決戦

第128話決戦前に 其の一

 俺はとある集落、会議室として使っている小屋の中にいる。

 俺の他に桜、フィーネ、マルスにロナといつもの面々だ。

 これから作戦会議を行う。会議と言っても事前確認みたいなもんだ。


 マルスが地図を広げる。


「今日は集まってくれてありがとう。それじゃ確認だが…… 王都アシュートを目指すには城塞都市、ダイーンとイグリを落とす必要がある。そうしないとヤルーガ河を渡れないからな」


 話によるとヤルーガ河というのはかなり流れが早く、渓谷に囲まれている。

 天然の防壁みたいなものだ。

 詳しい縮尺は分からないが二つの都市は二、三十キロは離れてるか? 

 危険だな……


「マルス。二つの都市の位置を考えると同時に襲撃した方が良さそうだな」

「そうなんだ。ライト、あんた何でも知ってるな?」


 桜が俺達の話を聞いて質問してくる。


「どういうことなの? みんなの力を合わせて一つずつ攻撃すればいいんじゃないの?」

「確かに一点集中が一番効率的だろうな。でもな、俺達がどちらかに集中している間に背後を取られたらどうする? 背後を取られた軍ってのは脆いぞ。敵にとっては無人の野を駆けるが如く、俺達は蹂躙されることになる。敵の数によっては全滅ってことも有り得るんだ」


 奇襲を受けるってのはそれだけリスクの高いことだ。

 可能な限りリスクは避けるべきだ。こっちの戦力を落としてでもな。

 今度はフィーネがおずおずと手を上げる。


「はーい……」

「なんだ?」


「それじゃ戦力を二つに分ける必要があるんですよね? 私達はどう別れますか?」


 問題はそこなんだよな…… 

 ビアンコの民は魔法が使える者が多い。

 交配種も桜の魔法の矢を使って遠距離から戦うことが出来るので、均等に数を分ければいいだろう。


 この中で異常に戦力が高いのは俺、桜、フィーネだ。一番いい組分けは……


「マルス。ダイーンとイグリ、どちらの方が攻略しにくいか分かるか?」

「そうだな…… 恐らくはイグリだろうな。これは単に王都から近いというだけだ。支援を得やすいから攻略はイグリの方が難しい……かもしれん」


 ほとんど変わらないってことか…… ならば。


「少し話すぞ。意見は後で聞く。俺はイグリを担当する。ロナに一緒に来てもらいたい」


 みんながどよめき始める。そんな意外だったか?


