恋が、こいっ!

さじま

前半

正直に告白すると、小学校の高学年になった頃から、その傾向は、あった。

幼少のみぎりから、おませな女の子達は、誰それくん好き~♪と、はしゃいでいた。

年齢が二桁に上がるや否や、同性である女子の恋バナは通常装備になってしまった。


なのに、

『私は、【恋】が、分からない』


いや、ネット小説もラノベも漫画も大好きだし、家族と一緒に映画もドラマも観たよ。

感動したし、涙もした。

美しい愛にも、悲しい恋にも、憧れましたよ、人並みに。


でもね、リアルだとね。

友達の恋、なんてもうニコニコで応援したいし、新婚の担任を近所のおばちゃんみたいにニヨニヨ見守り隊。

なのにね、自分ごとになると、なんか、違うのよ。


上手く説明出来ないけど、小説や漫画、ゲームの主人公に感情移入して、

「あの人が、スキ…」

て場面で、ドキドキ胸熱、甘酸っぺーーって転げ回れるのに、リアルな自分と等身大の男子とのそういうお付き合い的なものが、一切合切これっぽっちも、想像出来ない。


あの人が好き過ぎて何も手に着かなかったり、世界の中心がその人になったり、地球上の全ての人より僕は君を想ったり……出来ない。


そういうシチュエーションは、大好きだっ、ご飯三杯いける!のに、そういう場面に立つ自分自身が考えられない。


本当に、分からない。

分からなさ過ぎて、辛い。


今、ホント、辛い………。



「でね、佳奈子は、2組の須藤くんが好きなの」

放課後の教室で、何となくつるんでいる女子グループで、いつもの恋バナ。


中学2年生ともなると、思春期真っただ中、さあ青春の海にダイビーンとばかりに、その手のオハナシが会話の大部分を占めてしまう。

ま、小学生上がりの1年より大人で、受験生な3年より暇なんだから仕方ない。

「分かる~~佳奈子と須藤、お似合いだよね」

恋バナの大好きな、このグループの中心、由真がニコニコと笑う。


いや、まだ、2組の須藤くんとやらの意向を聞いてないじゃん…。

確かに佳奈子は可愛いから好かれたら大概の男子は嬉しいと思うんだ。

それだって2組の須藤くんにも独自の好みとか、選ぶ権利とか、人権とかが有るんじゃないかなぁ…。


中学生になって塾に通い出したからと、夜道とかで危ない時は即連絡なさいと、親が買ってくれたスマホで、ノルマのように無料ゲームアプリの今日のイベント分を消化しながら、空気を読んで、口角を上げた表情のまま黙って拝聴していると、


「で、有加里は、好きな人出来たの?」

由真さんや、笑顔でこちらに凄むの、止めて。


「え…、ええ~…」

引きつった笑顔を張り付けたまま、非常に困惑中。

あああイベ戦中なのにぃ~~。


「教えてくれないの?

あたしたちの話だけ聞いといて、教えてくれないのは、ズルいと思う」

そうだよねぇ~~って全部で6人居るその場の女子が同意の姿勢。

なんだっけ、そうそう、こーゆーのを『付和雷同』って言うんだよね。

授業でやった。

国営放送局のご長寿忍者アニメに、読み仮名が一文字違いの先輩が居たから覚えた、アレだ。


あー、でもってコレは不味い流れだ。

うっかり真面目に「好きな男子が居ない」なんて言おうものなら、面倒至極。

恋愛至上主義な夢見る由真さんは、女子たるもの、当然好きな男子が居るのが当り前。

好きな人が居ないなんて、どっかおかしいんじゃない?

