SOL.2:朝から大変!最前線!!

 早朝7:45


 第18基地営倉、



「ようやくでれたわー」


「くぅ〜!新鮮な空気ですわ〜……!!」



 色々あって、ヴェロニカとシャルロッテは営倉入りしていた。

 そして、翌日には解放されたのであった。



「まさか、初日で因縁ふっかけられるとはなー……ひさびさに潰したマッチョメンのの感覚が残っててヤダわー」


「わたくしったらはしたない……お見舞い送ろうかしら?」


「辞めとけ辞めとけ。全身打撲させた相手へ見舞いの品だなんてサイコすぎるぜ。

 あの2mはあった黒人の全身筋肉刺青男、最後は「ママァ……助けて……!」って泣いてお前が折った親指しゃぶってたじゃねーか……」


 てへ、と言う顔のシャルロッテ。

 これが2mの黒人全身筋肉刺青男を『微笑みを浮かべながら』幼児退行するまで殴り蹴り罵倒し全身を暴行し続けた人間の顔である。


「あら?でも貴方もレイプ魔っぽいあの殿方を『再起不能』にしていましたわよね?」


「堕胎するのか、元から作れないのかで言えば、後者の方が被害少ないだろ?」


「わお、私たちってフェミニスト♪」


「SNSで喚くやつらと違って不言実行だしな」


「コラー!そこの悪党少尉さん二人ー!!!

 ちゃんと反省してるなら急いできなさーい!」


 と、身元引き渡しの守衛受付の前に、腰に手を当ててどーん、と年齢の割に大きい胸を張るジョアンナと、ゴリラみたいな女性兵士守衛が思わず笑顔になっているほどの可憐さを振りまいて話しているフェリシアがいる。


「うぃー、チビちゃーん!!

 いやぁ、周りがクソ女かクソ男ばっかだとやっぱ会えて嬉しいわなー!」


「私達のお迎えに?流石はこのとして准尉に慣れるだけあって偉いですわね〜♪」


「撫でない!ぽんぽんしない!!

 むぅ……子供なのは分かるけどぉ……」


 挨拶がわりのスキンシップをし、むくれるジョアンナに癒される問題児二人。


「あ、皆さん!

 急いで格納庫へ向かいますよ!」


「フェリシア、まず朝飯だろ?アタシら機能の飯も食い損なってトイレしかない場所で一晩過ごしたんだぜ?」


「そうも言ってられません少尉!

 早朝ですが、基地全部に準戦闘態勢に移行の命令が……」




 ゥウゥ──────────ッ!!!



「あの、お二人共?

 この警報は戦闘態勢へ移行の合図では?」


「「えぇ!?もう!?!」」


「畜生!!朝飯はコックピットの不味いゼリーかよ!!」


 4人は、すぐに走り出す。


          ***


 


「痛だだだだだ!?!」


「痛っ〜……!!」


「……本当に申し訳ない」


 腕を抑えるルルとリディアに、言葉どおりの気持ちから頭を下げるジャネット。


 示現流の修行のやりすぎは良くない。


「戦闘はギリギリかもです……!!」


「あんた……責任とって前で戦いなさいよ前で……!!」


「無論だ。辞令も降りて、正式に第502戦技教導隊コマンドワルキューレに配属になったしな」


「いやぁ、ワシもすまんかった。

 すまんかったついでのようで非常に心苦しいが、まずは状況を聞いてくれ」


 そう言って、同じく申し訳なさそうな顔だった柴田中将も、司令官用のタブレットを3人に見せる。


「状況は簡単である。

 火星圏機動艦隊の穴を突かれ、半死半生の空母一隻と、無傷の『降下艇ネスト』の降下を許した」




「───オイオイ、来てみりゃ穏やかじゃあない話してるようで!」


 と、そのタイミングでやってきたヴェロニカ達。

 そして、開口一番そんな言葉を吐く。


「ヴェロニカ少尉!

