第147話『初陣』



 結論から言えば、日イ対チャリオスではチャリオスの方が優位だ。


 コクーンの開発によってバスタトリア砲の直接攻撃は免れても、まだチャリオスにはペオがある。


 一号機の使用可否に加えて二号機の有無が不明なため、日本政府は把握している情報を根拠に防衛出動を発出したが、防衛省としてはペオを最大の脅威と認識していた。



 遮蔽物を無視して任意の物体を転移できるペオは既存のあらゆる移動手段を凌駕するため、一瞬にして自衛隊が壊滅することも考えられるからだ。


 一言で語れば浮遊化した天自の護衛艦や戦闘機、陸自の戦闘車両の内部に爆発物を転送して起爆すればいいのだ。


 それだけで戦力の無力化は果たされ、ラッサロンも式典会場を爆破した新型爆薬を使えば撃沈が出来る。


 さらに日本を覆うコクーンを発生している所にも送れれば、文字通り瞬く間に日本は無防備となるのだ。しかし日本にはペオに対する対抗策がなく、ペオを使われないことを願って戦力を投じるほかなかった。


 この懸念は防衛出動以前から全自衛隊に共有されており、知って尚隊員は出動を許諾してくれた。


 もしかしたら次の瞬間には内部爆発して殉職、日本を守る前に終わってしまうかもしれない。


 首の傍に鋭い刃があるようなチリチリとした圧迫感と恐怖感と共に自衛隊は出動をした。いや、してくれた。



 それに答えるように、最高指揮官である若井総理からあらゆる制限を解除をしている。


 自衛隊ほど政治と密接に関わる軍隊はない。一発の銃弾を撃つのでさえ政治的障壁で出来ないことがざらだった。


 だがこの戦いに関してはその政治的障害がない。防衛出動下命な上、障害の元である市民を巻き込む心配がないからだ。


 戦場にいるのは同じ目的を持った仲間と敵しかいない。高度な訓練をして連携も十分。不規則な動きをする市民がいなければ誤射を気にしての武器使用のハードルはグッと下がる。


 いつでも来い。


 陸上自衛隊の滞空戦車部隊。天上自衛隊の護衛飛行艦隊は相手の出方を待った。



 そして来る。



 沖縄県があった地域の上空、高度六十四キロにはレヴィロン機関搭載の早期警戒管制機が静止状態で滞空している。


 高性能レーダーを搭載した航空機で、地上ではどうしても捉えきれない地平線の先を捉えることが出来る戦略上欠かせない機体だ。


 従来なら高度十キロが航空力学上の限度でも、レヴィロン機関を使えばその六倍以上の高度を稼げる。


 そのおかげもあって天自は従来の数倍もの広域を探知でき、敵艦隊からの飛翔体を感知出来た。


 その情報はすぐさま佐世保を母港とする2、5、8護衛隊にデータリンクされ、各艦の戦闘指揮所のモニターに飛翔体である輝点が映し出された。


 少し遅れて三つの護衛隊配属のイージス艦もミサイルを感知。特にレヴィアン対策で設計されたイージス護衛艦〝はるな〟は他のイージス艦よりも探知から情報処理が飛躍的に向上しており、より詳細なデータを入手。処理して各護衛艦へとデータリンク出来る。