いや絶対に、おかしい。

そうよね、あの子、変な子だと思ってた。

皆んなだってあんな変な子とは付き合えないよね。

というような流れで、ターゲットロックオンした人間をハブる。

実際にやられた子が転校間際に、こそっとぼやいて行ったから知ってる。


あと「男子に興味はあるけど、好きな人が、まだいない」的な回答も、非常に危険。

何故なら絶対的な流れとして「んじゃ、私達が選んであげる~」って上から目線で、好き勝手に斡旋してくるから。

歴史の授業の雑談で聞いた遊郭のやりて婆かっ、てぇの。

それも「有加里には××くんなんかどうかなぁ(私の好みじゃないけど、あんたにはお似合いだと思う)」と、( )部分がありありと空耳出来る勢いで勧めてくる。

しかも、せっかく選んであげたんだからと、告白を強要したり、仲間の女子達と、ワイワイ煽って強引にくっ付けようとする。

それやらされた挙句に、「訳の分からないことに巻き込まれた」と告白相手の男子と親が、虐めじゃないのかと学校と教育委員会にSOS。

親に怒られ教師に注意され、心無いクラスメートに揶揄われたので不登校になった当事者の女子に、街の図書館で会った時に、そっと告白され済み。


困ったぞ、正解が迷走中。

ここで下手打つ訳にはいかない事情もあるし。

へるぷみーぐーぐーるせんせいっ。

シリの答えも知りたいなぁ~~。

そもそも恋ってなんだろうなぁ。

こいこいこいこいこい……。

廬山の大瀑布を登り切れたら龍になるやつかなっ?!←もちつけ。


そうだ、名前だ。

リアルに恋とかしてなくても、名前出しておけば、良くね?

あーでも、芸能人とか架空キャラだと、変な弄られが派生しそうで嫌だな。


人間人間、身近な人名~~~~っ。

適当に話の出来る男子。あとで訳を話せば分かってくれる奴~~。


「あ、私、実は、吉田に片想い中だから……」

とっさに出て言った一声。

ヤバい、覆水が盆に返らないっ!!


「「「「「「吉田ぁあああああああ????!!!!」」」」」」

6人分の大合唱、いただきました。


「え、うそ、吉田?」

「あ、でも、有加里とよくしゃべってるよね」

「うんうん、アニメとかゲームの話してる…」

「そっかー、有加里、吉田が好きなんだ」

「ある意味、お似合いじゃない?」


「だよね、有加里と吉田いいんじゃないのぉ」

やけに満足気に由真が言い切り、習い事やら塾の時間だとかで、その場は解散。

勿論、片想いなんだから黙っててねって、念は押しておいた、けど。



「聞いてくださいよ~~、森ちゃん先生~~~」

解散したその足で、こっそり図書室のお隣り、司書室という名の、女子教職員の避難所に泣き付きに行ったら、依頼主は司書でもある社会科教師の歴女、長谷川先生と仲良くお茶してました。


「お疲れ様。はい、共食いしていいよ~」て、ほんわり笑顔で有名エビせんべいをくれる国語科で副担任の森ちゃん先生。

「せんせ~、私はユカリじゃなくてアカリです」

「あー佐藤は、ユーマの監視係か。ご苦労さん」湯呑に入った緑茶をくれる長谷川先生。

「クラスメイトを未確認生物みたく言わんでください。ごちになります」

有り難くいただいて、今日の顛末を報告。

これが、下手を打てない事情。


クラスメイトに対してスパイみたいな…とかの苦言もあるだろうけどさ、もともと森ちゃん先生は私が生まれる前からの母親の友達で、私にとっては親戚よりも近い人なんだよね。

そんな人に、「小学校時代からやらかしている由真グループが大人の見てないところで暴走していないか教えてほしい。絶対に、無理しない範囲で」と拝むように頼まれたら、ねえ?


「へー吉田くん、もらい事故だね」冷静な長谷川先生に

「そうなんですよー、どうしましょう」と食い気味にアドバイスを求める。

だって、コレ完全に巻き込まれだよ、吉田。


「あー、吉田くん、登校時間の早い子だから。明日の朝一番に事情説明して、協力してもらったら? 何かあったら責任は先生がもつから」

森ちゃん先生が「いつもごめんね、ありがとう」と一緒に提案してくれる。

「やっぱり、それしかないか」

幸い、奴は性格は良い奴だ。


「しっかし、ユーマにも困ったもんだ」

せんべい咥えながらぼやく長谷川先生は、ちょいヅカの男役っぽくて、一部の女子に絶大な人気者。

「まあ、あの子も、可哀想なところがあるから…」

「あ、先生、私、そういう言い方嫌いです」

片手を上げて宣言。

最近分かってきたけど、大人って結構、失言をする。

可哀想な、って言う時は、大概が本人にはどうにもならない環境とか境遇の時が多くて、でもって、可哀想なんだからって言葉って、その子を貶める言葉な気がするし、可哀想なら何やってもいいって免罪符にするのも間違ってるし、とにかく、なんかやだ。


