第70話 七夕

儚い望み。



「さくらさんは七夕って知ってる」


「キュイッ」


 仕事に行く前の朝食の時間。

 今日は七夕なので何となく聞いてみた。


 タタタタッ


 さくらさんはドヤ顔を見せながら、ベランダへと向かっていった。


 さくらさんに誘われてベランダの外を見てみると……



 そこには立派な笹が——。





 あっ、はい。ご存知みたいですね。



「じゃあ仕事から帰ったら一緒に短冊つくるか」


「きゅ!!!」




ーーーーーーーーー


「さくら先生、赤ペン貸してください」


「嫌よ」


「そんなこと言わないでくださいよ!私の願いは赤で大きく書きたいんですから」




 仕事が終わり、短冊を作るために急いで帰ろうとしたら……


「先輩、今日は七夕ですね!何か急いでるってことは、短冊でも作るんですか?さくら先生と?2人で?良いですね楽しそうで。あーあ、私は1人寂しく願い事でも書きますね!!」


 なんて、とてもイイ笑顔で後輩が話しかけて来たので、「お前も来るか?」と聞く以外の選択肢が俺には無かった。



「さて、みんな書き終わったか?そしたら飾るぞ」



 ベランダに飾られた笹を前に、どこに飾ろうか考えていたら……



「誰にも見られないように、天辺は頂きました!!」


「キュイッーーーー!!!」


 高いところに飾ろうと醜い争いが起きていた。



 はぁ……。

 じゃあ俺は無難に真ん中あたりにサラッと飾っておこう。



 ——天辺にはさくらさんの短冊。


 その少し下にある短冊を悔しそうな顔で睨んでいた後輩を見送り、バタバタとした七夕は終わりを迎えた。




 後日——。


 笹を片付けようとした時に、つい気になってみんなの願いを見てしまった。


 …………見てしまった・・・・・・





 天辺で存在感を放つ、やけに達筆な"排除"の2文字。


 その禍々しさすらある短冊の少し下に、

 赤色で大きく輝く"排除"の2文字。




 怖ぇよ。

 あいつら……何を排除するんだよ……。



 さらにミミズの這ったような文字の見知らぬ短冊も何故かあった。


「何だこれ?ん?は……いじ……よ?」


 ………………排除。






("先輩と付き合いたい"とか書きたいけど、さくら先生が凄い睨んでくる!!……こうなったら、先輩に近づく悪い虫は"排除"っと)



(彼と私の仲を邪魔するものは"排除"っと)



(主様に害を及ぼす者は"排…はいじょ"ですわね。漢字がわかりませんわ。くっ、カラスには文字を書くのは厳しいですわね)





 なんて物騒な願い事なんだ。

 俺なんて"みんな仲良く健康に"って書いたのに……




 儚い望み。

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