SOL.3:ビルドバスターボーン
「ん……しょっ……!」
BBパイロット専用保護スーツは、基本的にキツイ。
特殊素材は放射線を遮蔽し、0〜4気圧まで耐えられる仕様の形状記憶性素材であり、体に合わせてフィットするからこその仕様だ。
ツインテールを巻いて団子にし、ヘルメットを被る準備も終える。
「よし!」
「準備できましたか?
こっちはもうちょっと待ってくださいね」
「はい……えっ!?」
と、トラックの席から出てきたルルの見たものは、中々衝撃的なものだった。
荷台から迫り上がるは、全長18mの『骨格』。
頑丈そうではあるが、装甲と言えるものは関節部の保護を目的としたものしか見当たらず、最低限の武器すらない。
「これ、ただのボーン!?」
「今は、ですがね?
フィーネ君、汎用型宙間戦用パッケージを!」
「はい!
『
グィィィィン!
フィーネの操作する端末に合わせ、荷台が展開して数本のアームと何か装甲のようなものを出す。
グゥゥゥン、ガシャン
背中の巨大アームに釣り上げられたボーンは、まず脚の接地部分を取り替えられる。
続いて、ブースターユニットを設置し、その上から足装甲が取り付けられる。
ブースター内蔵のスカートアーマー、胸部コックピットブロックを覆う装甲。
背後に、翼のようにも見えるフレキシブルブースターユニットが装着される。
さらにマニピュレーターを覆う空力ブレーキ兼用装甲が。
肩には姿勢制御スラスターと、近接用武装。
最後に頭部が外され、額に増設光学センサーを持つツインアイセンサー方式の、顔のあるタイプの物に交換される。
「これは……!!」
装甲表面の特殊アンチシースルーコーティング塗料に電流が走り、副次効果として色が変わる。
ルルの得意とする汎用型宙戦用BB、スノウウィングと同じ、白を基調とした見慣れた色へ。
「CPS、コンプリーテッド!」
「ボーンがバスターボーンに変わった……!?」
「そう、これがビルドバスターボーン、BBBです!
作業用重機として使える素体ボーンに、用途に合わせたパッケージを換装させることで、陸戦から宇宙戦、大気圏内飛行戦闘まで対応させた我が社の新作!!!」
「本当にそんなことが……?」
「ビルド。
作る、想像する、という意味が有名ですが、
もう一つ、『骨組み』や『骨格』という意味も持っているんです」
「まぁ乗ってみれば性能は分かりますよぉ?
もちろん、そんじょそこらのボーンよりもいい乗り心地ですとも」
ウィンク交じりに言うブリジット。
……不安半分、期待半分といったルルの心境だった。
『聞こえますかルルさん?フィーネです。
OSの立ち上げを確認しました、簡易調整の後に発進をどうぞ!』
コックピットは驚くほど堅実で、いつものBBの配置だった。
出力スロットルとマニピュレーター操縦桿の距離も良し、ブースタージョイスティックの遊びもきちんとしている。
フットペダルも4枚とも分かりやすい形で踏みにくくも無く、座席も案外快適だ。
「いける……!」
ヘルメットを被り、バイザーを下ろす。
すでに機体の動力の起動は完了。警告灯も兼任しているツインアイが光る。
「全シークエンス終了。武装はありますか?」
『基本装備の両肩の特殊ブレードと、それから新型ライフルに……装着型
せり上がってきたアームからライフルを受け取り、左腕に2連装のHEATランチャーを装備。
「よし……行きます!」
『どうぞ!』
『存分に暴れちゃってください!!』
了解、と短く呟き、ルルはこの機体のブースターを起動させる。
「ブラストオフ!」
ボッ、とイオンブースターの光がともり、機体は大きく跳躍する。
「……!!」
ビルを大きく超える放物線を描く。
1G下でもこの良好な運動性…………それでいてあまりに慣れた感覚。
「すごい……新型だからもっと動かしにくいと思ったのに……!」
だが実際は、姿勢制御のしやすさも、着地の感覚も、訓練で動かすスノウウィングとほぼ同じに感じる。
だが、早いし力強い。
「あの二人の言うだけのこと、あるな」
と、
ピピーッ!
「来たッ!」
警告音に反応して振り向きながら回避。
2ヶ月前の木星圏で見たシュバルツの人型───ベリルと呼称された不気味な機体がシースルーウェポンの光を放つ。
「くっ……!!」
後ろのビルを蹴って回避。
ビルを貫く光を上から見ながら、ライフルの照準を一瞬で合わせる。
「好き勝手やらせない!!」
操縦桿のトリガーを引く。
瞬間、今日最も驚くべきことが起こった。
バシュウッ!!
