第5話クレア男爵令嬢視点

 カルロの手際は見事でした。

 父上が築いた人脈とカルロ個人の繋がりを使って、アンソニー王弟殿下とエイデン辺境伯閣下の支援を引き出し、エミリー王女殿下が陰謀を企めないように手配したのです。


 ガルシア男爵家の当主が誰になるかは別にして、父上が築き上げた商会の当主はカルロこそ相応しいのかもしれません。

 しかし問題は今回の借りです。

 アンソニー王弟殿下は、聖騎士で大将軍でもあります。

 その殿下が、カルロの腕を見込んでいるのです。


 殿下はカルロを配下に加えたいとお考えなのです。

 以前に百騎長で迎えたいと誘われたと聞いています。

 しかしカルロは、私を護る役目があるとお断りしたそうです。

 父上も遺恨が残らずに断れるように、根回しされたそうです。

 ですが今回の借りです。


 エイデン辺境伯閣下も同じです。

 閣下は殿下と同じ武闘派に所属され、肩を並べて戦った戦友でもあられます。

 カルロを配下に加えたいとお考えなのです。

 近衛騎士団に所属させるか、国境騎士団に所属させるかで、考えの違いはありますが、武闘派に加えたいと言う考えは同じです。


 私個人は、エイデン辺境伯閣下の騎士団に所属してもらいたいです。

 そうすれば、私と閣下の接点が少しでも多くなります。

 一目でもお顔を見る機会があるかもしれません。

 もしかしたら、お声をかけて頂けるかもしれません。

 はしたない考えですが、婚約破棄された身です。

 それくらいの願いは許されるかもしれません。


 決闘の方は簡単に終わりました。

 アクセルにカルロと戦う力量などありません。

 アクセルが弱いとは言いません。

 王家騎士団の中では傑出した実力なのでしょう。

 それでもカルロの足許にも及ばないのです。


 闘技場で行われる決闘は、賭けが許されています。

 決闘を見世物として民の娯楽にした上に、臨時の収入源としているのです。

 王家が同元となり、貴族から民にまで、大々的に賭けさせるのです。

 普段の剣闘士の戦いと違い、命を賭けた決闘なので、見る者が熱狂するのです。


 ですが今回はそれほど盛り上がりませんでした。

 一瞬で勝負が決まり、カルロの腕が際立っただけです。

 多くの貴族士族はアクセルに賭けました。

 騎士団での闘技大会で、常に上位に位置していたからです。


 だから掛け率も、圧倒的にアクセル優位でした。

 十対一という圧倒的な掛け率でした。

 だから私たちは、カルロに大金を賭けました。

 絶対に勝てると分かっている賭けを見逃す事はありません。


 カルロやレイラに助けられた士族たちも、余裕のある範囲でカルロの勝利に賭けました。

 カルロがアクセルを真っ二つに両断して勝利しました。

 一瞬の事でした。


 王女殿下は大恥をかきました。

 カルロが勝利したので、直ぐに闘技場から王宮に帰られましたが、その時の眼が蛇のようでした。

 必ずまた何か仕掛けてきます。

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