第21話 交差①

龍虎交わる。




「「「よろしくお願いしまーす」」」


今日は親方に頼まれていた、料理教室の先生をする日。


親方は「川獺」って日本料理店の店主で、私の料理の師匠です。


ーーーーーー


「さくら!」


「キュイッ!!」


「実は倅の嫁が料理教室をやってて、たまにで良いから、そこで先生をして欲しいって言われててな。俺はそういうのは性に合わないから、お前が行ってひよっこどもを揉んでこい!」


「キュイッ!」



ーーーーーー



「今日は新しい先生が来てます。カワウソのさくらさんです」


「キュー」


カッカッカッ…カッカッカッ


『日本料理店「川獺」

(月〜金 14:00〜22:00 土日祝 定休

おすすめはサバ料理)

見習い さくら』


黒板があったのでせっかくだからお店の紹介をしておこうかしら。

お客様が増えて親方も喜ぶ。

できる弟子は営業活動も忘れないのよ。




ざわざわ……ざわざわ


「「カワウソ?」」

「「え、冗談でしょ」」

「「達筆…」」


「…………………」








私は見つけてしまった。


あたりが驚愕と困惑に包まれる中、周囲に流されることなく、微笑みながらこちらを真っ直ぐ射抜く1人の女を。



男を包み込み、そして包み込まれることに特化したそのフォルム。

出るとこはしっかり出ていて、それでいて一切のバランスが崩れていない。

神の作った彫刻のような肢体。


明るく元気なオーラを纏いながらも、どことなく男の保護欲を誘う雰囲気。

現代に舞い降りた天使を彷彿とさせる。


その微笑みは全ての疲れを癒し、同時にやる気を出させる魔性の笑み。

ナイチンゲールのように戦場で傷ついた戦士たちを癒し、再び前線に送り出す微笑みの悪魔。



そう。まるで獲物を捕らえるためだけに生まれた食虫植物。

男を虜にしては決して離さない、まさにマンイーター。



(危険だわ。危険。彼女とは、また近いうちに会う気がする)


(いいえ!絶対に会うわ!)




なぜなら……


彼女から彼の匂いがするわ。





龍虎交わる。

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