店方章希の告白

店方閨、一枚の葉書

 私の話を聞いていただけるとの事で、ありがとうございます。

 私は死刑になるでしょう。それは当然の事だと思います。いかなる理由があれ、多くの人命を奪った事は許されてはなりません。

 ですが、全てを承知で私は犯行に及びました。後悔はしていません。ただ……両親には申し訳なく思っています。悪い息子ですみませんでした。



 まず……この事件についてお話しする前に、私の妹ケイについてお話ししなければなりません。

 私は父と母、そして妹の四人家族で、妹のことは一家全員、もちろん私も目に入れても痛くないほどに可愛がっていました。

 本当に可愛い妹でした。幼い頃は髪を短くして「兄ちゃん、兄ちゃん」と私の後をついて走り、どこへ行くにもいっしょに居たがるような子で、小学校の修学旅行に出かける日など、まるで戦地に赴くかのごとく泣きじゃくって「無事に帰って来て」と言うほどで。

 しかし、さすがに中学生になると落ち着いて、高校生になると髪を長く伸ばしはじめ、女性らしいというか、淑やかな振る舞いをするようになりました。もう可愛いではなく、美人といって差し支えない容姿だったと思います。身内のひいき目と言われては、それまでですが。

 ケイは家族の干渉を鬱陶しがるようにもなりましたが、それでも全体として家族仲は良好だったと思います。ごく一般的な家庭……。


 私は高校を卒業してすぐ地元N県内の会社に就職しました。製造業です。それから親元を離れて一人暮らしを始めて……。

 まあ、特に何事もない平穏なというか、平凡な日々を送っていました。仕事して、寝て、起きて、盆と正月ぐらいには実家に帰って。そんなこんなで数年経って、ケイも近場の大学に進学して。

 その年のゴールデンウィークの事でした。ケイは大学の友達とX県に旅行に出かけると言って、それっきり帰って来ませんでした。出発前に宿泊の予定はあるかと母が尋ねていたのですが、ケイの返答は「二日か三日くらい」と曖昧で。親の干渉を嫌う年頃ですから、深く尋ねようものなら「しつこい」と一言で切って捨てられるのがオチなので、多少心配ではありましたが、この時はまあ大丈夫だろうと思っていました。

 しかし、ゴールデンウィークが終わる五月七日になっても何の連絡もなく、スマホも全然つながらないので、何かあったに違いないと両親は警察に捜索願を出しました。ですが、六月、七月になっても、まるで連絡はなく……。私は度々両親と連絡を取って、ケイの無事を尋ねましたが……。

 ケイが行方不明になった場所はX県としか聞いていませんでした。おそらくは、あのW村だったんじゃないかと思います。

 それが全てのはじまりでした。


 そして忘れもしない、八月一日。両親の元に一通の葉書が届きました。それはケイが結婚したという内容のものでした。

 両親からの電話で、その事を知った私は混乱しました。いったい何がどうなっているのか、両親も分からないと言っていました。まだ成人もしていないケイが、いきなり結婚だなんて。

 お盆休みに里帰りした私は、その葉書を見ました。差し出し人は「御座託家」と「御座閨」の連名。最初は「御座」の読み方も分かりませんでした。住所はX県Y郡W村……。

 葉書の裏には一枚の写真。白無垢姿のケイの隣には、誰とも分からない紋付袴姿の男。真っすぐ前を向いている男と、どことなく沈んだ顔のケイ。

 頭がどうにかなりそうでした。こんなわけの分からない事があるのかと。ケイの身に何が起こったのか、この手で真相を解き明かさなければならないと、私はW村に出かける決意をしました。

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