第24話次に向けて
チュンチュン…… チチチ……
鳥の声……
未だに経験したことは無いがこれで隣に裸の美女がいたら朝チュンになるんだろうな。
そんな益体も無いことを考える。
ふあぁ。起きるとするかね……
グッ
って体が動かない!?
これが世にいう金縛りというやつだろうか?
まさか魔物の攻撃とか!?
いや、そんなことは無かった。
桜が俺の腹を枕にして。
そして何故かフィーネが俺を抱き枕にしてグースカ寝てるだけだ。
「こらっ! お前ら起きろ! なんで俺の部屋にいる!」
俺の声に気づいたのか桜が目を覚ます。
「ふぁ~…… おはよ、パパ」
「桜…… ここはお前の部屋じゃないだろ? なんでこの部屋で寝てるんだ?」
「あれ? パパ覚えてないんだね。昨日の夜、みんなで祝勝会をしたじゃない? みんなでお風呂入ってからパパの部屋でラーメン作ってさ」
確かにそれは覚えてる。
でも夜も更けてきた所で俺は疲れて寝ちゃったんだよね。
「でもさ…… お前ら俺が寝た後、自分の部屋に帰るって言ってたじゃん」
桜は困ったように笑う。
「あはは、ごめんね。なんか面倒くさくなっちゃって、そのままこの部屋で寝ようって私が提案したの」
「お前なぁ…… 桜だけならまだしもフィーネはまだ嫁入り前の娘さんだぞ? テントならしょうがないとしても宿では部屋は別にしないと」
今度はフィーネが起きる。
「うむぅ…… ライトさん、おはようございます……」
「おはよ…… フィーネ、そろそろ離してくれない?」
「え? えーっと…… ちょっ!? やだ、私ったら! ひゃあんっ!?」
フィーネは俺に抱きついているのに気づいたみたいだ。
びっくりしながらベッドの下に落下していった。何してんだか。
俺はベッドから起き出して着替えを始める。
今日はギルドに行かないと。
先日ダンジョンで手にした素材などの鑑定結果が出てるはずだからな。
「ほれ、お前達も部屋に戻って着替えてきな」
「「はーい」」
二人はハモりながら返事をして部屋を出ていく。
はは、やっぱり娘が一人増えた気分だな。
分からないもんだな人生って。
かみさんが死んでこれ以上子供なんて増えないって思ってたのに。
まぁフィーネとも旅の目的である転移船を手に入れたらそこでお別れだ。
それまで仲良く出来たらいいな。
桜とフィーネは着替えを終え、俺と一緒に宿を出る。
先日仲良くなった宿屋のご主人、バートンさんにお世話になったことのお礼を言う。
「ご主人。色々とありがとうございました。とてもいい宿でした」
「ライトさん、また来てくださいね。それと…… 本当に裏庭にあるフロと呼ばれる物は頂いていいのですか?」
バートンさんは申し訳なさそうに聞いてくる。
風呂か。あれは試験的に作ったものだしな。
それがこの宿の新しい名物になるのであれば作った甲斐があるというものだ。
お湯なんかは魔法が得意な者にでも頼めばなんとかなるだろ。
「はい、遠慮なく貰ってください。浴槽は魔法で作った物なのでかなり頑丈です。ただ、掃除だけはしっかりと。浴槽っていうのは菌が繁殖し易いですからね」
「キン? なんですかそれ?」
「はは、失礼。いつも清潔にしてれば問題無いってことですよ。それじゃ先を急ぎますので!」
「はい! またいらしてください!」
こうして俺達は宿を後にする。
いい宿だった。もしまたこの町を訪れたらこの宿に泊まりたいな。
ギルドまで三人で話ながら歩く。会話の内容は主に風呂についてだ。
「ねぇパパ! 今日もお風呂に入れるの!?」
「あぁ。創造魔法で
「わー! 楽しみです! ふふ、ほんとライトさんの世界ってすごいものがいっぱいありますね! 私も行ってみたいな!」
何気ない会話を楽しんでいるとギルドに到着。
さてドロップ品はおいくらぐらいになってるかな?
