第8話 Chevrolet
その当時、僕はトランポがほしかった。旧車で街乗りをするよりは、走るのにいいところまでバイクを積んで行きたかったし、お店に修理や点検に持ち込むのにも、いちいちレンタカーを借りずに済むので便利だったからだ。
こんな僕の作品を読んでくれる方は皆ご存知とは思うが、トランポとはトランスポーターの略でここではバイクを積んで移動できるクルマとしよう。
トランポで有名なのはハイエースだが、僕はあまり気乗りがしなかった。運転席が高くて乗り降りがメンドクサイというのが、その理由だ。
他に何かトランポとして使えるクルマはないだろうか? できればちょっとオシャレな奴で。実用のクルマを探しているのに、ファッションやこだわりを持ち込むのは僕の悪いクセだ。
そんな時、お世話になっていたハーレーショップでChevrolet Astroの売り物が出た。最近ではもうあまり見かけないが、当時はスズキのディーラーでAstroを売っていたこともあって、Astroは人気があった。アメリカではAstroは郵便配達に使われているような実用車だったらしいが、郵便配達に4300ccのAstroかよ、とアメリカとのお国柄の違いに妙に感心したものだ。
その売り物のAstroは初代モデルの並行輸入のvanで、売りに出した人はこのAstroにハーレーを載せていたらしい。値段が安かったこともあって、僕はこのAstroをお試し気分で買ってしまったのだった。
僕はこのAstro に乗ってアメ車ってホントにエンジンがドロドロ言うんだなと月並みなことを思った。クルマ自体は驚くほど真っ当でバンとしては乗り心地はいいし、ハンドルもまあ切れた。燃費は高速で85キロ巡航でリッター7キロ、一般道で5キロといったところでギリギリ許容範囲だった。最も燃料タンクが100リッターもあって給油する度に1万円以上かかるのには閉口したが。
そんな訳でトランポライフを始めた僕だったが、いかんせん僕のAstroは安かっただけにコンディションが悪かった。できればもっと程度のいい2代目のAstroがほしかったが、Astro は人気車だったから中古も高くて手が出なかった。
そんなある日ネットオークションを冷やかしていたら、Astroと同じChevroletのC10というピックアップトラックが出品されていた。そのC10が僕の目を引いたのは、ほとんどノーマルのように見えたからだ。ネットオークションのアメ車というのは大体ローダウンされていて派手なアルミホイールを履いているモノ(作者の偏見です笑)だから、逆に好ましく思えた。僕はそのC10を代理出品している茨城県五霞町のお店に現車を見に行った。
そのC10は、1977年式の丸目2灯で5700ccのOHVエンジンを積んでいるモデルだった。ショップが常連に頼まれてアメリカから輸入した車両で、その常連さんは味を占めて、もっと旧いピックアップトラックに乗りたくなったらしい。試乗させてもらった僕は旧いアメ車の雰囲気にすっかりやられてしまった。値段も最初に買ったAstroとそんなに変わらなかった。ショップの店長曰くこの時代のC10はまだアメリカでは単なる中古車でプレミアがついていないのでこの値段で出しているということだった。
ピックアップトラックはアメ車の真髄みたいなところがあって、田舎の金持ちは大きくて豪華なピックアップに乗り、貧乏人や学生はシンプルで小さなピックアップに乗っている。そして税金も優遇されている。C10のCはcompact のCと聞いて、思わず失笑してしまった。全長5m、幅2m、エンジンの排気量が5700ccのクルマがアメリカではコンパクトなのだ。つまり日本でのサニトラみたいなものである。本当にお国柄が違うのだな。
パワステがないから切り返しは大変だったがエアコンは効くし、C10の乗り味はAstroよりもっとおおらかでラジオもつけずエンジンのドロドロという排気音を聞きながら、どこまでも走って行けた。
で、C10にバイクを積んで色々なところに行ったが、雨が降ればバイクが濡れてしまうし、バイクを積んだままクルマを離れるのはイタズラや盗難が心配だった。僕にとってはクルマよりバイクの方が優先順位が高かったので、トランポはバイクを安全に運べることが最優先だった。オフロードバイクを積むのならピックアップトラックの方が車内が汚れないからいいのだろうが、大事な旧車を積むならバンの方が良いというのを再確認して今の僕は国産のワンボックスに乗っている(ハイエースではない)。
日本でアメ車に乗るのは、サイズや燃費を考えると面倒なことも多い。だが、それでもアメ車は魅力的で多くの人が愛好するのだろうと今でも僕は思っている。
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