第47話勝利からの……

「か…… ひゅ……」


 なんだかよく分からない声を上げてルカがダウンしている。

 やり過ぎたかな? 

 地面に顔を突っ込むように倒れたのでちょっと心配。


 取り合えず息が出来るように仰向けにしてあげると…… 

 あ、やっぱりやり過ぎたか。

 前歯が全部吹っ飛んでいる。

 割りと男前なのに、かわいそうなことをしたな。


 審判はルカのもとに駆け寄る。

 まぁ言わずもがなだが……


『し、勝者はライト殿! 対戦相手のルカ皇子、戦意喪失と見なします!』

「「「うおぉぉぉー!!」」」


 場内から歓声が上がる! 

 すごい声だな!? 体がビリビリ震えるよ!


 さて俺の出番は終わりだな。

 次は勝利者インタビューでもあるのかな? 

 だが俺のもとにやって来たのは審判でもインタビュアーでもなく……


 カシャンカシャンと鎧が擦れる音を立てルカが入って来た西門から誰かやってくる……

 

 大柄な体格。褐色の肌。

 綺麗に剃られた頭。そしてエルフ耳……

 確かこいつはルカのお付きの兵のバルゥとかいう男だ。


 バルゥは歩みを進め、俺の目の前までやってくる。

 なんだ? まさか「若の仇っ!」とか言って襲いかかってくるなんてことないよな……?


 バルゥは俺を睨みつけたまま…… 

 大声で笑い始める!


「ははははは! 見事な闘いだった! 人族でここまで強い者がいるとはな! 若も良い経験となったろう!」


 お? なんか誉められたぞ? 

 意外だな。若様がやられたってのに、家来のこいつが敵である俺を称賛するとは。


「俺を褒めてもいいのか? 若様はあんなひどいことになってるのに」

「なに、死んでなければ問題無い。それに敗北を知るのも成長に必要な要素だ。若はどうにも天狗になりがちで、他人を見下す癖がある。王になるには尊大なだけでは駄目だ。敗北を経て痛みを知る。若も良い勉強になっただろう」


 フィーネが憎むネグロスの民だが…… いるんだな、こんな奴も。


「ともあれ、貴殿の勝利を祝うとしよう。だが次は我らネグロスが勝つ…… 次にお前に会えるのを楽しみにしてるぞ!」

「あぁ。いつでもかかって来い。返り討ちにしてやるさ。でも…… なるべくアンタとは闘いたくないな」


 バルゥは豪快に笑う。


「ははははは! それは残念! 私は貴殿と剣を合わせるのを楽しみにしていたのにな! 気分が変わったらお相手をお願いしよう! では!」


 バルゥは気絶したままのルカを担いで去っていく。

 俺と戦うのが楽しみか…… 

 その機会は俺がもっともっと強くなってからだな。


 今の俺ではバルゥに勝てない。こっそり分析アナライズしてみたんだ。

 あいつのステータスだが……



名前:バルゥ

年齢:6421

種族:アルブ・ネグロス

Lv:509

DPS:532110

HP:890622 MP:203630 STR:786501 INT:108521

能力:剣術10 武術10 全属性魔法10 

異界の知識10 ???



 化けモンだ…… 勝てるわけがない。

 DPSが53万って…… どこぞの宇宙の帝王じゃないんだから。

 俺はこれからあんなのがいる国に行かなくちゃいけないのか。


 はは…… 今になって足が震える…… 


「パパ!」

「ライトさん!」


 ん? この声は…… 

 って!? 桜とフィーネが飛び付いてくる! 

 二人同時には受け止められないって! 

 案の定、俺は二人を抱えたまま仰向けに倒れてしまう。

 ここに来て初めてダウンを取られちゃったな。


「すごいよ! パパあんな強かったなんて知らなかった!」

「そう? でも桜は俺がゲームでオンライン対戦するとことかよく見てたじゃん。あれと同じことをしただけだぞ?」


「それは知ってるけどさ…… 私ねルカのステータスを見てみたの。少しだけどルカが有利だった。それなのにパパはほとんどダメージを負っていない…… なんで勝てたの?」  


 勝てた理由か。

 分かりやすくいうとだな。


「プロゲーマーが使う弱キャラと素人が使う強キャラ。勝つのはどっちだと思う?」

「えーっと…… プロゲーマー?」


「ほぼ正解。色々な要素が絡むからなんとも言えないとこもあるけどね。ルカはレベル、ステータスは高くてもそれを活かしきれてなかったってことさ」


 今度はフィーネが泣きながら話しかけてくる。


「ふぇーん…… ライトさん…… 無事でよかった……」

「はは、安心して待ってろって言っただろ?」


「でも…… でも……」


 泣き止まぬフィーネの頭を撫でる。

 そんな泣くなって。俺は何ともないからさ。


 歓声渦巻く中、二人を抱き締めていると俺に近づく大きな人影が…… 

 まさかバルゥがまた来たとか? 

