第17話 約束

勇気が欲しい。




いつもの社員食堂。


いつも魚肉ソーセージ。


そんな代わり映えのしない光景。


しかし、今日は1つだけ違うことがある。

俺の目の前には、お弁当が2つあるのだ。



さっき食堂に行く前に、最近ますます男から人気が出てきた後輩から渡されたものだ。



「先輩っ!約束覚えてますか?良いものを作ってプレゼントするってやつです!」


もちろん覚えていた。


「いつも魚肉ソーセージばっかの先輩のために、特別に私がお弁当を作って差し上げました!!」


「と・く・べ・つ、なんですからね!感謝してください」


あ、ありがとう…。




(ちゃんと渡せた!良かった)

(料理なんてしたことなかったから、上手くできるようになるまで時間がかかっちゃった)


彼女は絆創膏だらけの指をモジモジさせて、何を呟いているのだろう?





「じゃぁ先輩。私はこれで失礼しますね!」



「一緒に食べないのか?」

てっきり一緒に食べるものだと思っていた。



「あ…目の前で食べられるのは、いきなりハードル…高……恥ず……ですし…」


「とにかく失礼します!あっ、感想は後でちゃんと聞かせてくださいね。特に好みの味付けとか!ではっ!」

そう言って去っていってしまった。





「良かったじゃないか」

頼れる先輩はずっとニヤニヤして見ていた。

最近仕事の調子が良く、近々昇進するらしい。



さて、渡されたこのお弁当だが…どうしたものか。

可愛い後輩から貰ったものだ。

嬉しいし、食べることは当然決まっている。




だが、蓋に手を伸ばすことが出来ない。




さっきから背中に突き刺さっているのだ。


普段後輩を取り巻いている野郎たちの視線が。怨念が。


まるで、生者を見つけた亡者のような目で、確固たる殺意を伝えてくる。


『食べたら殺る。食べなくても殺る。…殺る。』



目の前のお弁当が、まるで爆発物のように感じられてきた。


ゴクリッ


気分は、最後に赤と青の導線で悩んでいる、爆発物処理班のようだ。


行けっ!俺っ!勇気を出せっ!


……。

……………。





「なんだ?早く開けろよ」

パカッ



あっ…。


爆発物は頼れる先輩によって、いとも容易く処理された。

せ、先輩。あんた、勇者だったんだな。



「誰の目も気にすることないだろ。あいつがお前のことを想って作ったんだから」




(おオォォォおお…)


感じるぞ。

先輩の言葉を聞いて、亡者達が浄化されて消滅していくのを感じる。

せ、先輩。あんた、僧侶だったんだな。





勇気が欲しい。

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