第116話ミルナス 其の一

「はぁはぁ…… うふふ……」


 地下道のとある一室。俺は扉越しにアルブ・ネグロスの女と目を合わせている。

 何故か視線が外せない。別に女が全裸だからという訳ではない。


 視線を外せば殺られる。


 そう思ったからだ。


 女は首の無い男の死体から降りてから下着を着始める。


 いい体はしているが、そんな気分にはなれない。

 男の死体の上で腰を振っているだけでも異常な光景だ。他にも気が付いたことがある。


 部屋の中には壁一面に生首が飾られていたのだ…… 

 生首をよく見てみると…… 白い肌、長い耳。アルブ・ビアンコだ。


 まさか……?


 女は下着を着るとベッドから降りて扉越しの俺に向かって話しかける。


「貴方も一緒にどう? ふふ…… 楽しませてあげるわよ?」


 答えるべきか……? この女には近づくな。俺の本能がそう訴えかけてくる。

 答えぬまま分析を発動。女を見てみると……


名前:???

年齢:579

種族:アルブ・ネグロス

Lv:312

DPS:256871

HP:490792 MP:103872 STR:486780 INT:75410

能力:双剣術10 魔法剣10 高速化10 恍惚エクスタシー10(対象を切りつけダメージを与える度にSTR+1000) ???


 

 まじか……!? バルゥ程ではないが強敵だ! 

 DPSが二十五万以上…… さらに能力がヤバい。恍惚って……


 相手にダメージを与える度に攻撃力が上がるのか。

 長期戦になればなる程こちらが不利になる。


 どうする? ここは無理に戦う必要は無い。

 フラッシュグレネードを使って逃げるのも一つだろう。


 俺はフラッシュグレネードを創造する。

 ピンを外そうとした時……



 スッ…… 



 視線の先の女が消える。一瞬でだ。



 バタンッ



 扉が大きく開く! 何があった!? 

 女はどこにいっ……!?


「後ろよ…… ふふ…… 貴方、人族ね? かわいい耳してるじゃない。食べちゃいたいくらいよ……」




 ペロッ ガジ……



 そう言って女は背後から俺の耳を舐め甘噛みしてくる。

 フィーネに噛まれるのとは違い嫌悪感しか感じない。こいつ一体……? 


 動揺しているのを悟られてはいけない。俺は女に話しかける。


「止めてくれないかな? あんたは俺のタイプじゃないしな」

「うふふ…… 冷たいのね。でも、そういう男の方が好きよ。貴方、名前は?」

「…………」


 俺は後ろをゆっくり振り向く。

 そこには下着姿のアルブ・ネグロスの女がいた。


「来人……」

「ライト? 不思議な名前ね。いえ…… 聞いたことがあるわ。たしか…… そう! バルゥ様が貴方のことを誉めてたわ! うちのバカ皇子をのしたっていう人族がいるって!」


 バルゥ? 面識があるのか。バルゥ様って言ってたし、奴はこいつの上司ってとこか? 

 上手くいけば戦わなくて済むかもな。


「バルゥか。あいつは元気にしてるのか? それに…… いいのか? ルカはこの国のトップなんだろ? それなのにバカ扱いして……」

「ふふ、バルゥ様は元気よ。元気過ぎて困ってしまうくらい。アズゥホルツから帰って来てからは貴方のことばかり話してたのよ。ルカの事は気にしないで。黒の軍団であいつを尊敬してるやつなんていないんだから」


 知らない単語が出てくる。黒の軍団?


「黒の軍団ってのは? すまんな、この国の事は詳しくなくて。教えてくれるか?」

「ふふ、いいわよ。黒の軍団っていうのはアルブ・ネグロスの精鋭部隊。私もその中の一人よ。私はミルナス。ミルナス・ミーシャ・アルブ・ネグロスよ。よろしくね」


 こんなイカレ女とよろしくする気は無いが……


 警戒しつつ、考えをまとめる。俺は捕らわれたビアンコの民を救うため、地下牢に潜入した。

 情報ではここにいるビアンコの民は百人。だが、牢屋には十人の子供達がいただけだった。

 そしてこの女…… ミルナスに出会った。こいつは首の無い死体と…… 


「お前が殺したのか?」


 その言葉を聞いてミルナスは薄笑いを浮かべる。やはりか……


「ふふ…… そうよ。私ね、死体相手じゃないと燃えないの。生きてる相手ってつまらないじゃない? 私ね、抱かれながら相手の首をゆっくり切り落とすのが…… 大好きなの…… ふふ、首を切り落とした時にね…… 完全に私の物になったって思えるのよ…… 思い出しただけで……」


 ミルナスは自らの股間に手を伸ばし……


 この女…… 完全にイカれてる。


「殺しちまってよかったのか? ビアンコを護送するのが仕事なんじゃないのか?」

「はぁはぁ…… うふふ…… 気にしないで。魔力の高い子供は生かしておいた。少しぐらいつまみ食いしたってバルゥ様は許してくれるわ。でもね…… 最近物足りないの…… あれだけ殺しても逝けないの…… ねぇ? 貴方だったら私を逝かせてくれる?」


 お断りだ。こんなサイコ女とベッドを共にする気は無い。

 不必要な殺しはやらない。フィーネにも言った言葉だ。だがこいつは…… 


 死の輪舞ロンドを発動する。


 脳が微振動し、視界から色が消える。


 ここは狭い室内。使える銃は限られる。

 挙げ句にこいつは高速化という能力も持っている。銃ではかえって俺が不利になる。

 だから俺はこの能力を選んだ。右手に高周波ナイフが握られる。

 ナイフを構えつつ自身に分析をかける。俺のDPSは……



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:134

DPS:9985

HP:2E+7 MP:2E+7 STR:2E+7 INT:2E+7

能力:剣術10 武術10 創造 10 料理10 結束 分析10 作成10 障壁10 閃光10 指圧10 アルブの恩恵8 

魔銃10(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー スナイパーライフル アサルトライフル TLS)

特殊:守護者 死の輪舞

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ サイドカー 馬力向上

 


 DPSはおよそ一万。勝ち目はあるか…… 

 だが長期戦は不利だ。ミルナスには恍惚という能力がある。相手を傷付ける度に強くなる。


 何とか短期決戦に持ち込めれば……


 俺がナイフを向けるのを見たミルナスは……


「ふふ…… あはははは! 貴方素敵よ! 私を楽しませてくれるのね!? 最高よ! 逝かせてね!? 必ず逝かせてね!」


 逝かすのはフィーネで充分だ。お前はただ殺すだけ。


「あはははは! 貴方はどんな声でいてくれのかしら!? 想像しただけでもうっ!」



 スッ……



 ミルナスの姿が再び消える!? 馬鹿な!? 

 今の俺は高速回転クロックアップしているはずなのに! 

 目でミルナスの動きを追うことが出来ない!


 ミルナスはベッドの上に現れる。

 壁にかけてある二対の短剣を持って……


「ゾクゾクしちゃう! 今から貴方を斬り刻めると思うとね!」

「黙れ。俺はお前に殺られる気は無い」


 とは言ってみたものの、目に追えない程の速さで動くこいつに勝つことは出来る限りのだろうか? 


 万が一俺が負けたとしたら…… 

 俺は大声で……!


「フィーネー!! 逃げろ!! 子供達を連れて町の外に出ろ!!」


 聞こえたはずだ! フィーネなら分かってくれる! 

 俺は高周波ナイフを構え、ミルナスに立ち向かう。


 接近戦か。苦手なんだよな……


 だが、やるだけだ! 久し振りの対人戦だ!


 必ず勝つ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る