SOL.7:突撃!隣の軍需企業

 帰投。BB収容。着替え。そして報告書の前に、司令へ報告。







「あい分かったッ!!


 30分後、ワシ自ら共に社へ向かおうぞッ!!!」







 例の報告と同時に、柴田中将はそう叫び、愛刀を掴んでいた。









 30分後、武装した海兵隊と共にシャルロッテとヴェロニカと萌愛とカリン以外の全員はトラックに揺られて本社へ向かっていた。


「中将、行動が速くないですか?」


「ワシは名前こそ柴田じゃが心は薩摩!

 思い立ったが吉日、それ以外は凶じゃ!!


 しかし、許せん!!


 何が許せんとは、兵器を生む者が何故兵士に不義理を働くか!!」


 怒り心頭。そんな様子で戦闘用の装備纏う屈強な体で言い放つ。


「兵器は兵士を生かすべくある!!

 それが信用できんとするとは……!!」


 みな、司令の言葉の意味は痛いほど理解している。

 暴発する銃より殴れば殺せるスコップ、などなどの言葉が浮かぶほどには。


「……ところで、中将良かったのですか?」


「安心せい穂乃村大尉。内勤の将といえ、皆には迷惑はかけん」


「いえ、そうじゃなくって、我が部隊の配置です」


 ルルの見る外、補給と簡易点検を終えたばかりの片方が何故か嫌々な様子で進むダンデライオンが2機、


 空には、爆装を終えた空裂が2機。


「……やり過ぎでは?」


「いざと言う時の備えである!!」


 まさに開戦も辞さない覚悟を持って、一同は基地の隣のBHI本社へとたどり着く。


          ***


「いらっしゃいませ、SSDF海兵隊の皆様。

 アポイントメントはお持ちでしょうか?」


「グレネードと7.62ミリ複数。外にはBBが4機じゃ。

 アポ代わりになるかの?」


「承知いたしました。

 全ての予定をキャンセルさせ、代表をお呼びします」


 良く出来たAIだったようで、これらの提示で受付用女性型機械ガイノイドはそのまま呼び出しを始めた。


「…………軍の評判が落ちますね」


「貴官もサブマシンガンなんぞ持って何を今更」


「BB乗りの武器は、基本『個人防衛火器PDW』ですよ」


「所で大尉……私銃なんて撃ったこと、訓練で数回しかないんですけど……!!」


「代わりに教えておこう。

 しっかり離さないように持って引き金を引け。

 敵に向けて撃ってればそれでいい」


 隣でSEALsらしく油断なく周囲を見て教えるジャネットに、ふぇぇ、と志津は声を上げる。


「ちょっとちょっとちょっとぉ〜〜???

 ふぇぇ、はこっちのセリフなんですけどぉ!?」


 と、凄まじい速さでスケスケなネグリジェ姿のブリジットと、古き良き時代からの造形な触覚付き宇宙人着ぐるみパジャマで目を擦るフィーネがやってくる。


「来たか、社長!!

 もう昼頃だと言うのに寝巻き姿とは、まさに重役じゃあないかのう!?」


「重役も重役な社長、CEO様でーす!」


「まぁ何でも良い!すぐに出てきた度胸に免じて単刀直入に言おう!!


 お主らBHIが、裏でシュバルツと繋がっている可能性がある!!


 言い訳はあるか!?」


「言い訳もクソも、私達ちゃんとBBBのマニュアルに強力・監修 宇宙人って書いてありますけどぉ?」


 と、言うなりマニュアルを投げつけるブリジット。

 片手で受け取り、柴田が広げたマニュアルを見るルル達。


「ここだっ!

 『異星人由来技術関連のデータは、有効なものがサルベージされ次第アップデートしていきます』

 って描いてある!」


「それは知っておる!優先的に残骸を回しているのもだ!!

 だが、そんな情報なんぞたかが知れておるだろうが!」


「じゃあ今回は、そこそこ有効なデータでもサルベージできてたんじゃ無いんですか〜??

