第140話最後の戦い 其の一

「準備は出来たようだな。負けるつもりは無い。己が理想のためにお前を倒す」

「そうか。なら俺は家族のために戦おう。かわいい娘の未来と将来の嫁さんとの明るい未来のためにな」


「ははは! そうか、ならばお互いの想う未来を賭けて!」


 バルゥも剣を構え…… 


「「勝負!!」」


 バルゥの剣と高周波ナイフが火花を散らす。

 俺は初撃を受け止めることが出来たが……



 ドゴォッ ベキィッ



「ぐはぁっ!?」


 一瞬だ。剣撃を受け止めたと思った次の瞬間に俺は背中に激痛を感じた。

 痛ぇ…… 何が起こった? 痛む体を無理やり起こす。

 急ぎ右手にハンドキャノン、左手に高周波ナイフを逆手に持って右手に添える。

 CQBの構えをとるが…… バルゥとの距離が遠い。俺は吹っ飛ばされたのか。


「すごい一撃だったな」

「はは、その言葉をそっくりそのまま返そう。二太刀要らずの剛の剣を受け止めるとはな。お前が初めてだ」


「それは光栄だな…… うっ!?」


 

 ズキィッ



 背中に激痛が…… 肋骨にひびが入ったか折れたかだな。

 近距離ではバルゥが有利。奴の得意距離に付き合う必要は無い。

 俺はハンドキャノンの銃口をバルゥに向ける。


「拳銃か。懐かしいな」

「知っているのか。そういやお前はアメリカに行ったんだよな」


「あぁ。これでも銃器の扱いは上手いぞ。そのおかげかこんな魔法が得意になった。エアバレット!」



 バシュッ!



 バルゥが魔法を放つ! 速い! 

 高速回転を発動しているので、ギリギリ避けられる速さではあるが、体感としてプロ投手の剛速球が迫っているように感じる。

 障壁を張るか? いや駄目だ。障壁は無敵の盾だが発動後に僅かに隙が出来る。

 遠距離攻撃も出来るバルゥがそれを見逃すはずは無いだろう。


 なら素直に避けるだけだ。バルゥが放った魔法は速度はあるが、動きは直線的なものだ。

 軸をずらして魔法を避ける。

 


 バキィッ



 船の縁が砕ける音がするが見ている暇は無い。

 すぐさまハンドキャノンを発砲!



 ドドドドドドンッ



 六発の弾丸がバルゥを襲う! 

 バルゥは避けることなく剣の腹を顔と正中線に合わせ銃弾を受け止めた。



 ギギギギギギンッ



 剣と鎧に弾かれ銃弾が明後日の方向に飛んでいく…… 

 バルゥは笑いながら剣を下す。


「ははは! 見事な腕だ! 全て急所を狙ってきたな! 鎧越しとはいえ、痛みを感じるなど久しぶりだ! 楽しいな! 私に傷をつけるなどこの数千年無かったぞ!」


 バケモノが…… でもダメージは通っているのか。

 奴のステータスを確認。



名前:バルゥ

年齢:6421

種族:アルブ・ネグロス

Lv:509

DPS:1093477

HP:8855622/890622 MP:203630 STR:786501 INT:108521

能力:剣術10 武術10 全属性魔法10

異界の知識10 限界突破



 クリーンヒットじゃないが、それでも五千は削れたか。

 俺の方がダメージを喰らってるのは間違いないがな。

 さてどうやって戦うか。敵は自分の力を信じて真正面から攻撃してくるタイプだろう。

 なら…… 小細工を弄すか!


 武器をハンドキャノンからアサルトライフルに変更! 


 すぐさま構えトリガーを引く!



 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタンッ



 乾いた発砲音が鳴り響く! 

 このアサルトライフルは威力は低いがリコイルコントロールがしやすく、なによりレートが高い。

 バルゥは先程と同じように急所を庇うが……


「ふん。蟲に刺された程度だな。ライト、お前ふざけているのか?」

「はは、そうかもな」


「そうか…… ならお仕置きが必要だな!」



 ダッ!



 バルゥは防御を捨て突っ込んでくる! 

 俺は即座にスナイパーライフルに持ち代える!