 営倉はどうだった?」


「まぁ第56前哨基地の極寒の中よりはマシっすわ大尉」


「あー……あの場所は寒すぎて二人いっぺんに入れられてほぼ部屋がハッテン場になってしまってましたわねー」


「はって……?」


「「今のは忘れて」」


「まぁそんな話は良いが、陸戦機乗りとしてはあまり良い話題ではないか?」


「そっすね司令。コレで五度目なんすけど……ちょっと営倉に戻ったほうがいいかもなー、とか思ってるっす……」


「ですわねぇ……ポン、と着陸した瞬間から要塞として機能するような物相手は骨が折れますわ〜」


「じゃがそうも言ってられん。

 一応は、あの通り我が第18基地所属、第227揚陸BB中隊の戦力はなかなかのものだが、」


 ガコン、と巨大な足音がなる。




 海兵隊カラーの赤いヒポポタマスと共に、あまりに大きくあまりに重厚な機体が前に出る。


 イメージは、四角。

 巨大で肩幅があり、堅牢な装甲に覆われている姿はまるで盾。


 海兵隊の任務である揚陸や沿岸戦闘を目的とした汎用陸戦機、


 名前をブルドッグという、揚陸を守る盾だ。






「いつ見ても、タフそうだ」


「ああ、アレが海兵隊の魂よ。

 諸君らの扱うBBBにはアレの後継機はないか?」


「さぁ?

 ところで話を戻すようで悪いんすけど司令、この基地は砲兵科機体いないんですか?」


 砲兵科とは文字通りの砲撃用機体を扱う部分である。

 どの時代になっても火力が戦場を決める。

 なので、陸戦では無くとも重要なポジションである。


「すまんの。ブルドックの、ガルム対地ミサイル仕様が少々じゃ」


「まともな砲撃機体は無いんすか?

 機動艦隊の援護攻撃は多分無しっすよね?」


「すまん」


「…………アタシのお仕事ダダ増えやがるぅ……!!」


「お気の毒に……」


「オメー他人事みたいに言うんじゃねぇよぉッ!!

 オメーもダンデライオンで出るんだよ!!」


「は?射撃は牽制以外しない主義ですが?」


「じゃだーれがー足りない火力を補うんだよクソお嬢様よぉ!?!」


「私以外の誰かですわ」


「大尉ー!!もーこいつ何とかしてー!?

 中世のやり方しか出来ないバカなんだよぉー!!」


「ふざけてないで二人とも真面目に!!」


 と、怒られて漫才じみた会話をやめる二人。


「……ところで、もう一人の陸戦機乗りの凪さんは?」


「拙者はここー。今到着でござーる」


 と、もはや見慣れた気だるげな顔の美人がやってくる。


「あ!凪さん一体どこにいたんですか!?

 昨日から失踪していて心配してたんですから!」


「いやー、失敬。

 諜報部の任務を果たすべく、ちょっと隣のBHIに『無断宿泊』してました故ー」


 さらりととんでもないことを言った瞬間、ヒュンと凪に背後に現れる影。


「貴様!!人様に迷惑をかけるとは何事か!!」


「のわぁっ!?!」


 ブン、とジャネットの握るそこら辺の鉄パイプが鋭く振るわれ、凪へ直撃する。


 と、思ったら、凹んだヘルメットだけが地面にあり、本人はジャネットの背後で腰を抜かしていた。


「危なー!?危ないでござるー!!死ぬ!!」


「ちょっとまって、色々とおかしい」


「空蝉とは小癪な!」


「中尉たち!!!話を進めない!!!

 あとなんかマンガみたいな戦い始めないで!!」


 と、再び示現流を構えるジャネットを抑えて、ルルが叫ぶ。


「大尉……そう言うならば剣を収めましょう。


 だが言っておきますが奴らは……!

 諜報部のコイツらは、平気で人の二、三人は目的のため犠牲にする……!!

 1年前の作戦時に我々に偽の情報を与え、本来の役目を果たせなかった事は……!!

