第2話 謎の侵入者

 それは日曜の午後の事だった。


 俺はリビングのコタツにノートPCを持ち込んで美少女ゲームに熱中していたのだが、突如、誰かが自宅に侵入してきた。

 コソ泥だろうか。

 俺は咄嗟とっさにコタツの中へ潜り込み姿を隠した。その時、ノートPCをシャットダウンしなかった事を猛烈に後悔した。女の子の全裸姿が思いっきり表示されていたからだ。

 それはともかく、何故この家に入ってくるのか。

 コソ泥なら狙っている物は何だ。先日、ローンを組んで買ったスイス製機械式腕時計スピードマスターか。それとも、東郷提督が使っていたものと同型のツァイス双眼鏡か。


 どちらも時価数十万円。自分の部屋に仕舞ってある。

 口惜しいが、被害がそれで済むなら安いものかもしれない。命には代えられないからだ。


 そう、あの二人組は拳銃を持っている。

 一人は弾倉を外したり装着したり、スライドを引いてから撃鉄を戻す。自動拳銃を玩具のようにもてあそんでいる音がひっきりなしに聞こえる。


 もう一人は家探しをしている。戸棚やタンスを片っ端から開き、押し入れやクローゼットをのぞき込んでいる。


「この部屋にはねえぜ」


 親父の書斎から出て来た奴が言う。


「なあ、本当にここにあるのかよ」

「ああ、間違いない」


 ここにあるとは何の事だろうか。


「三谷の隠し財産とか、本当か?」

「ああ、本当だ。時価数百億相当と言われてるからな」


 三谷?

 思い当たるのは妹の通う高校の教師だった。そういえば昨日、妹が何か等身大の人形を持ち帰った気がする。


 その時、誰もいないはずの二階から誰かが降りてくる音がした。


 トントントン。


 軽やかな足取りで降りてくるその音は妹ではない。あいつはいつもドタドタと余計な音を響かせているから、違いは一目瞭然だ。


「誰だお前は!」

「つーか、こいつ人間じゃねえ。ロボットだ!」


 一階に降りて来たらしいその誰かに対して、二人の泥棒が叫んでいる。


「貴方たちは私に用があるのでしょう。わざわざ不法侵入なんてしなくても、呼んで頂ければ出てきましたのに」

「お前、何ていう名だ?」

「私はトラントロワ型自動人形、個別名称はモモエと申します」

「よくわかんねえけど、お前が三谷の隠し財産なのか?」

「さあ、私が先生の隠し財産なのかどうかは判断しかねます。ただし、私はこの地球において大変高価であると認識しています。日本円にして、恐らく10兆円以上の価値があるでしょう」


「10兆円?」

「うおー。すげえ!!」


 二人の泥棒は歓喜の叫び声を上げた。それはそうだろう。10兆円以上の価値があるロボットが自分たちに従う意思を見せたのだから。


「さあ、行きましょうか。他の方に迷惑をかけるわけにはいきませんから」

「そうだな。へへへ」

「おねえちゃん。顔はロボットだけどいい体してんな」

「申し訳ありませんが、お触りは禁止です。触ると痛い目に遭いますよ」

「え? いいじゃん。ちょっとだけ」


 バキッ!


 ものすごい音がした。


「うっ腕が折れたぁ!」

「なにしやがる」

「お触りは禁止だと説明して差し上げたはずですが」

「そんな問題じゃねえ」


 ガチっと撃鉄を起こす音がした。

 しかし、すぐに男の悲鳴が上がる。


「指が折れる!」

「こんな手の届く範囲で拳銃を向けるなんて馬鹿ですか? 撃鉄を抑えれば弾は出ませんし、ちょっと外側にひねるだけでホラ、こんなに痛い」

「止めろ、放せ!」

「やめませんよ」


 ゴキゴキと骨が折れる音がする。

 男は叫んでいる。


「うぎゃああ! 指があああ!」」


「うーん。うるさいですわ、お二人さん」


 バキッ!

 ゴキッ!


 更に殴打する音が聞こえる。

 泥棒二人は気絶したのか静かになった。


 俺は恐る恐るコタツから出た。

 何故か右手にコンビニで買ってきた安物のフルーツナイフを握りしめていた。リンゴを剥こうと、コタツの上に置いていたのだが、はて、いつこのナイフを掴んだのか記憶がない。


「あら、お兄様も私と戦いたいのですか?」


 目の前には全身ガンメタリックで赤い瞳のロボットがいた。俺は戦う意思などないとアピールしようとしたのだが、そのロボットのパンチを浴びてしまったようだ。


 俺の意識はそこで途絶えた。

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