「笑止! この距離で長物など使えるはずもなかろう!」

「そうでもないぞ!」



 ガォンッ ガキィンッ



 独特の発砲音がしたと同時にバルゥの体が後方に吹っ飛んでいき、そのままダウンする。

 その体からプスプスと煙を上げて。使った弾丸がメガ・エクスプローダーだからな。

 俺は倒れているバルゥに向かって……


「起きろよ。これで終わりなはずはないだろ?」


 俺の言葉を聞いてゆっくり起き上がる。


「つっ…… はは、まさか私が倒されるとはな。しかしお前が使った武器は狙撃銃だろう? あの距離では使えるはずは……」


 その通り。スナイパーライフルはスコープを覗いていないと正確な射撃は出来ないし、距離が近すぎても狙いが付け辛い。

 だが付け辛いだけで使えない訳ではない。俺がやったのは……


「腰撃ちだよ。エイムしてなくても銃は撃てる。撃つ距離さえ見誤らなければ近距離でもスナイパーライフルを命中させることが出来るからな」

「なるほどな。私が知らない技術だ。ライト、お前は軍人か? 銃の扱いにも慣れているし、戦いのセンスもある。元の世界では名のある軍人だったのだな?」


「いいや、ただのサラリーマンだよ。少しばかりゲームが得意なだけのな」


 一撃を与えることが出来た。奴の体力は……



名前:バルゥ

年齢:6421

種族:アルブ・ネグロス

Lv:509

DPS:1093477

HP:8255622/890622 MP:203630 STR:786501 INT:108521

能力:剣術10 武術10 全属性魔法10

異界の知識10 限界突破



 クリーンヒットで六万か。いけるな…… 

 だが今の方法はもう使えない。

 あれはPVPにおいては距離を詰められ、近距離武器に持ち代える暇が無い時に使う奇策みたいなものだ。

 常に使ってキルし続けられるものではない。


 次の一手。俺はバルゥに見えないようフラッシュグレネードを創造し即ピンを抜く。

 ハンドキャノンを構え、バルゥに向かい突進!


 バルゥは剣を後ろに構える。横に大きく薙ぎ払うつもりだろう。奴の制空圏までもう少し。


 2……


 1……


 俺は倒れるように地面に伏せる! 

 フォンという風切り音と同時にフラッシュグレネードの炸裂音も聞こえた!



 カッ



「うっ!」


 バルゥがひるむ声が! 俺は大きくジャンプする! 

 武器をショットガンにチェンジ! バルゥは目潰しを喰らいながらも剣を振るうが…… 

 既に俺は剣が届く間合いにいない。空からバルゥ目がけショットガンを発砲!



 ドドドドドドドドドドンッ



 十連射のスラッグ弾が放たれる! 

 このショットガンは反動が大きすぎるため、数発は外してしまったが、大半はバルゥに命中。

 すぐさまハンドキャノンに持ち代え、バルゥの背後に着地。

 そのまま後頭部に狙いをつけて……



 ドドンッ



 二発だけ発砲。バルゥはすぐに反撃に移るだろう。

 俺は距離をとるが…… 



 フォンッ ザクッ



 バルゥが回転切りを放つ。頬に熱を感じた。

 くそ、間に合わなかったか。

 鮮血がほとばしる頬を押えつつ、さらにハンドキャノンを構えるが……


「くっ…… ははは! 見事! 見事だライト! お前が強いことは分かっていたが、ここまでとはな! 騒ぐ! 血が騒ぐぞ! こんな楽しい戦いは初めてだ! なんと嬉しいことか!? 私はお前と戦うためにここまで生きてきたのかもしれんな!」

「俺はお前とそんな運命を感じていたくはないんだがな」


「ははは、つれないな。私はお前ともっと戦っていたいのだが…… 私欲のために目的を蔑ろにしてはいかん。そろそろ遊びは終わりにするとしよう」


 遊び? 今までの戦いが遊びだって? こっちは死ぬ気で戦ったんだけどな。


 バルゥは構えをとる。力を込めて。


 剣を後ろに構える。

 

 横薙ぎの構えだが……


 この距離で? 剣が届く範囲はバルゥのリーチを考えても二、三メートルだろう。

 俺は剣が届く位置にいないのに。いや、バルゥのことだ。何かあるな。

 俺はハンドキャノンを構えるが……


「さらばだ、ライト……」


 バルゥが悲しそうな顔をする。


 そして…… 剣を振り抜い……



 

 フォンッ キラッ




 光が見えた




 剣閃が飛んでくる




 ズバッ




 その瞬間、痛みを感じた




 かつてない痛みが


 


 肩から胸にかけて




 血が…… 溢れ出す……




「これは……? なん……だ……?」

「すまんな。遠当てを使った。これで私の勝ちのようだ。さらばだ、友よ……」



 ドサッ……



 俺は仰向けに倒れる。ドクドクと血が流れ続ける。




 俺は……




 死ぬのか……? 




 …………


 


 ……………………




 …………………………………………




 いや、まだだ。思い出したよ。



 俺にはがあったよな? 



 ふふ、使うのは…… 久しぶりだな。



 俺は傷を押えながら立ち上がる。



 戦いは…… これからだ!!

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