第39話王都への道中

「桜、フィーネ! 今日はここで一泊だ!」


 パパはバイクをゆっくり停める。

 街道沿いの開けた場所だ。

 周りは鬱蒼とした森林地帯。

 きっと魔物とかがいるんだよね…… 


 でも私達は安心して野営が出来る。

 パパの能力で障壁っていうのがあって、その中だったら魔物も入って来れないみたい。


 昔ラノベで読んだ結界魔法っていうのに似てるかな? 

 パパはバリアーって言えってうるさいけど。


【障壁!】



 ブゥゥンッ 



 パパが一言発すると球体になったオドが私達……いや、私達を中心に半径十メートルぐらいを包み込む。

 広すぎない? まぁいいか。

 テントの他にお風呂も作るんだもんね。


 テントの設営が終わったらお腹が空いてきた…… 

 フィーネちゃんがパパに何か聞いてる。


「ライトさん、今日は何が食べたいですか?」

「そうだな…… 前に教えたトン汁がいいかな。作れるか?」


「はい! レシピは覚えてますから!」


 フィーネちゃんがニコニコしながら調理を開始する。

 私も手伝おうかな。

 フィーネちゃんの隣で私も野菜を切り始める。


「ふんふふーん。あれ? サクラも手伝ってくれるの?」

「うん。ところでさ、フィーネちゃんアバルサの町を出てからずっとご機嫌だよね? そろそろ何があったか教えてよ」


 道中フィーネちゃんにご機嫌な理由を尋ねたが、教えてくれなかった。

 ってゆうか話そうとしてたみたいだけど途中から顔を真っ赤にして口を開かなくなる。

 しょうがないからパパにも聞いたんだけど、フィーネに聞けだってさ。


 フィーネちゃんは顔を真っ赤にしながら野菜を切り続ける。


「う、うん。実はね…… きゃー! だめー! 言えないー!」



 ブンッ



 あぶっ!? フィーネちゃん、包丁持ったまま照れないで!


「お、落ち着いて! 今は話さなくていいよ。もうちょっと落ち着いてから……」


「うん…… でもサクラには聞いて欲しい…… そうね、でもライトさんが近くにいると恥ずかしいから…… お風呂に入った時にでもね!」


 パパがいると恥ずかしい? 

 ははーん、少しは二人の距離が縮んだってことかな? 

 ふふ、話を聞くのが楽しみ。


 手際よく夕食を作り終え、ごはんの時間。

 今日の献立は具だくさんのトン汁と焼きおにぎりと葉野菜の浅漬けだ。

 異界で純和風のごはんが食べられるなんて……


「頂きます」


 パパはまずトン汁から手を付ける。

 ふーふーしてからお椀に口をつけて……


「美味い…… フィーネ、腕をあげたね。俺よりも上手だ」

「ほんとですか!? 嬉しいな!」


 どれどれ? 私もトン汁を一口。

 これは美味しい…… ちゃんと出汁は取ってあるし、野菜の切り方は丁寧だし。


 お腹いっぱいになるまでトン汁を楽しんだ。



 食事が終わるとお風呂の時間。

 毎回パパは時間をずらして入ってくる。

 私達と同じ時間お風呂に入るのが辛いんだって。


 フィーネちゃんと一緒に湯船に浸かる。

 さてと、二人の間に何があったのかな?


「さっきの話なんだけど…… もしかしてパパがフィーネちゃんに告白したとか!?」

「こ、告白!? 違うよ! ライトさんはね、時間をくれって…… 自分の気持ちがまだ整理出来てないんだって……」


「時間を? つまり、特には進展してないってことでいいの?」

「…………」


 黙って頷くフィーネちゃん。

 でもあの浮かれ方を考えると、どっちかが告白して付き合いだしたのかと思ってた。


 フィーネちゃんがポツリポツリと話し始める。


「あのね…… ライトさんの心の中にはまだ奥さんがいるんだって…… まだ愛してるんだって……」


 パパがそんなことを…… 

 でもその気持ちは分かる。二人はすごく仲がよかったんだ。

 たしか出会ってから二十年、ずっと二人は一緒だったって言ってたな。

 