 やっぱり敵討ちに来たなんてことはないよな? 


 その心配は杞憂に終わる。近づいて来たのは虎顔の将軍シーザーだった。

 豪快に笑いながらバシバシと俺の肩を叩く…… 

 いてて。すごい力だな。


「がはははは! ライト殿! 見事な戦いでした! あなたには感謝しかありませんな! 祭りを盛り上げてくれただけではなく、私の懐を温かくしてくれた! だいぶ稼がせて頂きましたぞ!」


 そうか、たしかこの試合は賭けの対象にもなってたんだよな。

 俺も賭けておけばよかったな。自分の勝利にね。


「それはなによりです。そういえばオッズはどんな感じだったんですか?」

「私が賭けたのはライト殿の15分以内の勝利ですな。オッズは12倍。因みにルカ皇子の勝利に賭けていた者が多かったそうですぞ」


 あらま。それじゃアズゥホルツの多くの人に損をさせちゃったかな。


「ライト殿、これからご予定はございますかな? 無いのであれば城に戻っていただきたいのですが……」


 城に? なんだ、王様がまた何か俺達に仕事でも押し付けようってのかな? 

 それだったらお断りしたいところだが。


「我が君がライト殿の勝利を祝って一席設けるそうです。如何ですか? 酒も料理も最高な物が用意されてますぞ?」


 宴会か。俺は酒は飲めないんだが飲みの席は嫌いじゃない。

 あの雰囲気は好きなんだよね。酒に酔って普段見れない顔が見れる。

 口数の少ない部下が実はゲーマーだったり、真面目そうな女子社員がコスプレイヤーだったり。

 桜とフィーネは未成年だが……飲ませなけりゃいいだろ。


「いいでしょう。桜、フィーネ? お前達もどうだ?」

「「行く!!」」


 はは、返事が早いよ。

 シーザーの用意してくれた馬車に乗って、俺達は闘技場を後にした。



◇◆◇



 馬車の中でフィーネが俺の肩に手をおいて魔法をかけ始める。


「アベル アベル アベルナ バルナ…… 癒しの水……」


 フィーネの回復魔法だ。

 回復魔法といっても桜の魔法とは違い即効性はなく回復速度を僅かに早めるだけの魔法みたいだ。

 ある程度だがルカの攻撃を喰らったからな。

 肩には小さな刺し傷があったのだが、患部は水の膜で覆われる。

 絆創膏みたいなものなんだろうか?


「ひどい傷…… ライトさん、痛くないですか?」

「あぁ。かすり傷みたいなもんだ。そうだ、桜も回復魔法を使えるんだからさ。お前もかけてくれよ」


 ん? 桜がこっそり耳元でささやく。なになに?


「ちょっとパパ……! せっかくフィーネちゃんが魔法をかけてくれてるんでしょ……! ここは乙女の行為を黙って受け入れるの……! 私が全回復したら台無しになっちゃうでしょ……!」


 そういうもんか? 

 よく分からんが桜は回復してくれないってことか。

 桜はフィーネを立てているってこと? 


「フィーネ。ありがとな。そういえばさ、フィーネってお酒は飲めるのか? その前にこの世界の成人って何歳からなの?」

「成人? 成人ってなんですか?」


 フィーネと向かいに座ってるシーザーが不思議そうな顔をしてるな。

 この世界では子供から大人になるっていう定義が地球と異なっているのだろうか?


「成人ってのは大人になる年齢のことをいうんだけど、俺の世界では酒は大人になる年齢にならないと飲めないんだ。酒は二十歳からだね」

「ほう、それは興味深い風習ですな。我が国では酒は親が子を一人前と認めた時に初めて与えられます。私が最初に酒を飲んだのは…… 十二歳の時でしたな」


 十二って…… 小六かよ。

 いや、シーザーは獣人だ。歳の取り方は人間のそれとは違うのだろう。

 俺の常識で当てはめてはいけないな。


「フィーネは?」

「そうですね…… アルブの民も大人になる年齢は決まっていません。お酒は……」


 言葉を詰まらせる。フィーネも酒は苦手なのかな?


「大好きなんです…… 本当は旅の最中も飲みたくて飲みたくてしょうがなかったんです……」

 

 好きなんかい。そういえば凪も酒は好きだったな。

 飲めない俺を誘ってはよく居酒屋に連れていかれたっけな。

 よし、昔を思い出してフィーネに酌をしてやろう。


「そうか。よかったな。今日は無礼講だ! いっぱい飲んでいいからな!」


 フィーネの目がキラキラ輝く。はは、そんな嬉しかったか。

 その様子を見てシーザーが笑う。


「がはははは! フィーネ嬢は酒好きであったか! それでは今宵は飲み比べと行きましょうかな!」

「はい! シーザーさん、負けませんよ!」


 ははは、楽しい飲み会になりそうだな。

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