 駆逐艦バンクーバーの悲劇は永遠に忘れない……!!」


「ジャネットさん、それは……!」


「擁護は大丈夫でありますよ大尉。

 これが正しい反応ですよ、我々は嫌われ役なんでござりますし」


 と、凪自身はそんな平然とした顔で言いながら、パイロットスーツの誇りを落として立ち上がる。


「そんなことより、こっちの揉め事が一応は収まった様ですし、大尉はもう一箇所の揉め事を見てきた方がいいですよ?」


「え?」







 BBB駐機場所前、


「ふざけんじゃないわよぉ!?

 よりにもよってコイツの機を機種転換ってどう言うことぉ!?!」


「そんにゃこと言われても私運んできただけだもん!!

 BHI社がやったことだもーん!!!」


 片目を釣り上げてネコの様に吠えるリディアの目の前で、手足や目がよく見れば機械でできた褐色肌の少女がべー、と舌を出して答える。


「じゃあとっと持って帰りなさいよぉ!?」


「追加料金、6億5600万マーズ」


「高い上に端数付きの生々しい軍用兵器値段辞めなさいよぉ!?!」


「ねぇリディア中尉ちょっと!?出撃前になんで揉め事が増えてるの!?」


 と、言い合う二人をオロオロ見ていた萌愛をかき分けてルルがやってくる。


「ちょうど良かったわ隊長さん!!

 向こうの会社がよりにもよって、新兵にって言ってきたのよ!!!」


 えぇ、と流石にルルも表情を変える。


「そんな無茶な!?萌愛ちゃんは実戦って言っても海猫装備に2回、せいぜい50時間乗ったかどうかなんだよ!?

 機種転換した上で実戦だなんて正気じゃない!!」


 例えば一般人の車でも、軽自動車に乗っている人間が突然4WDの大型車に乗れば、同じ乗用車と言えど勝手が違いすぎる為に四苦八苦するだろう。


 それが軍用兵器であればなおさらだった。


「そんにゃこと言われても私届けに来ただけだしー」


「「持って帰って!!」」


「んじゃあ、輸送費と護衛費で7億!」


「値段釣り上げんなこのメカっぉ!!!」


「あの、二人とも?

 ボクは大丈夫です。こんな時ですし時間が……」


「こんな時だから慎重になってんのよ新兵ー!!

 私はあんたみたいなのの遺言が出撃前の返事だけとかもう聞き飽きたのよぉ!!!」


「萌愛ちゃんも含めてBBパイロットはBBよりも高価なんだよ!?

 それに私……まだ萌愛ちゃんと知り合ったばっかりだよ!?