ギルドの中に入ると……
あれ? なんだかガヤガヤしてるな。一体何があった?
受付カウンターから俺達を呼ぶ声がする。
エレノアだ。
「ちょっと! 遅いよ! こっちにおいで!」
声を荒げるエレノア。
なんだかかなり興奮してるな。
換金カウンターには多くの野次馬がひしめき合っている。
俺達は用意された椅子に腰をかける。
エレノアが昨日預けたドロップ品を持ってこちらにやってきた。
それを憎々し気にカウンターにおいて、エレノアは説明を始める。
「全く…… あんたら、とんでもない物を持ってきてくれたもんだよ。おかげでこっちは寝不足だよ。ふぁあ……」
エレノアはあくびを一つ。
そしてまずは素材の説明から始める。
「まずはこいつからだ。この宝石…… 特に魔力とかは内包してないが、見事な品だ。これを研磨してオドを込めればレリック並みの魔法の杖が出来上がるだろうよ」
これはスケルトンを倒した時に出た宝石か。
「次。スケルトンの髄液。かなり珍しい品だ。スケルトンの中にもたまに髄液を持ったヤツがいてね。これは錬金術の素材として高額で取引される」
なるほど。
説明は続く。
聖樹の苗木、ブラックダイヤモンドなどもかなり高額で取引されるようだ。
一通り素材の説明を聞いたが特に俺達には必要の無い品のようだ。
これは換金しても問題無いだろう。
「分かりました…… ではそれらを換金するといくらになりますか?」
「これを全部かい? 待ってな。原価から鑑定額と手数料、ギルドへの上納金を引いて…… 六千万オレンだ……」
ん? 六千万オレン?
六千万…… 六千万オレンだとっ!?
「パパ…… 確か一オレンが一円ぐらいだったよね……?」
なんとなくだが焼きトカゲ一本二百オレンだから、そんなものだろう。
つまり俺達はいきなり六千万円も手にするというのか!?
今まで真面目にサラリーマンをやってきた俺にとって、それはまるで宝くじに当たったような幸運だった。
フィーネもその額を聞いてかなり驚いている。
「すごい…… こんな大金を一回で稼ぐ冒険者なんて初めて見ました……」
「いや、俺だけの力じゃないし…… それにフィーネだって充分活躍したぞ。冒険者がどれくらい稼ぐのか知らないけど、フィーネはそれに見合うぐらいの危険は冒したんだ。貰っておいても問題ない……よな?」
やばい、ドキドキが止まらない……
それにこれって素材だけの換金額だろ?
俺達にはまだドロップした装備品がある。
指輪が二つ。武器が二つ。マントが一枚だったか?
エレノアは装備品をカウンターに置く。
説明は…… 始まらなかった。
「すまんがこれらの説明は出来ない…… それに換金も出来ない。勘弁しとくれ……」
その答えにフィーネがむすっとした表情で応える。
「ちょっと! 換金出来ないってのはどうしてよ! 多分だけど、この剣とか指輪とかかなり貴重な品なんでしょ!」
「換金する金がここに無いんだよ! さっきの素材だけでギルドの金庫はすっからかんだ! 大体なんだ! この中に一つレジェンダリーの指輪が入ってるだろうが! こんなの神話の世界の装備品だ! ここで換金出来るわけないだろ!」
ん? レジェンダリー?
初めて聞くな。なんのことだ?
「エレノア…… レジェンダリーってなんのことだ?」
「そっから説明が必要か…… まぁいいか。見な。まずはこれ。亡国の騎士の剣だ。これは参考文献が残ってた。それに照らし合わせて、さらに試し切りもしてみた。ダマスカス鋼の金床が真っ二つだったよ…… この剣はクラスはレリックだ」
「レリック…… 価値はどれくらいあるんだ?」
「まぁレリックの価値もピンキリだが…… どれも国宝級って思えばいい」
国宝…… そんな剣が手に入ったのか。
「次。血塗られた暗殺者の短剣。これもレリック。猫の目の指輪もだ。極北の冒険者のマントのクラスはマジックだけど、その効果はレリック級だね。でもこの指輪が一番やばい……」
エレノアは一つの指輪を指さした。
それは…… バンシーを倒した時に拾った指輪だな。
これにはどういう効果があるのだろうか?