 敵艦隊のミサイルは巡航速度と高度を保ち、各護衛艦に向かっている飛翔予測が出て護衛艦は自衛行動に移る。


 敵艦隊から発射されたミサイルは全三十六発。前線で滞空遊弋している護衛艦は十二隻。一隻に対して三発のミサイルを発射したようで、三発ずつ向かって来ていた。


 地表から十五メートルにいる各護衛艦艦長は対空戦闘を発令。各艦はそれぞれ迫ってくるミサイルをレーダーで捉えてロックオン。三発の迎撃対空ミサイルを発射した。


 一瞬被弾したかのような炎を上げながら打ち上げられた対空ミサイルは、対象物に向けて軌道を変えて亜音速まで加速する。


 各艦のレーダー上にミサイルである輝点が映り、それぞれが向かい合う。


 向かい合う輝点が天自の対空ミサイルの射程である三十キロの位置で重なると、輝点は全て消えた。


 互いのミサイルが衝突しあって撃墜したのだ。


 ミサイルの性能は同じであることは分かっていて、イルリハランとの訓練でも幾度と撃墜判定を出していた。



 敵艦隊から二射目はない。


 元々距離が五百キロ以上離れていての攻撃だ。いかにチャリオスとて十分に迎撃時間を与えてしまってはミサイル攻撃は無意味と判断したのだろう。


 レヴィロン機関搭載ミサイルならばより立体的な機動を取り、衝突するギリギリでかわすことが理論上可能だが、進行方向に音速で進むミサイルに別方向のGを掛けると内部機構が耐えられず破損してしまう。そのため天自では回避目的では搭載出来ず、迎撃出来たことからチャリオスも実現できていない予測が出た。


 そうでなければ天自の迎撃を回避してより接近されている。


 一度目は政治的な挨拶を行い、二度目は軍事的な挨拶を行い、三度目は戦闘機での戦いだ。


 天自からの反撃としての攻撃は残念ながら距離を理由に行えない。


 各種ミサイルにレヴィロン機関を搭載すれば立体的回避はともかく距離は延ばせるが、洗練された各ミサイルにレヴィロン機関一式を搭載するスペースがそもそもなかった。


 天自が保有する対艦ミサイルの射程は最大でも二百数十キロ。敵艦隊とは五百キロ離れているため、トマホークなど長距離射程のミサイルでなければ届かない。


 一応元米軍所属の第七艦隊が保有していたトマホークがあるにはあるが、第七艦隊の駆逐艦は別の任務についていて前線にはいなかった。その任務に就いている場所からでは射程外で届かないし、射程が長いと言うことは滞空も長いため迎撃されやすい。


 住宅地ならそれでもよくても相手は軍艦だ。迎撃を回避するには短距離での発射が好ましい。


 だからこそ次の手は戦闘機による近接攻撃なのだ。


 前線にいる各護衛艦艦尾にあるヘリポートには艦載機の回転翼機であるSH-60Kの代わりに戦闘機のF-35が一機停まっている。



 地球時代では絶対に不可能であった空母以外での固定翼機の運用だ。


 レヴィロン機関を搭載し、ジェットエンジンを使わずに離着陸が可能になった恩恵だ。


 固定翼のため格納庫にしまうことこそ叶わないものの、洋上ではなく風や波に悩まされる心配がないことから艦尾に駐機ができ、艦隊が疑似的な空母として戦闘機の運搬と簡易整備を可能とした。


 佐世保地方総監は前線各艦隊の隊司令に対して戦闘機の出撃を命じた。


 管制は空母並みの管制設備を持つ空母ロナルドレーガン以下いずも型、ひゅうが型は当空域にいないため、各護衛艦ごとで行われる。


 もちろんこれは型破りの非常識な運用方法だが、空母型は全て重要な任務が課せられていた。


 それでも航空機編隊はそのまま艦隊とリンクしており、艦隊と編隊は同じチームとして運用されている。


 元々この運用方法は天上自衛隊発足時から念頭にあり、レヴィロン機関の研究から構想をして一部訓練をしてきた。


 各艦隊それぞれの護衛艦艦尾に駐機しているF-35。艦の進行方向に対して斜めに駐機しており、発艦命令が出たことでパイロットが乗り込んだ。


 発着艦指揮所では他の同艦隊の護衛艦の発着艦指揮所とも交信をし、パイロットに向けて発艦許可を出した。



 発艦許可を受け取ったパイロットはジェットエンジンをアイドリング状態でレヴィロン機関を始動。機内のバッテリーから送り込まれた電気がレヴィロン機関に送られ、F-35を包むようにフォロンの力場を形成する。


 この形成された力場は異地全体にある不動の気体フォロンに触れ、まるで密度のない水中を進むようにフォロンをかき分け、レヴィロン機関とそれと接続しているF-35を無音で浮遊させた。


