第7話クレア男爵令嬢視点

「危ない」


 一瞬の事でした。

 決闘で勝った事で、みんなに油断があったのかもしれません。

 士族で固まって食事をとっているところに、多数の火炎魔法が放たれたのです。

 ですが、カルロとレイラに油断はありませんでした。

 体内で練った気を両手両足に集め、武闘術を駆使して火炎魔法を叩き落としました。


 私には何の被害もありませんでした。

 問題は戦う術も逃げる術もなかった者たちです。

 多くの士族子弟や子女が、大火傷を負ってしまいました。

 学園内に武器を持ち込めない事が災いしました。

 多少の武芸を習得していても、素手で火炎魔法を叩き落とすのは不可能です。


「メイソン! 

 大丈夫か?!

 メイソン!」


 やばい!

 これは不味い!

 カルロが切れてしまいます。

 レイラも真っ青になっています。

 メイソンが大火傷を負ってしまっています!


 准男爵家長男のメイソンは、カルロの幼馴染です。

 同じ師について槍術と武闘術を学んだ莫逆の友です。

 レイラや私が入学するまでは、二人が柱となって、士族子弟を貴族子弟から護っていました。


 衆道の仲ではないと思うのですが、互いに大切に思っているのは、間違いありません。

 メイソンを傷つけられて、カルロが大人しくしているはずがないのです。

 前回は私が傷を負わなかったので、あの程度の報復で済みましたが、大切な者を殺されかけたら、倍返しで報復する事でしょう。


 私も覚悟を決めた方がいいのかもしれません。

 昨日ガードナー辺境伯閣下がわざわざ我が家に参られました。

 周辺国の魔獣被害と難民の件、更には聖女の相談でした。

 父は受けると申されました。

 ガードナー辺境伯閣下の漢気に覚悟を決められたのでしょう。


 同時に新しい王家と深い絆を構築されるお考えです。

 ガルシア商会を王家王国御用達の商会にする事。

 ガルシア男爵家を侯爵家に陞爵する事。

 ルチアーノ男爵家を伯爵爵家に陞爵する事。

 ゴッティ男爵家を伯爵爵家に陞爵する事。

 以上の条件を出されました。


 ガードナー辺境伯閣下は、全て承諾してくださいました。

 誓約書も書いて下さいました。

 成功報酬ですが、当然です。

 クーデターが成功しなければ、できない事ですから。

 だから私も真実をお話ししました。

 私こそが聖女である事を。


 ただし話す前に条件を出しました。

 聖女の正体を教える代わりに、私を正妻に迎えてくださることを。

 閣下は承諾してくださいました。

 今の正妻とは不仲だと言う噂は本当なのかもしれません。

 アンソニー王弟と衆道の仲だと言う噂も本当なのかもしれません。


 ですが仕方のない事です。

 君臣の間で契りを結び、忠誠心を確かめるのが今の流行りですから。

 聖女としてメイソンを癒し、一気に動きましょう。

 カルロは激怒してリミッターが切れているのです。

 ガードナー辺境伯閣下の正妻になる機会を見逃す事はありません。

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