第115話救出

 俺とフィーネは数百を超えるネグロスの兵士を無力化し、カオマの町に入る。

 騒ぎを聞いた住人が様子を見るためにドアを開けてこっちを見ている。

 俺をハンドキャノンを構え……



 ドンッ



 弾丸はドアの横の壁に命中。


「ひっ!?」


 ネグロスの住人は軽く悲鳴を上げてドアを閉める。

 そうそう、大人しくしててくれよ。襲ってこなければ俺は手を出すつもりは無いんだから。

 うーむ。今思うとやってることが悪人だな。

 しょうがないか。俺はネグロスにとっては敵なんだからな。


 さてそろそろいいだろう。俺はフラッシュグレネードを創造。ピンを抜いてから上空に投げる。



 ブゥンッ



 今の俺の腕力は大分おかしなことになってるからな。

 信じられないスピードでグレネードは上空に消える。



 カッ



 眩い閃光が闇夜に走る! これが合図になっている。

 光を見た交配種達は町に潜入して同胞を助け出す手はずになっているのだ。


「上手くいくといいですね」

「そうだな。そのためにも俺達に注意が向くようにしないといけない。フィーネ、不要な殺しはするなよ」


「分かってます…… うふふ。ライトさんは私の心配をして言ってくれてるんですよね?」


 そういうことだ。フィーネだけではなく、ビアンコ、交配種達はネグロスを憎んでいる。

 種族同士の争いだからな。これは地球でも起こっていた。いや、現在進行形で起こっていると言ったほうがいいだろう。

 同じ人間なのに、住む地域、信じる宗教なんかで殺し合いが起こっているんだ。


 この負の連鎖はいつかは止めなくちゃいけない。フィーネが報復の連鎖に取り込れるのは…… 


「よし、行くぞ。ビアンコ達が捕らわれてるのは市庁舎の横だったな。この騒ぎだ。兵士がやって来るはずだからな。気を付けろよ」

「はい! ライトさんは私が守りますから!」


 ははは! フィーネが守ってくれるなら心強い! 

 俺達は市庁舎目指し、町の中央に進む。

 道中俺達を阻むようにネグロス兵がやってくるが、先程とは違い大人数ではなかった。

 恐らく同胞を助け出そうとしている交配種の対応に追われているのだろう。


 これぐらいならフィーネの手を煩わせることもない。ハンドキャノンでネグロス兵を倒しつつ前に進むことが出来た。

 もちろん殺してないぞ。可能な限り殺しは避ける。使ったのは硬質ゴム製の暴徒鎮圧弾だからな。


 

◇◆◇

 


 戦闘をこなしつつ先に進むこと三十分。目の前には大きな建物が見える。情報通りだな。

 あれが市庁舎か。俺とフィーネは市庁舎の外周を回る。

 その間、町のあちこちで悲鳴が上がるのが聞こえてくる…… 


「みんな大丈夫でしょうか……?」

「完璧にこなすなんてのは無理だろうさ。こっちもネグロスも死人は出る。これは戦いだからな。だがこっちにヘイトが向いている限り、犠牲を最小限に食い止めることが出来る。フィーネ。俺達も自分達の仕事をしよう!」


 今のところ、俺達を襲ってくる兵士はいない。あらかた倒したんだろうな。

 市庁舎外周を探っていると…… 地下に続く階段が。これか。


 フィーネと目を合わせる。黙って頷いてくれたので、そのまま地下に降りる。

 階段の先には鍵がかかった鋼鉄製の扉があるが…… この程度の扉ならショットガンで破壊出来る。


 ショットガンを創造し……



 チャッ



「フィーネ。下がっててくれ」

「はい」


 扉に向かいショットガンを構える。



 ドドドドドドドドドドンッ

 ガコォンッ!


 

 扉は中に吹っ飛んでいく。はは、さすがはスラッグ弾だ。すごい威力だな。

 ここは地下牢になっているはずだ。通路を進んでいくと鉄格子で閉じられた小部屋が多数。

 中を覗いてみると…… 


「う…… ぐすん…… パパ、ママ……」

「泣くなよ…… きっと助けが来るよ……」

「怖い…… 私達死んじゃうのかな……」


 子供? 中にはアルブ・ビアンコの子供達が閉じ込められている。数は…… ちょうど十人か。

 彼らは俺に気付いていない。人族である俺が話しかけたら警戒されるかもな。


「フィーネ。子供達に優しく声をかけてやってくれ」

「はい、やってみます……」


 フィーネは鉄格子越しに子供達に話しかける。


「あなた達…… 静かに…… 助けに来たわ」


 その声に驚いたのか、中にいる子供達は一か所に固まる。

 だがフィーネの姿を見た一人の少年が近づいてきて……


「お姉さんは…… よかった! ビアンコの民だ! みんな! 助けが来たぞ!」

「ちょっと! 声が大きいわよ! それで、ここにいるのは君達だけなの? たしかここには百人の同胞がいるって聞いたんだけど……」


 少年はフィーネの言葉を聞いて不安そうな顔をする。何か知っているんだろうか?


