第5話 四次元コタツとチンチロリン
「コタツの中は四次元なの。だから、思いっきり足を動かしてもぶつからないし絡まない。まあ、兄貴の足に触れないなら同じコタツでもいいかなって事」
正面に陣取り、ドヤ顔で説明する我が妹である。
「じゃあ覗いても見えないの?」
「ああ。お兄様でしたら幾らでも覗いてくださってよろしくてよ♡」
俺の左側でニコニコしてるのは、メガネっ娘の羽里だ。まさか、覗いてもいいのか?
「お兄ちゃん。だめだよ。そんな事したら羽里ちゃん本気になっちゃうよ」
そう言って俺に体を押し付けてくる星子。
マテマテ、それは密着のし過ぎだろう。俺はお前に本気になっちまうぞ?
「お兄さん。そんな小娘よりも、私の方がきっとイイわ」
右側に陣取っていたトラントロワ型が、俺の手を握る。冷たいが、その手触りは柔らかくすべすべしている。
一体どうしたんだ。このコタツを中心に、何故かハーレムが出現しているじゃないか。これはあの美少女ゲームの世界みたいじゃないか。まさか、それがこの四次元掘り炬燵の機能なのか? ゲーム世界を現実にしてしまうとか……本当にそうなのか?
「もう。モモエちゃんまで何やってんの? これだから自動人形は困るんだよね」
すかさず妹が突っ込みを入れてきた。しかし、自動人形が困るとは何なんだ。
「自動人形って、ロボットじゃないのか?」
「それが違うんだよな。モモエちゃんはね。遠い星のとある帝国の技術で作られているんだ。CPUとは別に精神体が封入されているの。人間の魂みたいなものらしいんだけど、それでものすごく人間っぽい言動をするんだ」
そう言われてもよく分からない。
「そうそう、四次元の話だよね。このコタツには色々機能があるんだけど、先ずはゲーム。スイッチオン!」
妹の掛け声でコタツの天板が光り、大き目のどんぶりとサイコロが三つ出現した。
「あっちゃー。今日はチンチロリンかよ。これじゃあ運任せだぜ」
「ゲームって?」
「このコタツの機能さ。複数のゲームの中から一つ召喚できるんだ。それも、本物のリアルな奴を」
確かにリアルだ。出て来たのはどんぶりとサイコロ三つだけだが。
「麻雀だと全自動卓になるんだけどな。花札やトランプ、モノポリーなんかも出てくるんだぜ。さあ兄貴、勝負しろ。このポッキーを賭けてな」
天板の上にポッキーが出て来た。
「これを賭けるのか」
「そう。賭けられるのは一回に三本まで。手持ちが無くなったら負け、負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く。いいな」
何でも言う事を聞く。本当なのか?
「信用しろよ。兄貴が勝ったら何でも言う事を聞く。そうだな、星子の胸触り放題ってのはどう?」
願ってもない……。いや、良いのか? それじゃあまるであの美少女ゲームみたいじゃないか。確かに登場人物は星子にそっくりだった。
「好きにしてください。もっと先に行きたければ……思いっきりどうぞ♡」
頬を赤らめ星子がつぶやいた。
ドクン!
心臓の鼓動が一際大きくなった。
信じられない。こんな幸運があっていいのか。しかも、本人が承諾しているじゃないか!
「私が勝ったら、兄貴のPCを初期化します」
しまった。罠だったのか。
星子は餌、妹の目的はそこだった。俺が今熱中している美少女ゲームを削除するのか。他にも、苦労して集めた珠玉のエロコレクションがある。妹はそれらを全て消し去るつもりなんだ。
星子の胸に目が眩み、妹の策に嵌ってしまった。
これはもう勝つしかない。
「最初は親を決めるわ。さあ、馬鹿兄貴。サイコロを振りなさい」
妹が叫んだ。
俺は卓上のサイコロを掴み、どんぶりの中へ放り投げた。
※綾川家限定の〝チンチロリン〟ルール。
・親は持ち回り。勝てば続けられるが負けると親落ち。
・目が出るまでサイコロを振るが、三回振って目が出なければ目無しとなり負け。
・サイコロがどんぶりから出た場合は場外として負け。
・親、子の双方がサイコロを振って勝負する。親が役を出しても子はサイコロを振ることができる。子が同等の役を出せば引き分けとする。
・賭けるものは飴玉やチョコ、ポッキー等の菓子類とする。現金は厳禁。
・以下、役の一覧
三個のサイコロを振り、同じ目が出てもう一つの出目の大小を競う。数字はサイコロの出目。
親が①①⑥なら出目は6、子が②②④なら出目は4で親の勝ち。
役が出れば倍付、三倍付とする。
④⑤⑥:シゴロ で倍付。
①①①などのゾロ目:嵐で三倍付。親と子が嵐の場合は数字の大きい方が勝つが、ピンゾロ(①①①)が一番強い。
①②③:ヒフミは通常マイナス二倍付だが、綾川家ルールでは不採用。
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