第83話再びナタールへ
半日をかけて休日を楽しむ。
もう夕方か。砂漠は日が落ちると急激に温度が下がる。
そろそろプールから上げておかないとな。
「おーい! そろそろ帰るぞー!」
「ふー! 楽しかったー!」
「ほんとだねー!」
桜とチシャがプールを上がる。二人とも満足そうな顔をしてるな。
フィーネは未だにお昼寝から目が覚めない。フィーネの肩に手をかける。
「起きな。帰るよ」
「ん…… あれ? もうそんな時間ですか?」
「あぁ。ほら、着替えてきな」
「はーい」
女衆が更衣室で着替え始める。
その間にプールを消しておかなくちゃ。
一応ここは地球でいうところのテログループのアジトだ。
こんな目立つ物をいつまでも置いておくべきじゃない。
オドを練ってからプールとウォータースライダーに向かい……
【
俺の作ったプールが砂に変わっていく。
これでよしっと。ちょうど桜達が戻ってきた。
チシャはなんだか浮かない顔をしてるな。
「無くなっちゃった……」
「そう言うなって。また作ってあげるからな」
「ほんとに!? 約束だよ!」
ははは、もちろんだ。こんなのお安い御用だ。
さて、今日の締めとして……
「フィーネ、食材を頼む」
「え? ここでですか? 昨日は厨房を借りたのに。ここでお料理を?」
「料理ってほどのものじゃないよ。みんなでバーベキューをしよう」
みんなの顔が明るくなる。
いや、チシャはよく分からないって顔をしてるか。
チシャには食べさせたことなかったもんな。
再び作成を使いコンロを作る。
食材は適当な大きさに切ってコンロに並べる。
肉と野菜が焼ける香ばしい香りが漂う……
「焼けてきたな。ほら、食べな」
若い衆が一斉にバーベキューに群がる。
って桜、肉ばっかり取るんじゃない!
チシャが悲しそうな顔をしてるだろ。
「お肉……」
「全くもう…… チシャ、すぐに焼けるからな」
俺は新しい肉を焼き始める。
チシャはもう待てないって感じの顔をしてるが。
「これぐらいでいいだろ……」
焼けた肉をチシャの皿に乗せる。
あちあち言いながら食べ始める。
急ぐなって。火傷するぞ。
「おいひい! すごく美味しいよ!」
幸せそうに肉を頬張る。
はは、喜んでもらって俺も嬉しいよ。
「ライトしゃんは食べないんれふか?」
咀嚼しながらフィーネが聞いてくる。
「俺は適当に摘まみながらでいいよ。ほら、どんどん焼くからな! 焦げる前に食べろよ!」
その後も肉と野菜を焼き続ける。
肉、肉、野菜、肉、肉、肉、野菜、肉……
肉の回数が多いな……
食材担当のフィーネが肉しか出さないからだ。
「フィーネ…… 野菜も出しなさい……」
「えー。でもお肉のほうが美味しいんだもん」
こういうところはまだ子供だなって思う。
みんなにしっかり野菜も食べさせて……
お食事終了っと。
「もう食べられなーい……」
「お肉美味しかったねー」
「ライトさん、片づけ手伝いますね」
「ありがとな。チシャ、桜、ここは任せてくれていい。休んでてくれ。それと桜、今日は早く寝るんだ。明日は……」
「うん…… 分かってる。それじゃ任せるね。お休み…… チシャちゃん、行こっか」
チシャを連れて自室に戻る。桜、明日は頼んだぞ。
フィーネと二人で後片付けをしつつ……
「ライトさん…… 明日ですが、私は行かなくていいんですか?」
「来たいか? ルチアーニを殺さないと誓えるならいいけど……」
美しいフィーネの顔が憎しみで歪む。
フィーネは連れて行くべきじゃないな。
あれだけ酷いことをされたんだ。
恐らく死なないギリギリを狙って拷問を受け続けたんだ。
あんなことをされれば殺したいと思うのは当然。
だが……
「俺は戦いに行くんじゃない。交渉に行くんだ。だから今のフィーネは連れていけない。いいね?」
「はい……」
少し厳しいことを言ったが俺が考えることを完遂するためにはルチアーニに生きていてもらう必要がある。
かわいそうだがフィーネはお留守番だ。
「フィーネ。俺達が行っている間、チシャのこと頼んだぞ」
「はい……」
その後は言葉を発さずに片づけを終える。
なんとなく気まずい空気を感じつつ自室に戻る。
さて、明日は早くにここを出る。
寝巻に着替えてベッドに……
ガバッ
うぉ!? フィーネが俺を押し倒して……
深いキスをされる……
口を離すと彼女は瞳を潤ませて……
するの? 明日早いんだけど……
俺が抗議をする前に強引に服を脱がされた。しょうがないな。
だがイニシアチブは俺が取る! 上に乗ってるフィーネを下にする!