 高度を上げるに合わせて車輪を格納し、護衛艦から十分高度と距離を取ったところで水平移動へと変え、敵艦隊へと進路を取った。


 レヴィロン機関は座標による立体移動が可能な上に恐ろしく燃費がいい特徴を持つ。


 逆に戦闘機は非常に燃費が悪いため、この二つの相性は凄まじく適合していた。


 単純な移動にはレヴィロン機関を使い、戦闘時にはジェットエンジンを使う。この二つを使い分けることで、従来の三倍以上の活動時間を可能としたのだ。


 戦闘機乗りにとって三倍以上活動できるのは革命的と言える。旅客機と違って戦闘機は高速戦闘を目的として武器を抱えている。そうなると燃料タンクに限りが生まれて相対的に移動距離を削ってしまう。


 それをレヴィロン機関は解消してくれるから、戦闘機乗りにとっては夢のシステムだった。


 潜在的な問題を解消したF-35はジェットエンジンを始動することなく加速し、時速七百キロにまで上げる。


 各編隊の隊長機は僚機に指示をする。


 最終目標はチャリオス本島から出撃した飛行艦二十五隻。だがその前にF-35を迎撃するために出撃するであろう戦闘機を撃墜できるかを見極めるためだ。そのため対空ミサイルを積んでも対艦ミサイルは積んでいない。



 出撃したF-35は各艦隊ごとにΛの字の編隊飛行となり、五百キロ先の敵艦隊へと向かう。


 ここでの問題が敵レーダーの性能だ。イルリハランとの合同訓練ではF-35のステルス性は確認されても、チャリオス製ではなくバーニアン製のレーダーの性能は分かっていない。


 既存のレーダーだとF-35はゴルフボール程度にしか映らないが、もし地球の最新ステルス戦闘機を難なく捉えられるレーダー性能を持っていればチャリオスはすでにF-35を捉えており、何らかの手段を講じてくるだろう。


 編隊は高度を二十メートルにまで下げた。


 高度を下げる理由はステルス性をより向上させるのと、万が一ミサイル攻撃があっても回避率が高まるからだ。しかし、高速移動する戦闘機が地表スレスレの二十メートルで飛行するのは死と隣り合わせで、よほど腕の立つパイロットでなければしない。


 だがこれもレヴィロン機関が解決して、高度を座標で固定すれば横移動は出来ても縦移動は出来ないようにも出来る。


 だから全十二機のF-35は超低空飛行で敵艦隊へと進み続けた。



 敵艦隊から反応を示したのは発艦から十分後のことだ。


 早期警戒管制機からの入電で、敵艦隊からもミサイルよりは低速の飛翔体が発艦したと分かった。数は十五。


 ミサイルより遅いと言うことはパターンは二つ。レヴィロン機関搭載ミサイルか戦闘機かだ。


 チャリオス製の武器の情報は得られても、バーニアン製の武器の情報はほぼない。


 やはりあらゆるパターンを念頭に行動をせざるを得ず、各パイロットたちは刹那的な時間の中で最適解を直感で出す。


 各編隊の隊長は僚機に対して敵戦闘機としての対処を命じた。


 レヴィロン搭載ミサイルなら初手で使っている。仮に違っていたとしても低速から高速に切り替える前に対処すればいい。プログラムによって動く自立無人機の挙動はなんとかなる。


 問題は戦闘機だ。パイロットが乗っていようと遠隔操作にしろ、人が絡む挙動は予測が難しい。特に遠隔操作は特攻もしてくるだろうから、有人特有の恐怖感を逆利用することも出来ないのだ。


 そして天自に限らず空自としても初の実戦。


 スクランブル発進を多数こなしていても、実戦経験は転後直後のレーゲン艦と国際部隊の対処のみだ。しかもそれらはミサイルの迎撃だけで人命も機体も攻撃していない。


 正真正銘の命を懸けた実戦である。


 訓練と実戦。その差がどれだけの命運に関わるかはパイロットたちが一番知っている。


 それでも自分たちが負ければ日本が、国民が、家族に危害が及ぶ。



 自衛するための隊。それが自衛隊だ。


 敵を屠るのではなく、守るものを護るための存在として、パイロットたちは無言で意識を統一する。


 F-35が装備している空対空ミサイルの射程に、敵艦から発艦した飛翔体が入ったところで十二機のF-35は各機二発ずつミサイルをレーダーロックオンをして発射した。


 敵一機に対して二発を撃ち込んだのである。


 一発では回避されても、二発目で命中する算段だ。敵機がどんな機動を取るのか分からないため、弾数に限りがあっても初弾で節約はしない。


 F-35が搭載できるミサイルは対空ミサイル五発と転後に開発された特殊ミサイル一発の全六発。ステルス性を無視すればもっと積めるが、ここではステルス性が何より重要だ。


