ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜
坂東太郎
『プロローグ』
プロローグ1 俺、よくわからないけどゴブリンになってた。
気づいたら森にいた。
いや俺さっきまで、さっきまで……何してたんだろ。
いまいち思い出せない。ボケたかな?
俺がいま森にいるのは間違いない。
目の前には低い木が生えていて、すぐ横には太い木がある。
横を見ても木、後ろを見ても木。
うん、森だ。
低い木からちょっと顔を出して前を見る。
前にもやっぱり木が生えてて、その先には道があった。
道には馬車が倒れていて、血まみれで転がってる男と緑色の小人たちがいる。
……うん?
待って、ちょっと待って。
馬車が倒れていて?
血まみれの男?
緑色の小人?
もう一度、今度はそーっと顔を出す。
やっぱり馬車が倒れていた。
おかしくね? え? 馬車? イマドキ?
血まみれで転がってる男は二人。
血が染み込んだのか地面の色が変わってる。二人の男はピクリとも動かない。
えっと、血は1リットル流れたら死ぬんだっけ? もっと出てるよね? でかいペットボトルぶちまけてもここまで濡れないもんね?
そこまで考えて、俺はスルーしてた現実に目を向ける。
緑の小人。
身長は130センチメートルぐらいで、耳は尖り、ワシ鼻で、額に小さな角がある。
……ゴブリンじゃんね。
これファンタジーに出てくるゴブリンじゃんね。
うん、問題はそこじゃない。そこでもあるんだけど。
低い木からそっと顔を出す時、俺は手で枝を押さえた。
緑色の、手で。
よし、現実を見よう。
俺の手は緑色で、裸の上半身も緑色で、額を触ったら角っぽいものがあった。
……ゴブリンじゃんね。
これファンタジーに出てくるゴブリンじゃんね。
「なにコレ……コスプレかな?」
小汚い爪で肌をひっかいてみる。
ミミズ腫れができた。
「塗料じゃないんだ……うんごめん、気づいてた。だってしゃべってるつもりなのに、聞こえるのはゲギャグギャ言ってる声だけだもんね! なんでか理解できるけど!」
俺、ゴブリンらしい。
なんだかわからないけど、気づいたらゴブリンになってたらしい。
「ゴブリン、かあ……こんなモンスターがいるってことはここはファンタジー世界な感じ? 待て待て待て、じゃあこうチートとか! 神様と会った覚えはないけど!」
ステータスオープン! メニュー! あ、待って、ログアウト!
いろいろ試してみる。
まああいかわらずゲギャグギャ言ってるだけなんだけど。ハハッ!
「スキルウィンドウ! ってマジかよ!」
チュートリアルなしでいきなり森の中でゴブリンで、元は人間だったと思うけど何してたかいまいち思い出せない。
ハードモードすぎィ! これじゃチートとかそんな甘くないんじゃね? と思いつつ試してたら、頭の中に情報が流れてきた。
【スキル】
【称号】
森の
………………。
スキルあるのかよ! ってかただの覗き魔じゃん! 【逃げ足】があるから捕まらなくて安心だね! 【夜目】も利くしね! ハハッ!
違うんだ、俺が求めてたのはこういうスキルじゃないんだ……。
もっとこう、経験値倍増とかスキル強奪とか、食べるだけで強くなるとか神の寵愛とか、武の才能とか大賢者とか……。
もっとこう、あるじゃんね。
しかもなんだよ称号【森の
ゴブリンかよ……。
思わず地面にヒザも手も付けちゃったのはしょうがないと思う。
俺、ゴブリンになったけどチートなしらしい。
スキルウィンドウって言ったらスキルが頭に浮かんだクセに操作できないし! いや待って、レベルとか! レベルアップとか進化とかあるかもしれないから! まだあわてるような時間じゃない! まあ種族もレベルも頭に浮かんでこないけどね! 項目ないのかな? ハハッ!
………………。
キツくね? ゴブリンだよ?
各種ファンタジーでわりと最弱だったりするゴブリンだよ?
しかも生前の特殊能力もチートもなしだよ? それで明らかに人間と敵対してる感じだよ?
ほら、ほかのゴブリンは馬車を襲って人間を殺して、生き残りの若い女の子の服をびりびり破っていまにも犯し……え? ナニコレ。お仲間ゴブリン何してんの?
「男は殺せ! 女は犯せ! ヒャッハー、今日はお祭りゴブ!」
ゴブってなんだよ! 語尾がゴブってゴブリンだからか! バカか! バカなのか!
あとなんだその方針! 黒犬騎士団か! ゴブリンってエロゲ仕様かよ! 黒犬でも傭兵団の方かよ!
ってかゴブリンの言葉がわかるのかよ俺! そうだね、スキルに【ゴブリン語】あったもんね! 俺ゴブリンだしね! ハハッ!
ツッコミを心の中で止めた自分を褒めてやりたい。
たぶん仲間だと思うけど、あのゴブリンたちは敵対者かもしれない。違うわ、敵対ゴブかもしれない。
もし敵だったら瞬殺だ。俺が。なんか八匹もいるし。
でもビビったんじゃない、これは状況確認のためだ。
八匹のゴブリンに取り囲まれて、なぶるように服だけ破かれてる女の子をなんとか助けるため……お、巨乳だ。やべえ、かわいい。
ハッ、ダメだ、これじゃただの覗き魔だ! まあスキル構成は覗き魔仕様だけどね!
どうしよう、やっぱり助けるべき、でもちょっと距離があるから不意打ちもできないし、ちげえし、覗き魔でも臆病者でもねえし、いま助けに行くところだし、ちょっとチャンスをね? 待っててね? ほら、誰か来るかもしれないじゃん? そのスキに、みたいな。
よくあるじゃん、ほら、女の子のピンチにヒーロー的なアレが通りかかって、そうそう、こうやって馬車が通りかかって……え? 馬車?
俺の(たぶん)尖った耳に、カッポカッポって馬の足音と、ガラガラと車輪が回る音が聞こえてくる。
チラッとその方向を覗き見る。
スキル【覗き見】あるしね! 覗きなら任しとけ! ハハッ!
森の木々の切れ目から、馬車と人間の姿が見えた。
人間たちは倒れる馬車とゴブリンを見つけたらしく、馬車から飛び降りて走り出す。
速い。
速いっていうか、え、馬車より速いんですけど、なにこれヤバくね?
『**********!』
『****、*********!』
あ、人間はなに言ってるかわからないんだ。
スキルないもんね! ほら俺ゴブリンだしね!
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