「よく分からないんだけど…… 俺達、閉じ込められる前に調べられたんだ。変な水晶に手を置かされてさ、魔力が強い俺達だけここに入れさせられたんだ」

「他の人は?」


「知らない…… ネグロスの女の人に連れていかれたみたいだけど……」


 横からフィーネと少年の話を聞く。王都に護送されるのは百人だと聞いたが、ここにいるのは十人の子供達のみ。

 残りのビアンコはどこに? 俺はフィーネの横に行く。俺に気付いた少年がびくっと体を震わせるが……


「静かに。心配無い。俺は味方だ。俺は来人、フィーネの友達だ。君、名前は?」

「バズ……」


「バズか。いい名前だ。いいか。俺は今から君達をここから出す。みんなに怖がらないように伝えておいてくれ。それと鉄格子から離れておいてくれ」

「うん……」


 バズは後ろに下がって行く。仲間に落ち着くように言ってくれてるみたいだな。

 さてこの鉄格子を何とかしなくちゃな。ショットガンで吹っ飛ばしてもいいが、子供達がびっくりしちゃうからな。

 なら使う能力はあれだ。


 オドを練ってから死の輪舞ロンドを発動。脳が微振動を始める。高速回転クロックアップしてるんだ。

 視界から色が消えた。そして右手には高周波ナイフが握られている。この能力を発動すると出てくるんだよな。

 俺はナイフを鉄格子に当てる。


 

 スッ……

 スパパッ


 

 すると何の抵抗も無く鉄格子が切断されていく。

 相変わらずすごい切れ味だな。


 子供達が通れるだけのスペースを作り……


「出ておいで」


 子供達に話しかけると不安そうな顔をしつつも、俺の声に応じてくれた。


「もう大丈夫だ。よくがんばったな」


 俺はバズの頭に手を乗せようとするが……


 

 バシッ

 


「やめろよ! もうすぐ十歳になるんだぞ! 子供じゃねぇ!」


 手を払われる。はは、生意気な。思ったより元気そうでよかった。

 きっとバズがこの中で最年長でみんなの面倒を見てたんだろうな。


 幸いなことに地下牢の中に兵士はいない。俺達があれだけ派手にドンパチやらかしたからな。

 警備の兵も駆り出されたのだろう……と願いたい。


「みんな、行くぞ」

「…………」


 子供達は黙って頷く。中には四、五歳位の小さな女の子もいる。

 顔には涙の痕が。怖かったんだろうな。子供達を連れて地下通路を進む。

 よかった。どうやらこの子達だけでも助けられそうだ。


 でも残りのビアンコ達はどこに行ったのだろうか……? 

 もしかしたらまだこの中にいるのかもしれない。

 今のところ兵士はここに来る気配は無いし……


「フィーネ。少しだけ待っててくれないか?」

「え? 何をするんですか?」


「内部を探ってくる。もしかしたら、まだ助けられるビアンコの民がいるかもしれないしな」

「でも……」


「大丈夫。五分で戻る」


 心配そうに俺を見るフィーネを置いて通路を戻る。

 子供達がいた牢の先にも通路は続いていたはずだ。


 通路を進む。だが設置してある牢屋には誰もいない。

 その先の牢屋にも。そのまた先の牢屋ももぬけの殻だ。

 空振りか。しょうがない。フィーネのところに戻……?


「ん…… ん……」


 声がする。これは…… 女の声だな。

 踵を返し、声のする方に進む。


 声が近づいてくる。通路の先には僅かに明りが漏れる扉がある。

 誰かいるな…… 一応警戒だ。

 ハンドキャノンをすぐに撃てるようにしておいて……


 少しだけ扉を開けて、中を確認……!?


 

 女がいた。



 褐色の肌。アルブ・ネグロスだ。



 女は裸で男の上に馬乗りになっていた。



 激しく腰を振って。髪を振り乱して。



 おぞましい光景だった。



 女が乗っていたのは男ではなく……



 首の無い男の死体だったからだ……

 


「ん……! はぁぁ…… あら? うふふ……」


 女は体を震わせ、荒く息をつく。

 項垂れた顔を上げた瞬間……


 目が合った……


 笑ってやがる……


 これは…… 気付かれたか……

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