 攻撃と生存、両方のバランスを取っての装備で、各パイロットは画面に映る輝点を意識しつついつでもジェットエンジンを点けられるよう警戒を続ける。



 対空ミサイルは敵飛翔体へと進んでいく。


 弾着まで三十秒ほどのところで敵飛翔体からさらに細かい輝点が多数解き放たれた。


 この時点で天自編隊は最初の輝点が戦闘機と分かり、機体を包み込むように円環ミサイルシステムと言う桁違いのミサイルを装備していることを悟った。


 天自が放った対空ミサイルは迎撃され、余ったミサイルは構わずに天自編隊へと向かう。


 レーダーのロックオン警報が響かないことから発射されたミサイルは自立誘導と仮定。ミサイルの回避行動へと移った。


 今現在の天自編隊はレヴィロン機関で飛行している。これだけなら赤外線誘導を回避できそうだが、いつでもジェットエンジンを吹かせるようにアイドリング状態を維持しているから完全に熱源がないと言うわけではなかった。


 熱量は抑えられてもミサイルの赤外線誘導は有効なため、各機は通常通りの回避行動に移る。


 F-35は航空力学を無視し、機体を水平にした状態で斜め方向にスライドさせた。


 通常なら翼の後方に取り付けてあるスタビライザーを上下に動かし、機体を斜めから垂直に傾けて左右に舵を取るも、レヴィロン機関はそれを無視して水平移動を可能にする。


 その分機体への負荷が凄まじいため速度制限が必要でも機動性は数倍に跳ね上がった。


 天自編隊は偽の熱源となるフレアを放ちながらジグザグ飛行をし、互いがぶつからないよう注意しながら不規則な機動を取る。



 次の瞬間には前方から十を超える高速の飛翔体が通り過ぎ、フレアや地面へと衝突して爆発した。


 すぐさま僚機の確認を取り、全機無事であることを確認する。


 少なくともミサイル自身のレーダー誘導ではF-35は捉えられず、不規則なスライド軌道では画像認識誘導も回避できると分かった。


 過信は禁物でも一応の判断材料は得られ、この情報は天自艦隊、佐世保司令部、市ヶ谷防衛省、首相官邸へと経由され送られる。


 互いの編隊の距離が二十キロを下回り、再度天自編隊は対空ミサイルを敵編隊に向けて発射した。


 瞬時に音速にまで加速するミサイルにとって二十キロの距離は数秒だ。


 敵編隊もミサイルを発射して再度互いのミサイルが向かい合う構図となる。


 だが、今度は至近距離での発射のため、互いを迎撃せずにすれ違うように通り過ぎた。


 同時に天自編隊はジェットエンジンを点火。レヴィロン機関を停止して時速七百以上に加速。F-35従来の回避行動に移った。


 再度フレアを放ち、向かって来る敵ミサイルに偽のターゲットを与える。


 敵編隊のミサイルは全てフレアにまたは外れて被害はなし。


 逆に天自編隊が放ったミサイルが三発、敵戦闘機に命中したのか輝点が消失した。


 自衛隊初の敵機撃墜である。


 初の戦果に感傷に浸っている余裕はなく、加速したことでさらに距離を縮めて編隊同士が同空域内ですれ違う。



 一瞬だけ見える敵機。


 事前情報と同じで、異地使用の固定翼のない胴体に取り囲むように台形の形をしたミサイルが装着されていた。


 レヴィロン機関と言う航空力学を無視したシステムによって、日本の戦闘機の三倍近いミサイルを運用することが出来る。


 迎撃できる数に限りのある天自にとって脅威の一つだ。


