伝説の幕開け

そして伝説へ。



「食べやすいサイズに切ったサバを出し汁に潜らせます」


「「「はい!」」」


「時間に余裕があるときは、あらかじめサバの臭みを取っておくと、さらに美味しく仕上がるわよ」


「「「はい!」」」



 さて、ここで正面のカメラから鍋へ寄ったカメラに切り替えてと。


 パチンッ


 料理する手は止めずに尻尾を上手く使って切り替えスイッチを押す。


 どう?この滑らかなカメラ切り替え。

 見ている生徒さん達を待たせることなく、流れるようにスピーディーに調理工程が配信できる。

 これが人間には出来ないリモート教室。『Remote KAWAUSO Cooking』の醍醐味!



「あのー先生!何かカラスが騒いでるので、もしかしたら質問があるのかもです」


 ご新規さんの画面からそんな言葉が聞こえてきた。


 なになに……カラス?

 あぁ!そういえば貴方も参加してたわね。

 確か「カラスたるもの主様の為に料理も完璧にこなして然るべき」とか言っていたわね。


「どうしたのよ」


「カァー!クゥアア……」


「ふーん」


 『出し汁にサバを入れようとしたら、一緒にくちばしも入れちゃって火傷した』って?


 マヌケね。


「貴方はとりあえず、火を使わないで済む魚肉ソーセージ料理をメインにしなさい」


 ……

 …………



 ——授業開始から40分後。



「次は人参を使って料理に華を添えるわ。みんな好きな形に人参を切って、サバを彩って下さい」


「「「はい!」」」



 飾り人参……私は何にしようかしら。

 ……そうねぇ。華を添えるって言うくらいだし、花にするわ。薔薇が良いわね。


 シュパパパっ!タンッ!サクサクっ!


 ふぅ。こんなもんでしょ。それなりの出来栄えだわ。


 ——なんということでしょう。目にも映らぬ神速の包丁捌き。リアルと見間違うほど精巧な薔薇人参が見る者の心を惹きつけます。



 さて、生徒さん達はどんな感じかしら。

 1人1人に画面を切り替えてっと。


 ご新規さんは……花びらね。型抜きを使うなんて邪道だけど、まぁいいでしょう。


 シルヴィアは……何かしら?百舌の速贄みたいな気味悪い物体が出来上がっているわ。


 花ちゃんは……流石ね!うさぎなだけあって、人参を使わせたら右に出る者はいないレベルね。うさぎを模した素晴らしい飾り人参だわ。



 ……ひと通りみんなのも見終わったし、私の薔薇人参を見せつけちゃおうかしら。

 

 カメラにアップで映して……よし!


「みんな私の飾り人参を見なさい!これがお手本よ!」



 さくらさんの飾り人参が映し出されると生徒達は予想通りに感嘆の声を上げた。


 『うわぁ〜もう本物だよぉ』

 『…………綺麗』

 『先生すごい』


 生徒達に褒めれてドヤ顔で踏ん反り返っているカワウソ。

 女王のような威厳を放ちつつ優越感に浸っているカワウソ 。




 ——そんなカワウソが開催するリモート料理教室は、パソコンがあれば誰でも簡単に参加でき、しかも"参加するだけで動物の気持ちが何となく理解できるようになる"と、いつしか噂になる。気づけば獣医や動物園の飼育員達の研修に組み込まれる程になっていくのであった。



そして伝説へ。

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