空気を切り裂き、ライフルの銃口から出た『青い光』。
それは、ベリルの胴体に直撃すると、特殊弾頭レールガンでようやく体表が砕けるほど硬いはずの敵を貫通し、さらに背後にいたベリルをも貫く。
「なっ!?」
一撃で2機が爆散する。
これは……
「これ、
ザン、と有料駐車場へ着地し、驚いてカメラアイをライフルへ向ける。
『───驚いたでしょう!?』
「うわっ!?」
と、タイミングよく通信が入る。
『ようやく、敵の武器をコピーできました!
今までのレールガンよりも、敵の特殊装甲を撃ち抜きやすくなってますよぉ!!』
「なるほど……!」
再び右腕のシースルーライフルを構えて放つ。
しかし、3体目のベリルは左腕の掌をかざし、展開した光の壁に霧散させられる。
「────そして相手も自分の武器の対処はできると……!」
その光に紛れて距離を詰めていたルルは、ブライトウィングの左腕に装着された二つの砲口を向ける。
ズンッ、と放たれた200ミリ榴弾が、至近距離から放たれる。
シースルーウェポンほどの威力ではないが、左腕は完全に砕け、そこにトドメのシースルーライフルを放つ。
爆発を見て、怯んだ敵2機が踵を返す。
瞬間、煙を打ち払うように二筋の光が放たれ、2体のベリルを一度に堕とす。
───煙が晴れ、煤けた白い装甲と光るカメラアイが現れる。
「全機、撃墜。
ふぅ……!」
コックピットの中で、ルルが安堵の言葉を漏らす。
──これで、都市を襲った全てのシュバルツを倒したのだ。
***
ヒュゥゥゥン、ガシン!
トレーラーに戻るブライトウィングを、ブリジット達二人が迎える。
『ナイスファイト!レディーエース!』
「助かりました……中々、いい機体ですねこれ」
『でしょう!』
『あ……すみませんお二人とも!!
軍用無線周波数023を!』
と、二人の間に割って入り、フィーネがそう声を上げる。
慌ててコックピット内のルルも無線周波数を合わせる。
途端、ノイズ混じりに聞こえる発泡音と爆発音。
『────こちら、シンナルコザカ第45陸戦駐屯地!!
基地が多数のシュバルツに襲撃を受けている!!
繰り返す!!基地が襲撃を……うわぁっ!?』
ノイズを最後に聞こえなくなる通信。
「まずい!!あの基地は確か、大部分のBBがオーバーホール中で出られる機体は片手より少ないはず!!」
『さっきも言ってましたけど、マジメに最悪じゃないですかそれ。
狙ったみたいなタイミングで……情報でも漏れてるんですかねぇ?』
『それより……どうしますか?』
「もう一度出撃します。推進剤は余裕ありますし」
『なるほど。
では、ルルさん。座席左手下の取っ手を引いてください』
と、指示通りすると、取ってとともにスライドした部分には、軍用の割に美味いスポーツドリンクとゼリーレーションがあった。
「……補給感謝します」
『それと、推進剤よりもシースルーライフルのコンデンサパックの交換を。
四発撃った状態で、この時間まで本体電源でのチャージ……それでも残りは三発です』
「足りないか……」
『しかし、少ないですがこちらに予備コンデンサパックが4つあります。
背部の腰のあたりに取り付けられるので、持って行ってください』
ウィーン、とトラックの荷台アームから飛び出てきたいくつかのコンデンサをマニピュレーターで掴み、腰へ持っていく。
「HEATもあるか……これでよし」
装備を整え、ヘルメットのバイザー部分を上げてスポーツドリンクを飲む。
これでもう一度出撃できる。
「行きます。
激戦のせいで、機体が壊れたらごめんなさい」
『あいにく、まだ何機か本社にありますのでご心配なく〜♪
そんな事より、キチンと性能を示して生きて帰りましょうじゃあないですか。
あなたみたいなパイロットの価値は私の年収の3割はあるんですから!』
「はは……ありがとうございます」
『こちらも、トレーラーにいくつか武装はあります。
離れて追いかけるので、もし何かあれば無線はこの周波数で!』
「はい、フライデイさん!」
『フィーネでいいですよ、ルルさん!』
『私のことも社長でお願いしますよ〜?』
「了解。
では、行きます!」
緊急発進。
白い機体はスラスターを吹かせて大きくジャンプする。
目指すは……第45陸戦駐屯地。
***
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