 そんな消耗品みたいに扱えるわけないよ!!」


 それは、切実なベテラン兵の叫びであり、まだ10代の少女の同年代への仲間意識から来る優しさだった。


 遠巻きに聞いている、502の他のメンバーも司令も、何も言えないぐらい心に響く様な悲痛さと脳裏のトラウマを刺激する様な。


「…………二人とも…………」


「………………」


「…………」




『二人の心配は分かるが、まずは私の話を聞いてほしい』


「「「!?」」」


「お?」


 と、突然この場の4人の前に、ホログラムとしてカリンが現れる。


『機種転換の恐ろしさは分かっているが、それも私と私の制御するHi-BOSならば解決可能だ』


「はい?新OSの使い勝手の良さは知ってるけど、それでこの新兵が100%死ななくなるわけ?」


『87%までなら』


 と、意外な高い数値を出すカリン。


『そもそもHi-BOSは機体とパイロット双方に合わせて最適化していく。

 そして、それはOSが搭載されデータリンクされた全ての機体にも適応される。


 と、言うよりBBBは全てが『同じフレームで同じコックピット』だ』


「でも挙動やエンジン出力は違う」


『把握済み。

 そして何より、新パッケージは堀内萌愛准尉にとっては、、とOSと私が判断している』


「信用できない」


『信じて。私はあなた達とともに戦い、そして最高の状態で戦わせる為にここにいる。

 萌愛准尉を決して殺したりしない。残り23%の可能性を消し去ると約束する』


 一瞬、リディアはたかがホログラムのはずのカリンの姿に、何かを感じてすぅと怒りが収まってしまったのを感じる。


 ……少しして、わざとらしいぐらいに大きく舌打ちして、仕方なさげに言う。


「腕が痛いって言うのに仕事増やすんじゃないわよまったく……」


『ありがとう、リディ・モンヴォワザン中尉。

 最高の仕事をする』


「今更だけど、今回は恐らく足りない火力を補うための近接航空支援CASがメインよ。


 まぁ制空権確保も合わせてやるでしょうけど、それができる機体なんでしょうね?」


『今回そちらの萌愛に使ってもらうパッケージは、むしろそっちが得意かもしれない。

 無論、基本は海猫と同じくマルチロール機だから安心してほしい』


「安心は無理よ」


『まぁそれに……そこの彼女がいる』


 と、紹介されて褐色の少女が再びこちらを見る。


「お、仕事だね?」


「仕事って?」


「やだなー、赤毛の軍人おねーさんはー。


 一回このちゃんのお仕事に世話になったでしょ?」


 え、と名前を聞いてルルはようやく思い出す。


「リュカって……あの時救援に来た子!?」


「そだよー。一応傭兵、戸籍も苗字も無いリュカちゃんだよー?」


「傭兵?このご時世に?」


「このご時世だから、900億貯められる職業としてはいい感じなのさー」


 さらりと凄まじい金額を言うリュカ。


 だが、次のセリフにはもっと驚かされた。




「どっちにしろ、そんなに新兵が心配なら私が敵を全部壊すよ。

 どうせ死んだら数少ない家族に莫大な保険金が降りるだけだし……私お金しかないから、命を捨てろと言われたら命捨てられるよ私は?」



 その人命が軽すぎる言葉をさも当然のように言う。

 まだ……自分たちより年下そうな顔でだ。


「……おっかない事言うんじゃないわよ……!」


 思わずリディアもそう心からの言葉を出してしまう。


「まぁまぁ、といっても腕は保証するよ〜?

 ねー、大尉さん?」


「そうなの?」


「うん。1週間前の戦闘で、そっちの少尉たちを逃がす時に」


「……まさか、あのマッハで飛んでた奴の?」


「え!?じゃああの通り過ぎた機体に?」


「なるほどね…………じゃあ信じてあげる。


 けど言っとくけど、命を捨てるつもりってのは当たり前よ。

 生き残りたいなら相手の命を奪うんだから、奪われる覚悟ぐらいなきゃいけないわ」


「痛いほど知ってるよ小ちゃいお姉さん。

 命しかないから担保でお金稼ぐしかないからね」


「……ちょっと好きかもそう言うの。

 頼むわ、おチビちゃん?」


 と、地味に背が近いリュカの頭を撫でておくリディア。

 にしし、と笑うリュカもまんざらではないようだった。




「おーい!話まとまったんなら来てくれ!!

 状況変わっちまった!!」


 と、ヴェロニカの呼ぶ声の響く。


「どうしたの!?」


「リアルタイム映像でやばいのが映ってる!!


 新型だ!!


 それもキャバリエでもハルピュイアでもねぇ!!!」


          ***


『ガ────────!?』


 ズドン、と崩れ落ちる海兵隊の盾、ブルドッグ。


 強固な装甲のかけらを振り払い、残骸を足蹴にする異形の機動兵器。



『なんだよコイツ!?バケモノか!?!』



 友軍機を踏みしめる『前脚』。


 4つ脚の馬のような身体、本来首のある場所から生える、シュバルツ特有の黒曜石に似ているが、これまでと違い傾斜重装甲の人型上半身。





『半分馬の機体だとぉ!?』



 ブン、と腕のライフル内蔵型の槍のような武器を振るい、残骸を振り払う。


 直後、力強く踏み出した4つの脚が生む突進力で、一機へ突撃し撃破する。




          ***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る