第6話 三谷の野望とハーレム王

 一人だけわかっていないであろう星子は自分の財布を開き、その中から一枚の馬券を取り出した。


「あの、知子ちゃん。この馬券当たっているか確認してもらえるかな?」

「あ、お前、高校生のくせに馬券買ってたのかよ。ちゃっかりしてるな。何々? 阪神10Rって、中山じゃないのか」

「間違えたんだって。中山のつもりだったのに何故か阪神競馬場になってるんだからビックリしちゃったよ。金額も間違えてて、200円のつもりが2000円になってるし」

「あ、ホントだ。阪神10R単勝③で馬名がガンコだって。プッ。こんな名前の馬がいたんだな」

「だからさ、確認してよ」

「あ、悪い。中山で③番来たからさ。阪神も③番とか絶対無いって……」


 ノートPCの画面を見ながら知子は固まってしまった。


「どうしたの。知子ちゃん」

「……当たってる。阪神10Rは1着③番ガンコだ、払い戻しは5440円。2000円買ってるから108800円だ。すげえな星子」

「やったね。星子ちゃん」

「うふ。ありがと波里ちゃん。みんなで美味しいもの食べに行こうよ。これでハードディスクも買えるね」

「星子ちゃん。おごってくれる?」

「もちろん。三人で美味しいもの食べに行こうね」

「やたー」

「わーい」


 知子と星子、波里の三人は手を取り合って喜んでいた。しかし、三谷は肩を落としたままだった。


「ミミ先生。予定より少なかったけど儲かったんだからさ、元気出しなよ」


 知子の言葉に力なく頷く三谷だった。


「確かにこれで借金は完済できる。しかし、今後の、私の野望を実現するための布石は打てない……」

「ミミ先生が野望だなんてさ。なんかおかしいよ。異世界行ってハーレム作るとか?」


 知子の言葉に星子が突っ込む。


「異世界じゃなくてもハーレム作ればいいと思うよ」

「それは倫理的に問題があるだろ」


 星子の突っ込みに知子が反論するも、さらに波里が反論した。


「だからさ、この世界は異なっている相反する事象が内在するんでしょ。だったらミミ先生が化学の先生じゃなくて、ハーレム王になってる事があっても不思議じゃないよね」

「うん。そういう理屈になるのかな」

「私たちがベッタリミミ先生にくっついてるところ想像しちゃった。きゃは!」

「何馬鹿な事言ってんだよ。ミミ先生が王様だからって私はくっついたりしないぞ」

「えええー。本当はくっつきたいくせに」

「いい加減なことを言うな。この馬鹿波里」

「きゃ。知子ちゃんが怒った」

「このやろ」


 キャッキャウフフとじゃれ合う女子生徒が三人。その様子を伺いながら、異世界探索の野望を捨ててハーレム王になるのもいいかもしれないと、しみじみと思いにふける三谷だった。


 透明な大気に磨かれた星空は、いつもより低い位置で瞬いているかのような臨場感があった。冬の大三角が南の空に輝き、その存在を誇示していた。


[おしまい]

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