そんな上手く言えない言葉をなんとか色々連ねて表明したら、長谷川先生は、茶化したりせずに、「そうだね。ごめん、教えてくれてありがとう」って言ってくれた。


個人的に、『ありがとう』と『ごめんなさい』をきちんと言える人に好感を持っているので、

「先生、大好きです。

 でも、由真達の言う『好き』はよく分からない」

と言ったら、森ちゃん先生と二人がかりで「そのうちでいいよ」と頭を撫でられました。


ホント、恋って不可解。



人気の無い朝の教室って、なんだか謎の清々しさがあるよね。


てなわけで、待ち伏せした吉田に、事情をブッ込んだ。

「吉田大迷惑だよね~多分由真達になんか言われるよ、ホントごめんね~~」

「いや、もう夜の内にラインきた」


「えええええええっ!?

 ちょ、ナニソレ、私、知らないよ? 」

「うわ~リアル女子間のSNSいじめ? やだやだ」


吉田によると、昨晩の内に女子の大部分に話を回され、女子と仲の良い男子にリークされ、そこからつるんでる仲間内に~って感じの伝達だったらしい。

「うわ~秘密漏えい酷杉、女子怖。オトコノコにナリタヒ」

「いやいや、男子も中々大変なんだからな」

落ち込む私を斜めに励ます吉田、良い奴。


「とにかく私は、邪魔されずにゲームイベントしたいんだよぉ、吉田ぁ。

昨日惨敗だったんだから」

「えー、今やってるのサビイベじゃん。落とすとかないわー」

「だーかーらぁー、『好きな人』作っとかないと、邪魔されるんだよー」

「すっごい理解した。分かり味が深い。

俺さ、佐藤のフラグ立てた覚えなんか無いのに、ホント何バグってんのかと思ったし」

ほっとしたように、吉田が言うのに、なんだかこっちも安心する。

だよね、まだまだ優先順位、『恋』よりゲームとかだよね、私達。


「あーでも、てっきり、なに俺、モテ期キタ?! って思ったのに、残念無念」

「安心しろ、お前はいつでも残念だよ」

にっこり笑顔で言ってやると、吉田が、もともとコロコロしている頬を膨らませる。

「残念なのは、お前だろ、佐藤」

「失礼な。ブタってるのはお互い様じゃないか、吉田くん」

お互い、自他ともに認める残念なぽっちゃりじゃないか、と言い掛けると

「失礼なのは、お前だ、佐藤。いいか、ブタの体脂肪率は15%。これは痩せてる成人男性か、女性モデル並なんだ。最も体脂肪率が高い生物はアザラシの50%だ。

だから、本来太ってる人間を罵るんなら、このアザラシ!って発言すべきなんだ」

吉田は、オタクの本領発揮な長台詞をドヤ顔で言い切る。


「あー、2人ともぉ~朝から仲が良いじゃん。何の話してたの~?」

由真と愉快な仲間達が揶揄う気満々で、脱線した会話のドッジボール中の私と吉田に声を掛けて来るので、

「アザラシ?」と答えておいた。

更に吉田は、「でもゾウアザラシのハーレムは嫌だな。大変そうすぎて羨ましくない」などと明後日の方向に返事していたので、

「あんた達、変。お似合い」

とか呟いて構って来なくなった。ラッキー♪



結局、その後の中学在学中、吉田とは付かず離れず、噂されても肯定も否定もせずに、のらりくらりと協力体制で乗り切った。

由真からの深夜の呼び出しとか、由真が夏休みに行方不明になったりとか、本っ当に色々あったんだけどね……(遠い目)。



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