アズゥホルツ編

第25話国境前

 リッヒランドの町、ヴェレンを出てから今日で十五日目。

 俺達はアズゥホルツ国境付近に到着。予想より少し時間がかかったな

 まぁ街道でバイクを走らせてるだけじゃなくて、道中で戦闘もあったからね。


 その中で一つ気づいたことがある。

 道中の戦闘で俺よりレベルの低い大ムカデの群れがいたんだが、そいつらにはまさに無双と呼ばれるような戦いが出来た。


 襲いかかるムカデに魔銃ハンドキャノンで応戦。

 外皮が固そうで攻撃が通るか心配だったが、一発でムカデを倒すことが出来た。


 どうやら同レベル、そして俺より下のレベルの敵にはステータスが反映されるみたいだ。

 一応DPSを確認したら五万を超えていた…… 

 無双出来る訳だよ。

 まぁ、上のレベルの敵を相手にする時はDPSが一気に下がるので油断は禁物だ。


 さて、辺りが暗くなってきたので今日はここで一泊だな。

 バイクを停め夜営の準備に取りかからねば。

 テントの設営を終えたフィーネがこちらにやって来る。


「ライトさん! 今日もお料理教えて下さいね」


 ニコニコ笑いながらお願いしてくる。

 ははは、いいともさ。

 初めてフィーネにご馳走になった時は壊滅的な料理の腕に驚愕したもんだが、彼女は俺と一緒に料理するようになってから、その腕を上げていった。

 物によっては俺より美味く作れる品もあるのではないだろうか。


 だが、今日は俺が料理をしようと思う。

 ちょっと作り方が特殊でね。

 教えてもあまり意味の無い料理なんだ。


「すまんが今日は俺に作らせてもらえないか? そうだな…… フィーネ、風呂を作っておいたから今のうちに湯船に水を張っておいてくれ」

「ライトさんのお料理が食べられるんですね! 嬉しいなー。それじゃお風呂の準備をしてきますね!」


 はは、頼んだぞ。さて次は桜に……


「桜、ソースと胡椒を出しておいてくれないか?」


 桜は目を輝かせて寄ってくる。


「え!? 何を作るの!?」


 はは、食い意地はっちゃって。

 桜は新しく得た加護、無限調味料を発動し、懐からソースと胡椒を取り出した。

 桜がこの加護を得てから俺達の食は一気に充実することになった。

 やっぱり調味料は大事だよね。桜の力があれば多少のアレンジで無限ラーメンの味付けを変え、味噌だったり醤油ラーメンに作り変えることが出来る。


 まさか異世界で味噌汁が飲めることになるとはね。

 桜の新しい加護、無限調味料を知ったその日から食卓に味噌汁が上ることになった。

 フィーネも美味しそうに飲んでいたな。

 明日の朝も味噌汁を作らなくちゃな。


 俺は調理に取りかかる。

 無限ラーメンの麺だけ取り出して少し固茹でに。

 手早く葉野菜と肉を炒める。


 麺が茹で上がったな。

 これを炒めた具材と共にフライパンに投入。

 火にかけながら軽く炒め……



 ジュー ジュワワッ



 味付けはもちろんソースだ。

 味を整えるため、少し胡椒も振る。

 これでソース焼きそばの完成だ。

 皿に盛りつけ二人を呼ぶ。


「出来たぞー」


 俺の声に桜、フィーネが笑顔でやって来る。


「あー! 焼きそばだー! でも麺はどうしたの?」

「インスタンスの麺を使ったんだ。茹で時間を変えれば代用が出来るからね」


 フィーネは席に着き、焼きそばの香りを楽しんでいる。


「んー、いい香り…… これもラーメンなんですか?」

「確かに麺は一緒だけどね。どんな味かは…… 食べれば分かるさ」


 さぁ、夕御飯だ。

 各々席に着いて食事を始める。

 桜は幸せそうに焼きそばを頬張る。


「美味しいね! 普通に焼きそばじゃん!」

「普通じゃない焼きそばってなんだよ……」


「あはは。言葉が悪くてごめんね。でもこの麺、ほんとにインスタントなの?」

「そうだよ。インスタントでも工夫次第でこんな味に仕上がるのさ」


「やっぱりパパって女子力高いね! すごいよ!」


 はは、お褒めに預かり光栄です。

 さてフィーネもしっかり食べてるかな? 

