第82話プール

 俺は水着に着替え終わり、作成クリエイションで作ったプールの前に。

 十メートル四方の小さめなプールだ。

 一応イメージとして学校の二十五メートルプールも考えたがそこまで大きくする必要も無いだろう。

 サイドには大きめのウォータースライダーも完備してある。

 あ、いかんいかん。あれを忘れてた。浮き輪を作らないと。


 それにしても作成クリエイションは便利な能力だ。覚えておいてよかった。

 ちなみにこの能力は全てを作り出せる訳ではない。

 ある程度構造、素材の種類を理解しているものでないと無理なようだ。

 以前桜に新しいスマホを作るようお願いされたが、そんなの無理に決まってるだろ。


 浮き輪の材料ってビニールだろ? 

 多少素材が違ってもイメージがしっかりしてれば…… 

 そうだな、チシャは小さいからドーナツ型の一般的なやつを。

 桜はワニの浮き輪だな。

 フィーネは…… ふふ、あれでいいか。

 少しぐらいイチャイチャしてもいいだろ。


 目を閉じる……


 イメージする……


 普通の浮き輪、ワニの浮き輪、

 そして大人二人が余裕で横になれるマットタイプの浮き輪を……


 イメージのままオドを放つ! 


 目を開けると、そこにはイメージ通りの浮き輪が三つプールに浮かんでいた。

 これでよし。さて準備は出来た。あとは女衆が着替え終わるのを待つだけ。

 少し待つと桜達が水着に着替えてやってくる。


「よーし! 泳ぐぞー!」


 桜はプールに飛び込もうとする! いかん! 


「ちょっ! お前は反省してないのか! 前回海で溺れかけただろ!」

「あはは。忘れてたよ。でもこのプール割りと浅いじゃん。溺れることはないんじゃないの?」


「そうだけどさ。チシャもいるんだ。一応準備体操!」


 みんなでその場でジャンプする! 

 もちろんフィーネは見ない! だって胸が揺れて揺れて…… 

 フィーネが着ている水着は裸よりもエロい。

 目のやり場に困るのだ。


 体操を終え、軽くストレッチ。

 手首グネグネ。足首グネグネ。これでよし。


「それじゃ入っていいぞー!」


「ひゃっはー! チシャちゃん! 行こ!」

「うん! ひゃっはー」


 二人は世紀末な掛け声と共にプールに飛び込む! 


 

 ザブーン



 水しぶきを上げ、二人は泳ぎ始める。

 お、浮き輪を使い始めたな。

 チシャは楽しそうに浮き輪を使ってプカプカ泳ぐ。


「お父さーん、楽しいよー。一緒に泳ごー」

「あぁ、そうだな。フィーネ。俺達も行こうか」

「はい!」


 二人でプールに入る。水温はちょうどいいな。

 ここは砂漠地帯なので水の温度も少し上がってるみたいだ。

 泳ぐのにちょうどいい温度になってる。


「あ~~~……」

「ふふ、ライトさんったら。お風呂じゃないんですから」


 お風呂か。そういえばこの国に来てからほとんど風呂に入ってなかったな。

 目立たないよう行動してたし、風呂に入る心の余裕も無かったしな。

 それにフィーネは捕まってたし…… 

 思い出すと胸が痛くなる。本当に生きていてくれてよかったよ……


「ライトさん……? って、ひゃあん!?」


 思わずフィーネを抱きしめてしまう。


「ど、どうしたんですか!?」

「いや…… フィーネが無事でよかったなって思ってさ」


「そ、そうですか? んふふ……」


 フィーネを抱きしめているとチシャもパシャパシャ泳いでやってくる。


「ずるーい。私もー」


 いいよ。チシャもまとめて抱きしめる。

 その光景を桜が見ているのだが……


「お前も来るか?」

「行かないわよ……」


 あきれられてるみたいだ。

 桜はワニに乗って俺達から離れていく。さぁ俺達も泳ぐかな。



◇◆◇



 ひとしきり泳ぎを堪能する。

 ふー、海も楽しかったがプールもなかなかいいものだ。

 チシャはまだ小さいしな。

 これぐらいの方が溺れる心配も無いし安心だ。


「ねー、お父さん。あれってなーに?」


 チシャが指さす方には自慢のウォータースライダーが。

 泳ぐのに夢中ですっかり忘れてたな。あれを試すか。


「みんな、一度上がってくれ。ウォータースライダーをやってみよう」


 プールサイドに上がってウォータースライダーの階段を昇る。

 かなり大きめに作ったからな。高さは十メートルってところか。

 勾配は45度にしておいた。

 上がりきってから下を見る桜が心配そうな顔をしている…… 


「ねぇパパ…… これってかなり怖くない……?」


 そうか? 桜は怖がりだな。

 どれどれ……? って怖!? 

 やばいな、明らかに設計ミスだ。

 45度って上から見るとこんな急だったんだ。

 これは止めといたほうがいいな。

 俺と桜が尻込みしてる中……


「それじゃ行ってくるね! それー!」


 

 シュパーッ



 うそ!? チシャが滑り始めた! 

