第146話凪
二千二十年三月末日。関東某所の某霊園。俺は桜と一緒に渋原家の墓がある一画を訪れた。
その手には妻、凪の遺骨を持って。
俺は管理人さんにお願いして墓石の蓋を開けてもらい、凪の遺骨をその中に入れる。
一族が眠る墓の横にある小さな墓。そこが凪が眠る場所になる。
管理人さんは蓋を閉じて……
「渋原さん、これで終わりましたよ」
「ありがとうございます」
「奥様ですか?」
「えぇ。ここにいれば妻も寂しくないでしょう」
「そうですね。私共も管理させていただきますからね。どうか気を落とさないように……」
「はい」
管理人さんはお辞儀をして去っていく。ここにいるのは俺と桜だけになった。
線香に火を付ける。桜は桶の水を柄杓ですくい凪の墓にかける。
綺麗になったところで俺は線香を凪の墓に。
手を合わせ、桜が物言わぬ母に話しかける。
「ママ…… これで寂しくないね…… 私ね、こないだ中学校を卒業したんだよ。ママにも見せたかったな。高校には行かないの。パパと違う世界で生きるんだ。そこにはね、チシャっていうかわいい妹がいるんだよ。とってもかわいい女の子。おっきな猫耳があってね。私達の帰りを待ってるんだ。だから…… ママ、ここでお別れだね……」
桜の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
もう一度母の墓に手を合わせる。桜はハンカチで涙を拭いて……
「ふふ、やっぱり寂しいね」
「あぁ。俺もだよ」
「ねぇパパ、ママとお話したいでしょ? 私向こうの売店でジュースでも飲んでるよ。ゆっくりママと話してていいよ」
そう言って桜は売店に向かう。俺に気を使ってくれたみたいだな。
それじゃお言葉に甘えるか。
俺は手を合わせてから妻に話しかける。
「なぁ凪…… 俺はやっと帰って来れたよ。君のおかげだ。君のおかげで帰って来れたよ。ありがとな。あのさ…… 俺仕事辞めたんだ。みんなびっくりしてたけどな。部下にも俺がいなくなっても問題無いぐらい引継ぎはしっかりやってきた。課長の負担は増えるかもしれんが、あの人なら大丈夫だろ。お客さんへの挨拶もしたしさ、やれることはやった。
父さんと母さんを説得するの大変だったよ。変な嘘つくのも嫌だったから全部正直に話したんだ。俺を心配して病院に連れてこうとしたりしてさ。でも俺の魔法を見せたら驚いてたけど、納得してくれたよ」
桜を連れていくことは反対してたけどさ、でも桜自身が異世界で生きていく決心をしていたので、父さんも母さんも最終的には賛成してくれた。でも桜の花嫁姿は見られないって泣いてたな。
「あのさ…… 考えが甘かったよ。転移装置さえあればいつでも日本と異世界を行き来出来るものだと考えてた。これを見てくれよ」
俺は自身に
名前:ライト シブハラ
種族:人族
年齢:40
Lv:336
HP:6E+7 MP:3E+7/6E+7 STR:6E+7 INT:6E+7
能力:剣術10 武術10 創造 10 料理10 結束 分析10 作成10 障壁10 閃光10 指圧10
魔銃10(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー スナイパーライフル アサルトライフル TLS)
特殊:血の輪舞 アルブの恩恵8 守護者 CQB 破殴拳
亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ サイドカー 馬力向上
「分かるかい? MPが回復しないんだ。この一年ずっとこの状態なんだ。多分転移の触媒になったからなんだろうな。つまり…… 俺に残されてるのは異世界行きの片道切符しかないってことなんだ。
桜は私が触媒になるって言ったけど、もちろん断った。娘にあんな痛い想いはさせられないからな。転移装置にオドを吸い取られる時なんて何回死を覚悟したか分からないぐらいだ。桜にはやらせないから安心してな」
恐らく次の転移を行えば死にはしないだろうが、俺のMPはゼロになる。
もう一生魔法は使えないだろう。魔銃や各種能力は一切封印される。
でも後悔は無い。転移した先にはフィーネがいるからだ。
魔法が使えなくとも彼女と共に生きる未来があれば……
「ははは…… ごめんな。君の前でフィーネのことを考えて。なぁ凪? 俺は君を裏切ることになるかもしれない。許してくれなんて都合のいいことは言わない。恨んでくれて構わない。俺は…… フィーネと一緒になりたい。凪…… 本当にすまない……」
凪のことを思い出す。
出会いは大学一年生。一般教養でいつも同じ席に座っていた。
お互い地方から出てきて一人暮らし。次第と話すようになり、距離が近くなってきた。
俺は凪に魅かれていた。かわいくって、おもしろくって。
俺達が二年に上がる前に告白した。
凪は驚いてたけど、笑って俺の告白を受けてくれた。
時々けんかはしたけど仲良くやっていた。
卒業と共に同棲するようになって仕事が安定してくる頃に結婚した。
凪は妊娠して桜が産まれた。幸せだった。
でも…… 凪は病にかかり、桜が中学に上がる前に死んでしまった。
もう恋なんてしない。誰も好きにならない。凪が俺の全てだった。
でも…… 異世界転移して、フィーネと出会い、気持ちに変化が現れた。
フィーネの好意を知って、俺自身もフィーネに魅かれていった。
そして結婚の約束をして……
「なぁ凪。俺はフィーネと一緒になるよ。決めたんだ。ごめんな。本当にごめんな……」
涙を流しながら凪の墓に手を合わせる。答えは帰ってこない。
ふと風が俺の頬を撫でる。
スッ……
まるで頬を手で撫でるように。
今のは…… 都合のいい解釈なのかもしれない。
もしかしたら凪は俺を許してくれないかもしれない。それは俺への罰として受け止めるつもりだ。
俺は涙を拭いて立ち上がる。行かなくちゃ。凪の墓に背を向けた時……
『来人君…… 幸せになってね……』
聞こえた気がした。急ぎ後ろを振り向く!
が、そこには誰もいない。でも確かに聞こえた……
これは…… 俺は許されたのかな?
「凪…… ありがとう……」
俺は凪の墓をあとにした。
売店に行くと桜がジュースを飲みながら俺の帰りを待っている。
「パパ、お別れは済んだの?」
「あぁ。もう大丈夫だ。それじゃ桜…… 行こうか」
「でもパパ…… やっぱり私が触媒になった方が……」
「その話はしない約束だろ? 俺がやる。お前を危険な目に合わせるわけにはいかない」
「もう頑固なんだから……」
「そういうことだ。行くぞ!」
俺は転移装置を取り出す。一年振りだな。これを使えば俺は魔法が使えなくなるのか。
まぁ大した問題じゃない。生きていれば何とかなるさ。
転移装置に手をかざす。以前と同じように呪文が頭に浮かんでくる。
そして痛みを感じた時…… それは起こった。
胸に下げてあるお守り。フィーネからもらったお守りが…… はじけ飛ぶのを感じた。
そして俺は……
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