第27話第一の町 ガロ

 湖と見間違うほど大きい川を渡り切る。

 船を降り、眼前に広がるは鬱蒼と木々が生い茂った密林地帯…… 

 一応ではあるが街道はあるみたいだな。


 街道って言っても、それっぽく石が敷き詰められたものだけど。

 道幅は車が一台通れる程度だな。


 船頭と別れ、歩きで少し進む。

 日の光が木々に遮られ、随分薄暗く感じるな。


「リッヒランドとは大分違う感じだね……」


 桜はオドオドしながら辺りを見渡す。

 都会っ子の桜のことだ。

 見慣れぬ風景に戸惑ってるんだな。


 俺は割りと田舎の出身だからある程度はこういった風景には耐性がある。

 流石にここまでの密林は見たことがないがね。


 地図を広げて最初の目的地、ガロの町を確認。

 縮尺は書いてないが……

 南西に百キロから百五十キロってとこだな。


 さぁグダグタしてても始まらない。

 出来るのは先に進むことだけだ!


「フィーネ! バイクを出してくれ!」


 フィーネが収納魔法を発動し、バイクを取り出す! 

 皆で乗り込みエンジンスタート!


「行くぞ!」

「うん!」「はい!」



 ドルンッ ブロロロロッ……



 バイクが走り出す! 

 なるべく飛ばすからしっかり掴まってろよ!



◇◆◇



 ブロロロロッ




 バイクを走らせること六時間、木漏れ日が朱に染まる。

 もうすぐ日が暮れるな。

 座席の一番後ろにいる桜が大声で話しかけてくる。


「ねぇパパ! まだ着かないのかな!?」

「多分もうすぐだ! 疲れたか!?」


 バイクってのは後ろに乗ってるだけでも何気に疲れるからな。

 車みたいに疲れたら寝ることも出来ないし。


「もうクタクタだよ! 町に着いたら宿を取ろうよ! 久し振りにベットで寝たい!」

「賛成! フィーネもそう思うか!?」

「…………」


 ん? 返事が無い。

 どうしたんだろうか?