 目にも留まらぬ速さでチシャが滑り落ちていく! 

 そして!



 バシャーン



 水しぶきが上がる! 大丈夫か!?


「チシャ!」


 水面からチシャの姿が見える! 

 チシャは水面から顔を出して……


「あははは! 楽しい! もう一回!」


 よかった…… 思ったより大丈夫そうだな。

 それを見た桜がチシャに続く!


「それー!」


 同じように水しぶきを上げ桜が着水。


「あはは! ほんと楽しい! チシャちゃん! もう一回行こ!」

「うん!」


 二人が上がってくるな。それじゃ俺も行くか。

 ってフィーネが俺の腕を掴んでくる。なんだ?


「ライトさん! 一緒に滑りましょ!」

「あぁ! 行くぞ!」


 二人並んで滑る! 

 うぉ!? 予想以上のスピード! 怖! 



 シュパパーッ



「うおぉ!?」「きゃー!!」



 バシャーン



 水面に叩きつけられた俺達はプールに沈む。

 いたた。背中から落ちちゃったよ。

 フィーネは? 水の中フィーネを探す。



 トントンッ



 ん? 肩を叩かれる。後ろを向くをフィーネがいた。いたずらっぽく笑ってる。


 お? なんか水の中で抱きつかれてキスをされる。ちょっと驚いたけど…… 

 はは、いいよ。息が続くまでキスをし続ける。


 むむ。流石に苦しくなったので二人で水面に上がる。


「ぷはっ。はは、あんなことされたの初めてだよ」

「ふふ、ライトさんの初めてもらっちゃいました!」


 その後もウォータースライダーを楽しむ。

 少し疲れたら浮き輪を使って気ままにプカプカ。


 楽しくて…… 静かな時が流れていく…… 


 フィーネと二人でフローティングベッドで横になってるところに桜とチシャがやってきて…… 

 ん? 何か悪そうに笑ってるな。二人は水に潜ってから……


「それー!」

「うわっ!」


 

 バシャーンッ



 フローティングベッドをひっくり返される! 

 おのれ! やったな! 逃げる二人を捕まえる!


「きゃー、お父さんが怒ったー」

「助けてー」


 はは、二人とも笑ってるくせに。


 フィーネも楽しそうに笑ってる。

 俺も楽しいよ…… いつまでもこうしていられたら…… 


 いやそうじゃない。

 それを実現するためにも俺は先に進まないといけないんだ。

 けじめをつけに行かなくちゃ。

 フィーネの仲間を救ってから一度日本に帰る。

 そしてこいつらと……


 二人を羽交い絞めにしつつ思う。その光景を見てフィーネは笑う。


「あはは! 二人ともいたずらして! ライトさん! お仕置きは任せました!」

「おう! 二人のおかずを一品減らすかな!」

「えー! それはかんべんして~。そういえばお腹空いたかも……」


 確かにもうお昼ごはんの時間だな。

 しょうがない。許してやるか。


「みんな、ごはんにしようか」

「「「さんせーい!」」」


 みんなでプールサイドに上がって昼食の準備だ。

 実は昨日のうちからカレーは仕込んである。

 フィーネの収納魔法は内部では時間が止まっているらしく、食材が痛まないのだ。

 ごはんもホカホカのままだし。なんて便利な魔法なんだ。

 やっぱりこれは覚えるべきかもしれないな。まぁそのうちな。


 作成クリエイリョンでテーブルとイスを作り、カレーを食べる。

 チシャは初めてだったかな? 

 中辛だからチシャには辛すぎるかもしれないな。


「すごくいい匂い…… これなんていうお料理なの?」

「これはカレーっていうんだよ。辛くて食べれなかったら違うのを作ってあげるからな」


 チシャは恐る恐るカレーを口に運ぶが…… 

 大きく目を見開いて!


「美味しい! すごく美味しいよ!」

「大丈夫か? 辛くないか?」


「ううん! これぐらい平気! お代わりしてもいいの?」


 ははは、いっぱいあるからな。

 まぁ大喰らいのお姉ちゃん達が全部食べなければの話だけど。

 桜とフィーネのカレーはもう半分無くなってる。


「やっぱりカレーは最高だねー!」

「ライトさんとの思い出の味…… やっぱり美味しい……」


 これはチシャの分を今の内から確保しとかなくちゃな。


 昼食を終え、各々自由な時間を過ごす。

 桜は泳ぎ、チシャはウォータースライダーを楽しみ、フィーネはプールサイドでお昼寝だ。


 俺はその光景を少し遠くから見ている。

 タバコを吸ってるからね。


 この幸せを…… この国の全ての人に味わってもらいたい。

 今は無理だろうけどな。

 でも明日俺がやろうとすることで、この国の今を変えることが出来るかもしれない。


 明日は桜と二人でナタールへ旅立つ。がんばらないとな。

 俺はタバコを灰皿に入れて食事の後片付けを始めた。

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