後は本能に任せて動くのみだ。今日は一回で終わらせてくれるかな……?
◇◆◇
はぁはぁ…… 四十超えてるのに三回はきついって……
フィーネは甘い顔をして抱きついてくるのだが……
「も、もう無理だからな!」
「そんなー…… もう一回して欲しかったのに……」
「元気だな…… でももう寝なくちゃ」
「それじゃアレをお願いします!」
最近決まった四点セットか。
これで寝かせてもらえるなら安いもんだ。
まず抱きしめて耳を噛む。
「んふふ……」
そしてフィーネの聖名を呼ぶ。
「フィオナ……」
「はい……」
次はキスを…… 出来るだけ情熱的なやつ。
「ん……」
そして最後。
「愛してる……」
「私もです……」
これで四点セット終了。さて寝ますかね。
ってフィーネ。そんなきつく抱きしめられたら寝られないんだが……
「ライトさん…… がんばってくださいね……」
「あぁ…… それじゃお休みな……」
やっと抱擁から解放され眠ることが出来た。
お休みな。
◇◆◇
ブブブブ……
ん…… もう朝か。
俺はベッドから抜け出して旅支度を始める。
今回はバイクもあるし、桜と二人なので水と簡単な食糧だけで充分だ。
準備はあっさり終わる。鞄を背負ったところでフィーネが目を覚ました。
「行くんですね……」
「あぁ。心配無い。俺の帰りを待っていてくれ」
「待って……」
手を掴まれて止められる。
強引に俺を引き寄せて……
「ん……」
「…………」
少し長めにキスをされた。
ははは、今生の別れじゃあるまいし。すぐに帰ってくるからな。
再び気を取り直して。
「行ってきます……」
「行ってらっしゃい……」
部屋を出る。
桜を起こしにいこうと思ったのだが、既に起きて俺の部屋の前で待っていた。
「時間だね」
「あぁ。桜も準備出来てるみたいだな、それじゃ行くか!」
「うん!」
二人で外に出る。バイクは既に準備してある。
キーを差し込んだところで……
「ちょっと待って!」
この声…… ノアだな。見送りって訳じゃ無さそうだ。
「はぁはぁ…… 聖女様には悪いけど、やっぱり納得出来ないよ! どうしてルチアーニを助けてあげるのさ!? 答えによっては……」
「止めるか? お前にそれが出来るのか?」
「う…… それは……」
ノアは悔しそうに唇を噛んでから泣き始める。
うーむ。なんか俺がいじめてるみたいで気分が悪い。
しょうがないな。少しだけ話してやるか。
「いいか。一度しか言わないからな。俺がルチアーニを治しに行くのは…… 奴を脅迫するためだ。ある方法を使ってな」
「う…… ぐす…… 脅迫……?」
「そうだ。奴はこの国のトップ。政治家でもある。政治家なんてのはな、自分の国の五十年、百年先を見て考えるもんだ。だがあいつは五十年どころか十年先の自分しか見てない。レイシストでありながらナルシストでもある。自分がかわいくて仕方ないのさ。そこを攻める」
「…………」
ノアがお前は何を言ってるんだ?って顔をしてる。多分分かってないな。
「ノア…… 俺の言っている意味分かるか?」
「全然…… でも、なんかライト様に任せて大丈夫な気がしてきた……」
「まぁ理解出来てなくても、取り合えず俺に任せておけ。悪いようにはしない。ノア、留守の間チシャとフィーネを頼んだぞ!」
「分かった! ライト様、聖女様、行ってらっしゃい!」
気を取り直してエンジンスタート!
目指すは首都ナタールだ! 一日走りゃ着くだろ!
アクセルを回し俺は西に向かって走り出した。
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