第12話 火竜ベルフェと氷の戦士レヴィア その②

「すっごい炎だね。セイバーは大丈夫なの?」

『問題ありません。ただし、この炎でも当機を覆う氷の融解には至りません』


 星子の質問にセイバーのAIが答えている。しかし、この業火の中でも融けないとは、かなり強固な氷に閉じ込められたって事だ。

 今度は氷の戦士レヴィアが剣を十字に振るう。セイバーを襲ったときと同じく、十字架状の氷塊がトリニティの構築した巨大な土の盾へと命中する。高熱のため溶岩状となって赤く輝いていた土の盾は瞬時に凍り付き、ひび割れて砕けた。


「なるほどー。溶岩を急に冷やしたら割れちゃうんだね。あのベルフェレヴィアの組み合わせって、厄介なんだね」


 黒子が頷きながら話す。

 もっともだ。温度による膨張と収縮を操って物質を破壊するんだ。あの、火竜ベルフェの高熱に耐えたとしても、氷の戦士レヴィアの低温によって砕かれるのは厄介だ。

 しかし、相手はムー帝国の末裔だという魔法使いのトリニティと、どこかの宇宙軍により改造された戦車なのだ。あの二体の魔物が脅威だとしても、トリニティと三式戦車も底知れない実力を秘めているはずだ。


「大いなる大地の守護者、ラ・ムー大王の三賢者の一人であるアラトよ。全てを包むそなたの愛で、かの業火を鎮めよ!」


 再びトリニティが魔法呪文の詠唱を行う。彼の手のひらから猛烈な土煙が噴き出し、それがベルフェを包んでいく。最初は赤く溶解していた土だが、それは次第にベルフェを覆いつくして行く。火竜の体を覆う炎の鱗も土に埋もれて鎮火した。苦しそうにうめき声を上げるベルフェの額を、三式戦車のフォトンレーザーが撃ち抜いた。火竜ベルフェは全身から激しく発火し、その巨体は灰となって崩れていった。


「やったね。あの、燃えていた鱗の炎が火竜のエネルギーだったんだ」

「そうかもな。その火が消えて力を失ったのかな」

「きっとそうだよ。土の魔術ってすごいんだね」

「だな」


 土属性の魔術など一見地味な印象だけど、実際はそうじゃなかった訳だ。トリニティが自信満々だったのも頷ける。

 一人残った氷の戦士レヴィアは盾を構える。その、大きな氷の盾から猛烈な吹雪が吐き出された。その吹雪は周囲の火災を鎮火しつつ草原を氷雪の大地へと変えていく。トリニティはその吹雪を巨大な土の盾で防いでいた。三式戦車は猛吹雪に打たれて車体を揺らしながら、砲塔の側面に設置されていたランチャーからミサイルを発射した。何本もの小型ミサイルが弧を描きながらレヴィアへと命中し、その氷の鎧を剥ぎ取っていく。そして主砲からIRフォトンレーザーが発射された。そのオレンジ色に輝く光芒がレヴィアの盾に命中し、その盾とレヴィアの左腕は瞬間的に蒸発したのだ。


「盾と鎧を剥ぎ取ったわ。核を狙え!」


 星子が叫ぶ。的確な判断だ。

 黒い霧のような体の中に黄色く輝く瞳が二つ。そして胸の部分に赤く光るボール状の物体が見える。それが核に違いない。


「我が守護者たるアラトよ。そなたの憤怒を槍に変え、我が敵を穿ち滅ぼせ!」


 トリニティの前面に展開していた巨大な土の盾は、その形状を細長い円錐形へと変えた。そしてその土の槍は氷の戦士レヴィアの心臓へと直進し、それを貫いた。僅かに残っていた氷の鎧は砕け散り、その体を構成していた黒い霧も拡散し消滅した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る