第5話 昼
お米が食べたい。
さくらさんが用意してくれたであろう朝食は、とても普通だった。
あの器用さを目の当たりにしては、すごい美味しさを想像せずにはいられなかったが、とても普通だった。
そんな朝の衝撃が抜けきらないまま、とりあえず会社に来たものの仕事に全然集中できない。
気になることがありすぎる。
なぜカワウソが料理を…。
いや、あんな達筆な字を書くくらいだ。
もはや何が出来ても不思議ではない。
そもそも、どうしてウチに?
どこかで飼われていたのが脱走したか?
つい、勢いで受け入れてしまったが…
そんなことを考えていると、
「よし、飯にしようぜ!」
と声をかけられた。
面倒見と恰幅が良く、仕事も出来るので、とても頼りになる先輩だ。
さくらさんのことを相談してみるか…?
「珍しいな弁当なんて。彼女でも出来たか?」
社食でいつもの生姜焼き定食を注文した先輩が、ニヤニヤしながら聞いてくる。
そう。
俺の前には、成人男性が持つには少し小さく、可愛らしいデザインのお弁当箱が置かれている。
実は、朝家を出るときにさくらさんが渡してきたのだ。
家を出ようと玄関を開けた時、
「キューッ!キュー!」と、
さくらさんが慌てた感じで走って来た。
一旦リビングまで戻り、キューと指さす方を見ると、綺麗にハンカチで包まれた四角い形状のものが。
「……お弁当?」
「キュイッ!」
そして今に至るというわけだ。
「そうか、そうか。お前にも春が来たか」
などと一人で納得している先輩は放置して、
俺には気になることがある。
このお弁当箱はどこにあったんだ?
ウチにこんな女ものの弁当箱なんか無いはずだ。
うーん…
考えるのはやめよう。さくらさんは謎多きメスなのだ。
しかし、こうやっていざお弁当を前にしてみると、とても嫌な予感がする。
頭の中で俺の第六感が警鐘を鳴らしている。
この漏れ出る匂い。
これはまさか……
パカッ
おぉ、なんということでしょう。
現代アートもびっくりな形状に切り揃えられた魚肉ソーセージ。
そしてそのオブジェの周りには、さながら姫を守る歴戦の騎士のような荘厳な雰囲気で敷き詰められた…
サバ。
お米が食べたい。
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