「パパ! フィーネちゃん、さっきから寝ちゃってるよ!」


 寝てんのかい…… 

 道理で静かだと思ったよ。 


 更に一時間ほどバイクを走らせる。

 少しずつ周りの木々の密度が薄くなっていくな。

 きっともうすぐだ。


 その予想は当たり、俺達は最初の目的地、ガロの町に到着。

 なんか町っていうより集落って感じだ。

 ヴェレンは石造りの塀で囲まれたヨーロッパ調の建物なんかが目についたが、ここは木造の家屋が多いな。

 日本の昔ばなしの絵本で見たような風景だ。



 ブロロロロッ キキィッ



 俺は村の前でバイクを停める。

 この国で人族はマイノリティだ。

 そんなやつが正体不明な乗り物に乗ってきたのを見られたら、間違いなく警戒されるだろう。


 さて、ここはフィーネの出番だな。後ろを振り向いて……


「フィーネ、起きな。着いたよ」

「ん…… あれ? ここは……?」


「ほら、寝ぼけてないで。収納魔法でバイクを閉まっておいてくれないか?」


 フィーネは眠そうな目をこすってからバイクを降りる。

 そして前回宜しく収納魔法でバイクを亜空間に転送する。

 見事なもんだな…… 

 フィーネが一緒に旅に着いてきてくれて良かったよ。


 バイクをしまい、町の前に。

 どうやら町に入るには正門を通らないといけないみたいだ。

 門番らしき二人の犬…… 

 いや、獣人が俺達を見て話しかけてくる。


「おや? 人族か? こんな田舎に何の用だ?」


 何となく警戒してるのが分かるな。

 大きな犬耳がペタンと畳まれている。

 威嚇だったり警戒してる時の動きだ。

 ここは穏便に……


「あぁ。旅の途中でね。今日はもう日が暮れるからな。この町で一泊したいんだが入れてくれないか?」


 二匹は俺達に聞こえないように相談している。


「なぁ…… どう思う……?」

「見た目も弱そうだし、悪い奴等には見えないな…… 大丈夫じゃないか……?」


 見た目は弱いか…… 

 まぁそこはよしとしよう。強さを自慢するつもりもないしな。

 ベッドで眠れるなら、どう思われようが構わないさ。

 話がまとまったみたいだな。

 門番は町に入る許可をくれた。


「入っていいぞ! でもあまり騒ぎは起こすなよ!」


 よかった。

 俺達はアズゥホルツの最初の町、ガロに入ることが出来た。


 中に入ると…… 

 全体的に静かな町だな。

 人がいない訳ではないが、何と言うか全体的に活気が無い。

 少し町を散策してみるか。宿も探さなくちゃならんし。


 三人で話しながら宿を探す。後ろからフィーネが話しかけてくる。


「ライトさん…… なんか静かな町ですね……」

「やっぱりそう思うか。そういえばフィーネはこの国は来たことがあるんだったよな? 前からこんな感じだったの?」


 フィーネは故郷を追われ、リッヒランドに落ちのびる過程でこの国を通ってるはずだ。

 確か幼いフィーネを匿ってくれた人達もいたみたいだし、優しくて明るい人が住む国だと勝手に想像してたんだよな。


「昔のことなのであまり覚えていませんが…… ですが、この国の人は温和で優しい人が多かったはずです。何か原因があるのでしょうか?」


 原因か…… 話を聞いてみるかな。

 そのためにもまずは宿を見つけないと。

 突然桜が俺の袖を掴む。


「パパ! ほら、あそこ!」


 桜が指さす方向に…… 

 どれどれ? 看板が掲げられている。

 ジーナ亭か。周りの建物より一回り大きい。

 多分宿屋だな。


「よし、あそこに行こう!」


 宿屋らしき建物を目指す。

 木造ではあるがしっかりした作りだ。

 他の建物より小奇麗だな。

 掃除がしっかりされてるんだろう。

 ならここに泊まっても大丈夫そうだな。

 お客を迎えるためのクリンリネスがしっかり行われている。

 従業員教育が徹底されているのだろう。

 俺も部下には仕事の前には整理整頓と掃除だって口酸っぱく教えてたし。


 中に入ると受付らしき女の子が出迎えてくれた。

 ん? この顔は…… 人族? 

 いや違う。人間の顔はしているが、大きな獣耳がついており、人間にはないパーツである尻尾がついている。

 ラノベでよく見る獣人だ。

 船頭さんや門番は直立二足歩行の犬だったもんな。

 獣人と一口に言っても色々な人がいるのだろう。


「いらっしゃいませ! お泊りですか!?」


 受付嬢は嬉しそうに尻尾を振っている。


「あぁ。3人だけど部屋は空いてるかな?」

「はい! 今はお客様はいないので泊まりたい放題です!」


 俺達だけ? 町に活気が無く、宿には客がいない…… 

 後で話を聞いてみるか。


「そうか…… お前達、部屋割りはどうする? 桜とフィーネは一緒の部屋がいいか?」


 ん? フィーネ、なぜちょっとがっかりした顔をする? 

 隣で桜が苦笑いしてるのだが。


「あはは…… うん、部屋割りはそれでいいよ。後でパパの部屋に遊びに行くね」

「分かった。では案内してもらえるかな?」


「はい! こちらになります!」



◇◆◇



 先に桜とフィーネが部屋に通され、俺は受付嬢と二人になる。

 俺の部屋は小さめな個室だな。

 簡素なベッドが片隅にあるだけだ。

 まぁベッドで眠れるだけよしとしよう。


「では後で下に来てください! お食事を用意しておきますので!」


 食事か。最近ずっと自炊してたもんな。

 たまには誰かに作ってもらうってのも嬉しいな。


「分かった。ありがとう」

「ではお待ちしていますね!」


 受付嬢は元気よく持ち場に戻る。

 さてと…… 荷物を降ろし、装備しているレザーアーマーを外す。

 