 そもそもそんな裏切るような真似した覚えないんでそうとしか言えないですし〜?」


「これが『いけしゃあしゃあ』っていう形容詞を使うとき……!」


「すごい……実物を本当に見た……!」


「良い子の准尉達、真似してはいかんぞ?」


「地味にその精神攻撃クるんですけど………」


 と、グスンと涙ぐんだブリジットが顔を振り、元の顔に戻してこういう。


「まぁ?ロクなチェックも入れられず、疑われるようなデータを組み込んだ私どもも悪いですから、まずは大変失礼をいたしました……

 納得いかないと言うのであれば、どうぞお調べになってください」


 仁王立ちで睨みつけるような柴田相手に、一切引かずそう言い放つブリジット。

 度胸はさすが社長だ。


「…………穂乃村大尉、この場は頼もうか」


「了解」


 やがて、柴田はそう言い放ち、ゆっくりブリジットに近づく。


「いいか?お主のような女狐が、ロクな証拠を残すことなどない。

 お前達が、BBを我々のため売ってる実績を鑑みて引く」


「まいどありがとうございますー」


「フン……じゃが、もしも何か敵と通じる部分を隠しておったとあらば……

 ワシの、この部下達を、謀っておったと言うのなら、


 物理的に首を獲る。

 たとえ女でも容赦はせん!」


「どーも、いかついフェミニスト様!」


 いー、と歯をむき出しにして言うブリジットに、フン、と踵を返して去っていく。





          ***




 そんなわけで、気が付けば社内のやたら豪華な食堂に案内されていた。


 昼時なので盛況だったが、席に余裕があるほど広い。


「…………社長さん、本当に、本当に何も隠してないんですか?」


「こちとらお得意様に歯向かうほど社が豊かなわけねーですって。

 豊かでもお得意様に歯向かえば潰れるんですもん」


 今日のメニューは、肉肉温玉ぶっかけうどん。

 メガネの星みたいな瞳の女の子から受け取って、とりあえず朝食もまだだった502のメンバーと…………


「もぐもぐもぐもぐ…………きゅぅぅぅん♪

 これすっごく美味しい!」


 ドッグフード食べて喜んでいる犬のような反応をする、柴田中将の命令で残った海兵隊員の一人のテリアがいた。

 すでに5杯目を平らげているが、その小さな体のどこに入っているのか


「…………わんこうどん」


「ワンコじゃなーい!!」


「ヨークシャー少尉、わんこうどんは地球は日本、岩手県の名産品だ」


「いやですがね中尉ぃ!これ絶対狙って言いましたよね!?」


「はいはい!今これでも深刻な話題中!!

 みんなは少尉をからかわない!

 ヨークシャー少尉は吠えない噛みつかない!」


「やっぱりワンワン扱い!?」


「はいはい、分かったらお返事!」


「うぅ……イエスマム……」


 まるでしわくちゃになった電気ネズミのような顔で渋々答えるテリアを尻目に、再びブリジットに向く。


「ですけど社長さん、私達はその名前とは裏腹に前線で戦い続けています。

 言葉だけじゃあ、一回失った信頼は取り戻すつもりは起きませんよ」


「じゃあどうして欲しいんです?

 我が社のBBB製造ラインでも見ます?アステロイドベルト地帯にありますけど」


「一番見たいのは、BBBのOSにデータを入れてる場所ですかね」


「そーいうハイパーデリケートで企業秘密満載の場所をピンポイントで突いて来ますぅ〜?」


「機械を信じていないんじゃないです。

 私達は今、あなたが信じられない」


 ルルの視線に合わせて、コマンドワルキューレの全員、と一人の顔がブリジットに向けられる。

 その視線は、避難と言うべきか、あるいは単純な疑問の解消のためか……ともかく色々な視線だ。


「…………」


 そして、ブリジットが何かを喋ろうとした瞬間、







「────では、機械は信じていただける、と言うことでしょうか?」






 ふ、そんな声と共にツカツカと歩いてくる足音が聞こえる。


「我が社は、人間の方も我々AIもビルドバスターボーンも武装パッケージも設計段階からフル稼働で対応しています。

 それもこれも全て、あなた方SSDFの要求ですが?


 ですがあなた達の介入により、マイナス30%もの予定の遅れが生じています。




 そう、


 あなた達の訳の分からないいちゃもんのせいで……!」




 彼女は、流れる長い金髪と同じぐらい綺麗なトパーズのような瞳のガイノイドだった。

 額にある恐らくは超小型でわりと値段の高い補助通信ターミナルと共に瞳が光らなければ、一瞬人間と間違いそうになるような。


 そんなガイノイドがモーター音のしない特殊関節の足を、わざわざズカズカ音を立てるように非難の表情と共に現れる。




「こらこらヴィヴィアンちゃーん?こちらの皆さんはクレーマーではなくれっきとしたお客様ですよ〜?」


「失礼とは思うけどブリジット、私はあなたの様に社の管理を任されているの。

 貴女だって、例のパッケージの問題や、BBB配備に伴う我が社の事業拡大のための小惑星オークションに、新工場開業のための法的手続きなんかのせいで寝れてない。その顔色は何?スッピンだから余計にひどいわよ。ただでさえ1G航海の体力消耗も酷い」


「社長さん、このAIお母ちゃん?」


「小うるさいしネチネチしている辺りそんな感じですわね〜?」


「……ッ!