 地球時代であれば多少の差はあっても弾数に大きな違いがないから機体性能と技量で勝負できても、異地相手では物量でやられてしまう。


 それでも相手が物量で攻めないのはステルス機能が活きているからだろう。


 敢えて性能を欺瞞して生かす理由は無いからだ。


 前向きな判断材料となると、胴体の形状から異地戦闘機パム-15のようなステルス仕様ではなく地球の第四世代相当の機種と推察される。


 互いの編隊はUターンし、今度は物量で攻めるのか敵編隊は一気に数十発ものミサイルを発射した。


 天自編隊が保持しているミサイルと欺瞞弾をはるかに超えるミサイル群。F-35はジェットエンジンを吹かしているから熱でより正確に誘導されるから、先ほどと違って命中率は跳ね上がる。


 これでは天自編隊の全滅が必至だが、もちろんこの状況は予期していた。



 F-35のレーダーでは一機に対して五発以上のミサイルが向かっていると表示している。着弾まで五秒。


 天自編隊各機はほぼ同時にコンソールに新設したレヴィロン機関関連のあるスイッチを入れた。


 敵の対空ミサイルが全てF-35に命中する。


 爆炎が十二ヶ所で起きる。が、その爆炎が起きたのはたったの一瞬で、爆発後の刹那には爆炎の渦に包み込まれるようにして十二機のF-35全機が飛び出した。その渦巻く爆炎の形はいわば小籠包だ。


 F-35に搭載した小型コクーンが起動してミサイルから身を護ったのだ。


 バスタトリア砲は加速をさせるために大掛かりなシステムになるも、コクーンは対象を包むだけだから小型化が容易で、護衛艦を含め出撃している国防軍の乗り物には全て搭載されている。


 お返しとばかりに天自編隊はミサイルを発射。至近距離ともあって敵機十一機は回避が間に合わず撃墜した。


 残すは一機。


 さすがに撃墜したはずのF-35が撃墜されず、十五機中十四機が落とされたとなっては敵戦闘機は撤退行動に移る。かと思えばそのまま天自艦隊へと加速を始めた。


 撃墜必至だから破れかぶれの特攻か。


 撤退であれば攻撃はしないものの、攻撃の意思を示すなら躊躇は必要ない。


 天自隊長機は良い機会として武器選択を通常の対空ミサイルから特殊ミサイルに変更。敵機後方から特殊ミサイルを発射した。



 敵機よりも速いミサイルは後方から迫り、接触はせず後方十メートルの位置で起爆した。


 この特殊ミサイルは攻防を兼ね備えた六年間の防装庁の研究の一つである。


 起爆するとその座標から瞬間的にコクーンを発生させ、周囲五十メートルを包み込むのだ。


 これを使えば自機のコクーンだけでなくコクーン非装備の人や建造物を遠隔で守れ、逆に敵を包み込むことで檻としての役割も果たせる。


 しかも檻としての役目では閉じ込めるだけでなく、コクーンは起爆した座標で固定されるため閉じ込めた対象の移動は阻害しない。つまり、戦闘機を包み込めば戦闘機は音速でコクーンの壁に激突するのだ。


 コクーンの強度は出力次第でバスタトリア砲を防ぐだけあって頑強だ。さすがにF-35の出力ではバスタトリア砲には敵わずとも、戦闘機やミサイル程度ではびくともせず、最後の敵機はコクーン弾の壁に激突して爆破。爆炎はコクーンの螺旋上に流動する膜に絡めとられて上部から噴き出した。さながら吹上花火のようである。


 残念ながら音速で起動するとコクーンの展開時間は五秒と短く。対象を護る使い方では時間が足りなくとも攻撃に使えば周囲五十メートルに攻撃判定を与えることになるため、空戦では大変効果的であった。