 ドサッ



 ふー、楽ちん。

 レザーアーマーはかなり軽いとはいえ、剣道の防具を常に着ているみたいな感じなんだ。

 こんなのを四六時中着てなくちゃいけない冒険者ってのは大変だな。


 ベッドに座って一休み。

 少し経つと部屋をノックする音が。



 トントンッ



「パパー、ごはん出来たって!」


 桜か。はは、お腹が減ったんだな。

 さてこの国の宿の食事はどういうものなのだろうか。楽しみだ。


 下の食堂に行くと既に食事は用意されていたのだが…… 


 そこには具材が申し訳程度にしか浮いていない薄そうなスープと堅そうなパンが置いてあった。

 まさかこれだけ? 桜とフィーネも唖然としている。

 案内してくれた受付嬢に視線を送ると……


「すいません…… 材料が無いんです……」

「材料が無い? どういうことだ?」


「はい…… 実は最近になって町の近くに魔物が出まして…… それらが畑に住み着いてしまったんです。町の多くの者は農業で生計を立てていまして…… 作物が採れず、商店には売れる物も無く、今は僅かな蓄えを少しずつ切り崩しているんです……」


 なるほど。町に活気が無かったのはこれが原因か。

 フィーネが冒険者らしく受付嬢に質問を始めた。


「そう…… 辛かったわね。少し話を聞かせてくれる? 町の人に被害は?」

「たしか、何人か魔物に襲われて怪我をしたみたいですが、死んだ人はいないはずです」


「この国にギルドは……無かったのよね。でも獣人って強い肉体を持ってるはずでしょ? あなた達でなんとか出来なかったの?」

「はい、最初は自警団を作って魔物を退治しようとしたんですが…… なぜかその魔物は自ら傷を癒すことが出来るみたいで、私達では倒すことは出来なかったんです…… 私達に出来ることは魔物が町に入って来ないよう、門の守りを固めるだけ……」


 そうか。だがこのまま魔物を放っておくわけにはいかないな。

 食料の備蓄は残り僅かだろう。

 何とかしないとこの町の人は飢えて死んでしまうことにもなり兼ねん。


 受付嬢は申し訳なさそうに裏に下がっていった。

 俺達は食卓に着き、食事を始める。

 美味しくは無かったが、俺達の為に貴重な食料を使って作ってくれたんだ。

 ありがたく頂こう。


 食事を終え、物足りなそうにしている二人に話しかける。


「フィーネ、桜。一つ提案がある」

「提案ですか?」


「あぁ。俺達は先を急ぐ旅をしている。だが、この町の人はかなり困ってるだろ? ここで何とかしなかったら餓死する人も出ることにもなるかもしれない。だからこの町に少しの間滞在して魔物を退治してみようと思うんだが……」

「「賛成!」」


 ははは! 早いよ! 

 俺は多数決で決めようって言おうとしたのだが。

 彼女らの答えは決まっていたみたいだな。


「二人共、ありがとな」

「ううん。だってパパは困ってる人がいたら出来る限り助けてあげろって教えてくれたじゃん。それを実行するだけだよ」


 桜…… 助かるよ。悪いな面倒に巻き込んじゃって。

 なんかフィーネが恥ずかしそうに俺の顔を見ている。


「わ、私も頑張ります…… だって…… ライトさんのしたいことは私のしたいことですし…… ごにょごにょ……」


 なんだかよく分からんがありがとうな、フィーネ。


「それじゃ明日は付近に住み着いた魔物退治だ。どんなヤツが相手か分からん。各自しっかり休んでおくようにな」

「「はーい!」」


 食事が物足りなかったので桜におにぎりを出してもらう。

 俺はそれを頬張りながら考える。

 傷を癒せる魔物か。油断は出来ないな。


 さぁ明日は魔物退治だ! 気を引き締めていくぞ!

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