 …………ほら、未だにここの無能なSSDFが足を引っ張っているせいで、我が社も貴女も大損害よ」


「無能……?」


「んだと、おいゴラァ!!ポンコツクソAI!?」


 と、辛かったくせに反撃ですぐキレたシャルロッテとヴェロニカの頭をむんずと掴む手が二つ。


「はい話をややこしくしない!」


 ゴスン、と顔面からテーブルへ叩きつけられる二人。

 その手の主は、二人の間にいたテリアだった。


 向かい側左にいた志津とそんなに変わらない低身長であるにもかかわらず、みごとな手際だった。


「ナイス、ヨークシャー少尉」


「海兵隊じゃいつもの事です!

 それに、これが出来たから先輩や同期より先にボクは士官になれたから!」


 えっへん、と小さい割に大きいもの二つ揺らすテリア。

 だが実際、すっごく大人しくなった二人を見るに偉い、と言うべきである。


「SSDFって蛮族ですか?」


「AIなのにずいぶん辛辣だけどね、こんなの海兵隊と陸軍のこの二人の同類ぐらい!

 さ、ボクとかより頭良さそうな大尉に話戻して!」


 ヴィヴィアン、と呼ばれたAIに言われて、そう答えてテリアは座る。

 意外としっかりしている。


「…………この二人の血の気の多さは上官として謝るけれども、なんども言うように私達は命をかけている機械に、

 つまりBBBに万が一だとかもしもなんていう『そういうの』があって欲しくはないの。

 データの出所ははっきりさせてほしい」


「はぁ……同じ要請をすでにカリンから受けました。


 今回のHi-BOSへの敵データの組み込みは、当のカリン本人の産みの親である有沢晴人氏がやったものです。

 同氏は昨日よりこの会社で、いくつかの回収済みシュバルツ残骸よりデータをサルベージする作業をさせられているのでその時に見つけたのでしょう」


「そんな都合よく敵の新型のデータが?」


「何せ、ENEMY:014から……おっと。

 キャバリエと言った方があなた達にはですか?

 大尉さんはだいぶ派手に破壊したみたいですが、海に落ちたとはいえだいぶ保存のいい機体があったようで」


 シャクに触る言い方だが、ルルは、背後のオルトリンデ隊━━━━ジョアンナ、フェリシア、志津の、恐らくはそんな戦果を上げた面々を見る。


「…………本人に話を聞いても?」


「あー…………別に良いですが」


「では今から」


「うっ……あの、後2時間後でも良いですか?」


 いよいよ証拠隠滅のための引き延ばしか……と一瞬思ったが、ルルはその言葉の異常さに気付く。


「……かわいそう?」


「あー…………ごめんなさい。

 例え我々AIが、どれほど人間の想像を超える進化を果たそうと、

 私にもどうにもできない事があります……嫌な話だけどまったく……!」


 その人工スキンの顔を、人間のような『非常に言いにくい』の顔へ曇らせ、視線を逸らす。


「…………まーたまたマアヒ・カヤールですか。

 いやですけどねーヴィヴィアン?

 晴人はあれでマアヒちゃん先生とは異常に気が合うので、おっそらくもっともっと壊滅的な事態が進行しているか、あるいは珍しく我が社を救う素晴らしい成果を叩き出すか……西暦の頃のソシャゲガチャみたいなのが今起こってますよきっと。


 水を飲み、ため息をついてブリジットが言う。


「ふぇっ!?

 マアヒさんまた何かやったんですか!?!」


 寝ぼけ眼だった宇宙人型パジャマのフィーネが目を覚ましてそうあたふたして言い出し始める。



 時刻は昼時、あらゆる社員がいる食堂。


 さっきまでざわついていた皆が、マアヒ・カヤールの名前を出した瞬間ピタリと黙ってこっちを見ていた。




 それはそれはすごい目力で。





「…………なんなんですか?マアヒなんとかさんって一体?」


 ブリジットが、チベットスナギツネという地球にいる『虚無の表情をした動物』と同じ顔になる。

 そのままヴィヴィアンを見るが、ヴィヴィアンは人間が頭痛を抑えるようなポーズをして疲れた顔とでも言いたい顔で見返す。


 チベットスナギツネの視線がフィーネに向くと、うーんと可愛らしく唸って、やがてフィーネ本人は思いついたようにこう言う。






「BBBプロジェクト研究員博士であるマアヒ・カヤールさんは、






 開拓暦唯一にして最恐最悪のマッドサイエンティストです!」






「は?」


 正直誰もが訳の分からない顔にしかならなかった。


 だが、その背後で社員達は力強くうなづいていた。


          ***

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