没落魔法使いと時の少女

紘(輝夜)

Chapter1:時空の綻び

第1話 回

 これと言った変化もなく、刺激的な出来事すらありもせず、孤独な日々は数知れず。

 僕ことアスラ・エクスは、シャティラ魔法学院で座学に勤しみながら、一流の魔法使いを目指して修行をしていた。

 特に、一流の魔法使いになってみんなを見返してやろうなんて思っていない。

 僕なんかが人助けをしたり、世間様のために扇動しようとも思わない。

 僕はただ、エクス家の栄光を取り戻したかった。

 それは、僕のためじゃない。

 先祖様たちの努力と才能の結果が没落魔法使いだ、なんてみんなに思わせたくなかった。

 現在で十八代続くエクス家の歴代当主は、僕が住むシャティラだけでなく、この世界の歴史に残るほどの偉業を残した者ばかりだ。

 例えば、二代目で女性のアリアナさんは、魔法を階級別にし、今まで難解だった魔法がとたんに簡易化された。これにより、魔法を幼児期でも教えられるようになり、世界の識字率や魔法会得率が一気に上昇した。次の時代から、有力魔法使いには苗字が与えられるようになる。

 さらに、六代目のアエル・エクスはエクス家でも一、二を争うほどの強大な力を持つ魔法使いだった。その時代のシャティラは領土拡大を目論み、強大な魔力、知恵、財力を備え持つ全ての魔法使いを招集し、他の領土を侵攻するために戦いを仕掛けていた。

 その魔法使いの中でも抜きん出ていたアエルは、数々の領土侵攻作戦に貢献し、シャティラの繁栄を象徴する人物だった。

 しかし、シャティラの栄花も九代目のアクア・エクスの時代に衰え始める。シャティラに植民地とされている数々の国が反乱の好機と見ていた時代だった。そんな中、賢者と呼ばれたアクアはその巧みな話術で、犠牲者を一人も出さずに反乱を事前に沈め、多くの国々の独立に立ち会った。

 十三代目のアクセラ・エクスの時代は、世界全体が資源不足の真っ只中だった。アクセラはあらゆる魔法を使って、太陽や海などからエネルギーを貰い受ける技術を考案し、実践した。

 十五代目のアイディー・エクスが、自然に配慮しながらエネルギーを蓄える技術を実用化した。現在、世界の資源の大半は、自然エネルギーで賄われている。

 そして、十六代目のアルト・エクス、いわゆる僕の祖父が時を超える魔法『エクスタイム』を製作しようと試みた。エクスタイムを作ろうとした理由は聞かされていないが、当時の祖父を知る者は口を並べてこう言っていたという。


『あの執念は今まで見たことがない』


 まるで呪いにかかったように、食事の時間も惜しみ、研究に明け暮れたという。

 エクスタイムの研究を始めてから十年経ったある日、行方不明だった僕の祖父は突然姿を見せ、エクスタイムの完成を発表した。

 祖父は、五年前にエクスタイムが完成したが、誤作動で五年後の未来に到着したと言っている。

 祖父の一番親しい友人ですら、五年間姿を見なかったと言っている。祖父の発言は多少の信憑性があったらしい。

 そして、多くの有力な魔法使いが被験体になると申し出た。

 祖父は自信満々でエクスタイムを使用したのだが、その瞬間魔法使いたちは衣服だけを残して身体が液状化してしまったのだ。

 多くの有力な魔法使いを消し去ったことから、魔法使いと政府から莫大な賠償金を命ぜられる。

 そうして、エクス家の財力は地に落ちた。

 さらに拍車を掛けるように、十七代目の僕の父が浪費家だったために、エクス家の研究資料や独自開発の魔法を売り払いまくってしまった。

 最後には、数百年保ってきた歴史あるエクス邸を観光用に開放したのだった。

 父と僕はあの屋敷の十分の一ほどの家に引っ越すことになる。

 もれなくして父は病気で死に絶え、母もシャティラを離れ行方知れず。

 残った僕は、無賃で働く十代の若メイドと共に静かな生活を送っていたのだった。

 賠償金は父の代で払い切ったものの、エクス家には名誉も財産も何もない。

 見事に没落したということだ。

 有難いことに、この若メイドの家もまた有力な魔法使いの一家で、多少の支援金を頂いている。

 しかし、そんなお金を使えるはずもなく、僕は一年の大半をアルバイトで埋めていた。

 僕は先代の行いを恨んではいない。ただ、十五代以前の名誉を取り戻し、十六代のエクスタイムの謎を解明することが、僕が成し遂げたいことだった。

 シャティラの歴史に僕の名を残す必要はない。未来のエクス家に輝きが戻るのなら、僕にどんな不運が起こっても、受け入れられる。

 エクス家が再び力をつけることを願って、今は『自分』を高めるだけだ。

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