 ママが死んでしまってパパは時々一人で泣いてた。

 パパは気付いてないかも知れないけど私は知ってるんだ。


「そうなんだ…… でもさ、二人は今まで通りの関係なわけでしょ? フィーネちゃんはどうしてそんなに浮かれてるの?」

「んふふ…… あのね…… ライトさんにフィオナって呼んでもらったの!」


 すっごい笑顔でフィーネちゃんは言うのだけど…… 

 ちょっと意味が解らない。


「それってどういうこと?」

「あ…… ごめんね。サクラは知らないよね。フィオナっていうのは私の聖名なの」


「聖名?」

「そう、聖名。私達アルブの民は二つの名前を持ってるの。フィーネはお父さん達がつけてくれた名前。そして聖名のフィオナっていうのは神様と愛する人に捧げる名前なの。その名を呼んでいいのは神様とつがいになる者だけ……」


 フィーネちゃんの顔が真っ赤になる。

 でもパパはアルブの風習なんて知らないはず。

 きっとフィーネちゃんはパパにその名前を呼ばせただけなんだろうな……


 なんかフィーネちゃんが興奮しだした。

 次々にのろけ話をしてくるんだけど……


「それだけじゃないんだよ! 私ね! ライトさんの耳を噛んじゃったの! どうしよう!? もう引き返せないよぅ…… んふふ……」


 えーっと…… 

 今までの話の流れからだと耳を噛むっていうのもきっと意味があるんだろうな……


「詳しくお願い……」

「んふふ。あのね、アルブの民にとって耳を噛むっていうのは愛してるっていう言葉以上の意味を持つの! あなたに心と命を捧げますっていう意味なの…… どうしようサクラ! 私、ライトさんに告白しちゃった!」


 あちゃー。フィーネちゃんはパパとの関係が進展してると思ってるかもしれないけど、ほとんど変わってないわね…… 

 フィーネちゃん、相手はパパだよ? 

 ただでさえ鈍いパパにそんな回りくどいやり方したって伝わらないよ……   

 でも私がフィーネちゃんがパパのこと好きだって言ったから、少しは意識するようになったかな?


 全くもう…… 世話の焼ける二人だね。

 私が何とか出来るかな?


「俺も入るぞ」


 パパ? そうか、お風呂に入ってずいぶん時間が経っちゃったんだ。

 フィーネちゃんはパパが服を脱ぐ姿を恥ずかしそうに見つめている。


 体を洗い終わり、パパも浴槽に入ってくる。


「あ~~~…… 気持ちいいな…… ん? フィーネ、顔が赤いぞ。のぼせたんじゃないか? 長風呂は体に毒だぞ」


 ふふ、フィーネちゃんはパパにのぼせてるんだよ。

 相変わらずパパは鈍いね。


 

 しっかり温まってお風呂を出る。

 後は寝るだけ。

 みんなでテントに入って毛布をかぶる。

 その前にパパが私達に向かって……


「桜、フィーネ。早く寝るんだぞ。多分明日には王都に着くはずだ。この国を出れば俺達の旅は半分を終えることになる。目的を忘れるなよ」


 そうだ…… 私達の目的は日本に帰ること。

 そしてフィーネちゃんは捕らわれた仲間を助けること…… 

 そう言えば目標を達成したら二人はどうなっちゃうんだろう……? 


 そのままお別れなのかな……? 

 振り返るとフィーネちゃんは真剣な表情をしてる。

 さっきまでいた恋する女の子の顔じゃない。

 決意を秘めた戦士の顔だ……


「分かっています……」

「ならいい。それじゃ寝るかな。二人ともお休みな……」


 少し重くなった空気の中、私達は横になる。

 数分もするとパパの寝息が聞こえてくる。

 パパって寝つきがいいんだよね。


「サクラ……」


 ん? 小声でフィーネちゃんが呼んでる。

 あはは。いつものアレね。

 私達はこっそり寝てる場所を交換する。

 パパを起こさないようフィーネちゃんがパパの横に。

 さっきまで戦士の顔をしてたのに、今は恋する女の子の顔に戻ってる。


「サクラ…… いつもありがとね……」

「別にいいよ…… それじゃお休みね……」


 それじゃ寝ようかな、パパ、フィーネちゃん、お休みね……



 眠気が襲ってくる…… 



 瞼が重くなる……



「ひゃあん…… ん……」



 フィーネちゃんのいつもの悲鳴……



 眠りに落ちる前に見た光景……



 パパがフィーネちゃんを抱きしめ……



 キスをしていた……



 ふふ…… パパやるじゃん……

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