「理由を聞かせてくれますか……?」


 フィーネが少し不満そうに聞いてくる。

 きっと彼女は俺と一緒に戦おうと思っていたのだろうが……


「要はバランスの問題だ。一応俺は対人戦、集団戦の両方に対応出来る。一人でもある程度は切り抜けられる。

 桜はどちらかというと、単発の攻撃方法が多い。創造した能力が弓矢だからな。レートが低いから援護が必要になる。フィーネがそれを担当してやって欲しい」


 桜も一応複数を同時に攻撃出来る能力はある。影縫いだ。敵の動きを封じて有利な状況を作り出すことが出来る。

 そこをフィーネの魔法で攻撃すれば俺以上の力を発揮することが出来るだろう。


「ライト、私を選んだのには何か理由があるのかい?」


 今度はロナが質問してくる。


「マルスもロナも優秀な指揮官だ。二人は固まらず、どちらかに就いてもらいたい。人族の俺らに仕切られるより、お前達に指示されるほうが交配種も安心するだろ。

 マルスは常に冷静だ。経験の少ない桜をフォローしてやって欲しい。ロナは勢いがあるからな。俺には無いものだ。その元気さで交配種の士気を上げてやって欲しいんだ」


「勢い? ふふ、分かってるじゃないか。あんた程は戦えないが、指揮をとるのは任せておくれ!」

「はは、心強いな。ではこの組分けでいいか? これよりいい意見があれば変更しても構わないが……」


「「「異議無し!」」」


 フィーネ以外が俺の考えに賛同してくれた。不満そうな顔だ。

 後で話して納得してもらうしかないな。

 会議の閉めとしてマルスが最後の確認を行う。


「組分けはライトの案を採用する。決行は三日後。サクラ、武器と食料の報告を頼む」

「うん! 魔法の矢は一億本用意出来たよ! 食料は三食ラーメンでいいなら半年分かな!」


 三食ラーメンはきついな…… 

 だが贅沢は言っていられない。これから戦いが始まるのだから。

 それにしても魔法矢が一億本か。一人二千本は分配出来る。

 長期戦になったとしても対応出来るだろう。


「桜、がんばったな!」

「えへへ! もっと褒めてもいいんだよ!」


 実際桜はかなり頑張ってくれた。軍備増強は桜のおかげと言ってもいいだろう。

 桜が生み出した魔法の矢の攻撃力は高い。恐らく俺のショットガンのスラッグ弾クラスの威力はあるはずだ。

 なんたって一発で大岩を砕くことが出来るんだからな。


「では準備は全て整ったことになるな。これで会議は終わる。もう一度言う。襲撃作戦は三日後だ。恐らく辛い戦いになるだろう…… ライト、相談なんだが……」

「なんだ? 金なら無いぞ?」


「ははは! そんなお願いするかよ! すまんがみんなの士気を上げるために壮行会を開きたい。幹事を任せていいか?」


 幹事か。いいだろう。昔取った杵柄だ。

 酒は飲めないが職場の上司として飲み会のセッティングはお手の物だ。


「いいぞ。適当でいいなら今夜にでも出来るが」

「今夜? 急すぎないか? 明日でも構わないが……」


「いいや、決行が三日後なら今日やるべきだ。戦いの前日は飲み会よりも家族と平和な時間を過ごすべきだろ? ロナ、お前だってマルスとイチャイチャしたいよな?」

「なんで私を引き合いに出すのさ! ま、まぁ確かにマルスとゆっくり過ごしたいかもね……」


「そういうことだ。壮行会は今夜行う。桜とフィーネも手伝ってくれ!」

「いいよ!」「はい……」


 むぅ。フィーネの元気が無いな。


 とりあえず二人を連れて、俺達の歓迎会を行った広場に場所を移す。

 作成を使って簡単に会場の設置を行う。

 どうせ大勢が集まるんだ。椅子は用意せず、立食形式でいいだろう。テーブルを多数用意して…… 

 マルスのことだ。つまらない挨拶もするだろう。演説台も作っておくか。


 問題は料理だな。炊事班長として頑張るかね。

 何を作るかな……

 恐らく数万人は集まるだろうから…… 

 みんなで摘まめる料理がいいだろう。


 ならアレにするか。


 作成を発動し、直径二メートルはあろうかという鉄鍋を二十個作る。


「フィーネ。すまんが鍋に水を張っておいてくれ。桜はおにぎりを頼む」

「分かった。パパ、何を作るの?」


「はは、秘密だ。出来上がったら味見してもらうから楽しみにしておいてくれ」

「うん!」


 では調理開始だ。俺はフィーネからコピーした収納魔法を使い、亜空間から野菜と肉を全て取り出す。

 これで俺が持っている食料の備蓄は無くなったな。今度補充すればいいか。


 長ネギのような野菜。しめじのような茸。塊の肉。

 そしてメインであるサトイモのような根菜……


 これでこんにゃくと豆腐があったら完璧なんだけどな。

 まぁ贅沢は言っていられない。他の具材の量を増やすことで勘弁してもらおう。


 それにしても大量の食材だ…… 仕込むだけでも一苦労だが…… 

 むふふ。俺にはあの能力がある。


 俺は主力能力の一つ、血の輪舞ロンドを発動!


 視界から色が消えて、脳が微振動を始める! 

 高速回転することで通常よりすばやく動くが出来る! 

 さらに手にするのは高周波ナイフ! 

 最近は戦闘より、料理する時にお世話になる能力だ。便利だしな。


 俺は一心不乱に野菜をカットし、芋の皮を剥き、肉をスライスする!


「ライトさーん! お鍋の準備出来ましたー!」


 よし、こっちも仕込が終わった所だ。具材を鍋に投入する。

 ふふ、これでみんな喜んで食べてくれるはずだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る