ゾンビ君は巨大遺跡の夢を見るか?

@58jw4368

第1話 死んで良かった!生きててもいい事なんて何も無いぜ!

タカシこと高司次郎(タカシじろう)が死んだのは23才ぐらいの暑い夏だった。俺の短くも厳しい戦いは終わった。

蒼天よ、私に永遠の安らかな眠りを賜りたまえ・・・。


という事にはならなかった。いきなり墓場から引き上げられたからだ。大いに焦った俺だが、次の瞬間喜びに胸を震わせた。どこも体が痛く無い。吹き飛んだ左手も元通りだ。


「ふうううううううッス!」


歓喜の余り喜びの遠吠えをしてしまう。黒い死神みたいなローブを纏った少女や半人半馬の女騎士の事など眼中に無い。


「蒼天よ!感謝申し上げます。もう二度とクラスター爆弾に悩まされる事はありません。ありがとう御座います。」


感謝の印として両手を高く天に掲げた。そこでようやっと辺りの光景が目に入る。ここは墓場だった。空は真っ暗で辺りは曲がりくねった森に囲まれ、墓石が刺さった土まんじゅう的な何かがいくつも見える。


「本当にこのような輩でよろしいのですか?お嬢様。少々。いや、かなり不安を感じますが。」


死神っぽい少女は女騎士に向き直るとこう言った。


「これで良い。事が済めば、後は彼の好きにさせよう。覚悟は既にきめてある。」


少女は毅然とした態度で騎士に臨む。不意にザワザワと風が吹く不気味に鳴り響き、フクロウの鳴き声もかき消した。


「私は東都上級政府東軍隷下第六東海師団第四輜重隊戦時徴用市民、高司治郎であります。タカシとお呼び下さい。」


俺はまず少女に、次に女騎士に敬礼をした。事態の飲み込みは早い方だ。むしろ逆に適応し過ぎている感じがするが気のせいだろう。


「私はネクロマンサーのユークリウッド、こっちはクラリッサ。よろしく。」


女騎士が頭上よりイギリス式の敬礼を返す。下半身が馬なので背が高いのだ。


「あの・・・。質問の許可を求めたいのですが?」


俺は恐る恐る死神みたいな少女に伺いを立てる。


「質問を許可する。」


「ありがとう御座います。では、私は死んだのですか?」


「その通りだ。」


「もしかすると、もしかしたらゾンビ化したのですか?それにしてはまるで生きてる様に見えますが。」


「良く出来てるだろう。なかなかの出来栄えだ。」


俺は片膝をついて頭を下げ、大いに感謝の示す。


「ははー!有難き幸せに御座候。」


「むにゃむにゃ。余も満足だ。そうよなクラリッサ。」


騎士は俺に大して期待してないらしく、やや投げやりに返事を返した。


「そうなると良いのですが。」


俺は自然と力が沸いてきた。怪しげな理不尽パワーでは無い。これから先、世界中の巨大遺跡を見て回るのだ。


「ジロ!ジロ!」


ふと誰かが自分の脳内で俺を読んだ気がした。しかし、何の事かサッパリ感分からない。思わず腕を組んで思い出そうと頭をひねる。


「分からない。判らないぞ。」


「どうかしたのか?」


クラリッサがたずねる。


「巨大遺跡は今すぐ見に行きたいです。しかし、何か忘れているような。やけに頭が軽い感じがするのですよ。」


「それは脳味噌の一部を抜き取られたからだ。記憶も一部失ったのであろう。今ここにあるのは我々が奪還した残りましカスだ。だからこうして呑気にお話出来るのだ。」


「何だと・・・。」


俺は衝撃の返答に思わず膝をついた。


「家族は?俺の死因は?趣味はアニメだ!読書もそうだったような・・・。」


「重要な所は持っていかれたみたいだな。これから先が大変ね。同情するよ。」


騎士は肩をすくめて、ため息交じりに前足を動かした。


「誰が私の脳味噌を奪って行ったのですか?ある程度は分かっているのでしょう?」


「もちろん、しかし行方は不明だ。楽しい第二の最高級ゾンビ人生を歩みたければ我と契約せよ。拒みたければ好きにせよ。」


「この世界にでっかい遺跡。例えば大灯台や巨大神殿、空中庭園はありますか?」


俺は目を輝かせながら少女に迫った。彼女は少し気味悪そうに後ずさる。


「あるぞ、あるぞ。世界の七不思議がの。」


「やったぜ!蒼天よ、深く深く感謝致します!」


俺は嬉しさの余り、思わず涙ぐむ。ギーザの大ピラミッド以外崩壊したあの世界の七不思議が死後に見られるのだ!興奮しないはずが無い!


「さて、契約せよ。我が臣下よ。と言いたい所だが、今しばらく様子を診るかの。機動実験はまだ残っておる。それから敵は既に去ったが、十分用心する事だ。」


どうやら試験的雇用期間があるらしい。俺はこれから先どうなってしまうのか、少しも検討が付かなかった。



              続く・・・。

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