 駆逐艦に使っても半径二十五メートルを断裂させられるため、ある意味対艦ミサイルとしても使うことが出来る。



 これが日本がチャリオスに対して戦える根拠の一部であり、これらは全て三週間かけて実行した国家総動員の結果だ。


 あの三週間が無ければ逆に天自の大敗であっただろう。


 初戦では大戦果を挙げた天自編隊は各艦隊へと帰還するため進路を艦隊へと向ける。


 ミサイルを程よく消費した今、長居したところで敵の長距離攻撃の的になるだけだ。貴重な機体とパイロットを失うわけにはいかず、再度低空飛行に編隊ごとに移行する。


 しかしその直後、早期警戒管制機から情報が各編隊に入る。


 チャリオス本島、敵艦隊、F-35編隊、天自艦隊と言う直線状の配置から、敵艦隊が左右に広がりだしたのだ。


 間違いなくバスタトリア砲の発射のための射線確保と察知し、各編隊は左右に舵を切った。同時にジェットエンジンをアイドリング状態にしてレヴィロン機関とコクーンを起動する。


 コクーン展開中では空気が遮断されてジェットエンジンの推力が得られないためで、速度を犠牲にしても防御の確保が重要だ。


 それでも安全かどうかは不明で、パイロットたちは初戦の勝利を噛みしめる暇もなく、コクーンと機体は耐えられるのか分からずに冷や汗を掻く。



 そして来た。


 一瞬視界の端で点が見えたかと思うとすぐさま分解してしまうのではと思うほどの振動が機体を襲った。横を見ると点在して群生する巨木や木々が激しく揺れ、草や地面に置いてあるだけの岩やレヴィニウムが弾き飛ばされた。


 チャリオス本島からバスタトリア砲が放たれ、その衝撃波で地面にある物が吹き飛ばされたのだ。


 F-35も通常飛行であれば吹き飛ばされていたであろう。コクーンとレヴィロン機関があってこそ、その程度で済んでいた。


 レーダー上だと砲弾は天自の第二護衛隊へ向かっていると推察できる。


 第二護衛隊にはイージス艦〝はるな〟が所属している。偶然か狙ってかは分からないがバスタトリア砲対策で要の護衛艦だ。


 だが護衛艦にはF-35以上の出力を持つコクーンを装備している。直撃はともかく衝撃波なら被害はないだろう。


 その根拠として最初の日本への攻撃でも護衛艦はビクともしていないからだ。


 証明として各機担当の護衛艦から全艦無傷なため着艦許可が下りた。


 護衛艦が展開できるコクーンの大きさは最大直径百メートル。オンオフをスムーズに行ってその範囲内に入ってしてしまえば着艦時に攻撃を受ける心配はない。


 犠牲として展開中はミサイル攻撃出来ないから、コクーンのオンオフの手早さが勝敗を分けると言っていいだろう。



 天自編隊は各護衛隊に近づくにつれて担当の護衛艦へと進路を取り、各護衛艦の管制によって着艦シーケンスへと入る。


 地球時代であっても着艦は難関だ。固定翼機でも回転翼機でもそれは変わらず、パイロットの技量が発揮される場面の一つである。


 だがレヴィロン機関は座標を固定して移動出来るため、やろうと思えば自動運転で着陸することも可能だった。さすがに今回はそこまでのシステムは組んでいないから手動での着艦であるものの、ジェットエンジンを使わないしセンチ単位での微動も容易。護衛艦自身静止状態なので着艦は比較的簡単だ。


 果たして初戦果を挙げて帰って来た十二機のF-35は、無事に護衛艦の後部甲板へと着陸したのだった。


 パイロットたちは報告と休憩を取るために艦内へと入り、整備員はすぐさまミサイルの再装填やその他整備作業へと入り、日本の初陣は終わる。


 この戦果は政府発表で日本全国に報道された。


 完勝とも言える初陣の結果に報道を知った国民は様々な感情が沸き上がる。


 ただただ勝ったことに喜ぶ人もいれば、敵兵を死なせたかもしれないことに自分が一部でも関わっていると苦悩する人。過去の経験からそれでも非戦を強く願う者と多種多様だ。


 幸い国防軍が戦うこと自体を猛抗議するデモは起きておらず、国民も国防軍も士気は高い。


 太陽が西に沈もうとしている。


 日イ対チャリオスは夜戦へと突入する。

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