 彼女に視線を移すと……


「美味しい…… 辛くって、少し甘くって不思議な味……」


 うっとりしながら焼きそばを啜る。

 聞かなくても満足してるのが分かるな。


「まだお代わりはあるからな! しっかり食べろよ!」


 お腹いっぱいになるまで焼きそばを楽しんだ。



◇◆◇



 夕食を終え、風呂が沸くのを待つ。

 桜とフィーネが片付けを買って出たので、俺はテントから離れて一人タバコに火を着ける。


 暗闇の中、タバコの先が赤く燃える。


 深く吸い込んで紫煙を吐く……


「ふー……」


 口に残るはタールの苦い味。

 ははは、これでタバコ特有の毒性が無いなんてね。


 このタバコは俺のかみさん、数年前に死んでしまった妻、凪の加護で取り出せる。

 本数は無限だ。これで禁煙からまた一歩遠ざかったな…… 

 

 まぁこの世界にストレスをあまり感じないせいか、吸う本数はかなり減った。

 このタバコだってまだ二本目だ。

 もしかしたらこのまま禁煙出来るかもな。


「パパー、片付け終わったよー。お風呂も沸いたー!」


 風呂か。一日の最後の楽しみだな。

 風呂と言っても地面を掘って作成クリエイションでその穴に浴槽を取り付けるだけだが。

 簡易的な露天風呂ってとこだな。


 ヴェレンを出る前日に初めてフィーネを風呂に入れたのだが、彼女は痛く気に入ったみたいだ。

 だが、最初に皆で風呂に入ったので、何故か毎回一緒に風呂に入ることになってしまった。

 最初は大きな戦いに勝った記念として皆と入ろうと決めてたのだが、なんか流れでその後も皆で風呂に入ることになってしまったのだ。


 フィーネと桜が風呂に行った。

 その十分後俺も風呂に向かう。

 二人は風呂が大好きだ。彼女らと同じ時間入るのは少し辛くてね……


 俺は湯船からお湯をすくい、体を洗い始める。


 

 ピチョッ パシャッ



 桜とフィーネがイタズラしてるのだろうか?

 クスクス笑いながら俺にお湯をかけてくる。


 体を洗い、俺は湯船の中へ。



 チャプッ……


 おぉ、この快感…… 一日の疲れが抜けていくようだ。


「あ~~~……」


 いかんな、いかにもおっさん的な声を出してしまった。

 それを見てフィーネが笑う。


「ふふ。ライトさんってお風呂に入るときいつもそれ言いますよね? どうしてですか?」


 それは俺も分からない。

 いつの間にか言うようになったんだよな。

 答えがあるとするなら…… 

 おっさんになったってことかな。


 肩までお湯に浸かりながら夜空を見上げる。

 空には大きな月が二つ出ている。

 時折星が流れる。なんて幻想的な…… 

 ここはやっぱり異世界なんだな。


 


 風呂を出たら後は寝るだけだ。

 今日は少し寒いので、先日ダンジョンでゲットした極北の冒険者のマントをテントの床に敷く。

 これは体温維持効果があり、寒い夜もポカポカだ。


「それじゃ寝るとしますか。桜、フィーネ。明日は新しい国、アズゥホルツに入る。確か魔物が多く出没するんだったよな? この先何が起こるか分からん。今の内にしっかり寝ておけよ」

「「はーい」」


 ははは。緊張感ゼロだな。まぁ暗くなるよりはいいか。

 三人で横になるが二人はおしゃべりをしてる。全く……


 早く…… 寝るんだ……ぞ……













 ん…… 何かゴソゴソしてる……



 俺の方に何か寄ってくる……



 桜か……? 寒いのかな……?



 しょうがないな…… ほら…… おいで……



 俺は桜を抱き締める。



「ひゃあん…… ふふ…… ライトさん…… 大好き……」



 何か聞こえた気がした。 



 俺は桜を抱いたまま眠る。



 みんな、明日もがんばろうな……

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