「これは幸運の指輪だよ…… これを手にした者はとんでもない幸運に恵まれるって話しだ。これは幸運の女神パドマーヴァティーが持つ指輪だとされる。神話の世界の話だけどね…… 悪いがこれには価値が付けられない。他の装備品もだ。悪いけど装備品は持って帰っておくれ……」
そうか。まぁ金は充分手に入った。
装備品は適当に分配すればいいか。
「分かった。エレノア、ありがとう」
「あぁ…… そういえばアンタらこれからヴィルジホルツに向けて旅立つんだろ? フィーネから聞いてるかもしれないけど、私もアルブの民なんだ。私からもお願いする。仲間を…… 助けておくれ……」
「あぁ、任せてくれ。じゃあ金は貰っておくよ。エレノア…… 仲間は必ず助けてやる。フィーネのためにもな」
「ライトさん……」
なに、どうせ俺と桜が地球に戻るためにはヴィルジホルツに行かなくちゃいけないんだ。
フィーネはそこに捕らわれてる同族を救う目的がある。
利害が一致したってだけさ。だから恩を感じる必要なんてないからな。
気楽に行こうぜ。
こうして俺達は旅費を手にすることが出来た。
装備品はどうするかな……
防具はレリック級のカーボンナノチューブ入りのレザーアーマーがある。
武器も魔銃や魔導弓があるので買う必要は無いだろ?
金を装備に回す必要は無いな。
俺達はギルドを出ると、商店街に赴く。
買うのは食料だ。
幸いフィーネが収納魔法を使えるので大量に買ってもかさばることは無い。
肉、野菜、果物と、とにかく買えるだけ買った。
それでも三百万オレンしなかったな……
さて、買い物は終わりだ。
今度はヴェレンを出てバイクを隠してある茂みに。
だがバイクに乗る前に……
「フィーネ、ドロップした装備品を出してくれ」
「装備品ですか? はい、ちょっと待ってて下さい……」
地面に手に入れた装備品を並べる。
今の内に分配しておくか……
「まずはフィーネからだ。君には亡国の騎士の剣と幸運の指輪を貰ってくれ」
「え!? そんな私なんかが恐れ多いですよ! だって剣はレリックだし、指輪はレジェンダリーですよ!?」
「はは、ランクなんて関係ないよ。フィーネはアタッカーだ。魔法の他に近接戦闘も行わなくてはいけない。剣があれば攻撃力も上がるし、幸運が上がれば怪我もしにくくなるんじゃないか? だからこれは君が持っておくべきなんだ。フィーネ、いいね?」
「私が幸運の指輪を…… ライトさんに出会えただけでも幸運なのに……」
ん? 今何か聞こえたような気が……
まぁいい。それじゃ次だ。
「桜、お前には暗殺者の短剣とマントだ」
「ナイフとマント? ナイフは分かるけど、マントはなんで?」
「ははは、桜は寒がりじゃん。このマントは体温維持効果があるんだってさ。桜にぴったりだろ?」
「あはは、そうだね。それじゃ遠慮なくもらっちゃおうかな。で、パパは残り物の猫の目の指輪でいいの?」
「あぁ。まぁ特に効果は期待してないけどね。もし金に困ることがあればこれを売ればいいさ」
これで分配は終わり。
各々宛がわれた品を装備する。
さてこれでこの国でやることは終わりだな。
それじゃ次は……
「よし! 二人ともバイクに乗ってくれ! 次は南下してアズゥホルツを目指すぞ!」
「うん!」「はい!」
二人がバイクに乗り込む。
アズゥホルツの国境までは恐らく五千キロってとこだろう。
なに、一日五百キロ走れば十日で着くさ。
「では出発!」
エンジンスタート! アクセル全開!
ブロロロロッ!
俺は次の目的地に向けバイクを走らせる!
さて、そこでは何が待ち換えてるのやら。
桜と日本に戻るためだ。何だってやってやるさ!
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