第21話 ジグソーパズル

 十月に入り、総合企画部企画課はいよいよ忙しくなってきた。

 田島さんの方のゆるキャラは全国各地からデザインが集まって、締め切りまでに五百点のキャラデザインが集まった。同時に市のロゴデザインも募集したが、こちらも少ないながら二百点の応募があった。


 賞品を『決定したロゴとゆるキャラのデザインされたオリジナルグッズ』という希少価値の高いマニア向けのものにしたおかげで、低コストでのデザイン化を可能としたと言っても過言ではない。これは幽霊の発想の勝利だ。とは言え、そのオリジナルグッズの構想は現在練られている最中なんだが。


 俺の方も市政五十周年イベントは先日の幽霊案で決定し、あとは出演団体の交渉に移ってきている。が、どんな団体がいるか知らんので、まずはそこからだ。

 春のクラシックイベントには市民交響楽団と市民吹奏楽団、それと市内の高校の吹奏楽部に打診しようかと考えている。

 夏のマーチングイベントは、高校の吹奏楽部はきっと野球の応援に忙しいだろうし、中学校の吹奏楽部や小学校、ひいては幼稚園にも声をかけてみようかと思案中。

 秋と冬のイベントに至っては全く何も構想が無い。こんなんで大丈夫かと思われそうだが、俺には最強の味方・幽霊がついている。というか憑いている。


『市民交響楽団は常任指揮者に連絡した方が早く話がつくよ。あたしの紹介だって言えばすぐにわかるから』

「いや、幽霊、三年前に死んだんだろ?」

『だから、以前からあたしが市民交響楽団を推していたって言えばいいじゃん。小場家玲子の名前出したら一発だから。あと、吹奏楽団の方は団長さんの方が話が早い。あっちは団長さんが気のいいお爺ちゃんで、そういうイベント大好きだから』


 なるほど、相手を見て攻め方を変えるわけだ。もういっそ、交渉に行くとき幽霊について来て欲しいよ。こんなところでジグソーパズルさせておくには惜しい人材だ。


『高校の吹奏楽部は全国大会に出てるのがいくつかあるから、そこら辺が集まれば結構お客さんが見込めると思うよ。吹奏楽コンクールで検索かければすぐにわかるから。夏のマーチングバンドフェスティバルとの兼ね合いもあるから、そこら辺も一緒に見た方がいいと思う。マーチングバンドはカラーガード隊のある所を優先した方がいいからね』

「は? カラーガード隊? 何それ」

『長い柄の先にでっかくてカラフルな旗を付けたやつをカラーガードって言うの。それを大勢で一糸乱れぬ動きで振り回すんだよ。すっごいカッコイイんだから。あとでカラーガードで検索してごらんよ。バトントワリング隊も引き連れてるところもあるし、市内でもあったはずだよ。無かったら近隣の市にも声掛けちゃえばいいよ。こういう企画なんてジグソーパズルと一緒だよ』


 最近、幽霊と話してると、俺の手帳があっという間に真っ黒に埋まっていくんだよな。それだけの情報量が幽霊の脳味噌に格納されているわけで、これを単なる死人にしておくのは実にもったいない。こんなに有能な幽霊なら、ガンガン働いて貰いたいよ。


「なんか幽霊の手柄を俺が横取りしてるみたいになって悪いな」

『何言ってんのー、あたし、まだまだ働きたかったんだから、こうしてあたしの案が企画会議を通るのって嬉しいんだよ。あたしの方こそ想ちゃんの体使って仕事しちゃって申し訳ないなって感じなんだけど』

「じゃ、ギブ・アンド・テイクってことでいいかな?」

『いい、いい! 全然おっけー!』


 まあ、幽霊がいいって言ってくれるんだから良しとしよう。


『あとさ、これ結構予算少ないでしょ? だから学校関連はこっちから声をかけるというよりは参加校募集ってやったらいいと思うのよね。私立なんかは学校のいい宣伝になるからすぐ食い付いてくるよ。楽器の運搬費だけ負担するような形でいいと思う。市民楽団の方も「参加しませんか?」って感じにして、出演依頼にしなくていいよ。知名度低いから、そういうところで知名度上げようとしてくるはずだし』


 地味に悪どくて、ちょっと笑ってしまう。こんなかわいい顔して、言う事が悪代官みたいだ。


『秋のジャズストリートは一般市民から参加者募って、参加費を徴収したらいいと思うんだ』

「え? 徴収? それいくらなんでも集まらないでしょ」

『そんな事ないよ。アマチュアが人前で演奏するには、普通は何組か集まって合同でコンサート開いたり、お店で演奏させて貰ったりするしかないんだもん。それが僅かな参加費で人前で演奏させて貰えるなら集まるって』


 相変わらずジグソーパズルやりながらだけど、言ってることは本気で考えてる俺よりもよっぽど充実してるから、負けた感半端ない。


『1グループあたりの持ち時間決めてさ、今日は駅前広場、明日は商店街の一角、明後日は桟角川さんづのがわ沿いの公園なんて言ったっけ、あそこの広場使って、とかさ』

「何日もやるの?」

『そう。一日にあちこちの会場でやってもいいよ。場所が遠いと行きづらい人でも、近くの会場ならサクッと行けるでしょ? ウォークラリーっぽく全部の会場を制覇したら記念品もらえるとか、そういうのがあっても良さそうじゃない?』


 なるほど、それも市のゆるキャラをデザインしたものにすればいいのか。

 という事は、まずは田島さんのところのゆるキャラと最古杵市のロゴを決めてグッズの概要をまとめ、場所を押さえて即募集をかける。うん、なんだか見えて来た。


『春のクラシックの集いは市民会館でしょ? 大ホールは大人向け、中ホール使って子供から楽しめる親子向けコンサートやったらどうかな。きっと市民交響楽団ならその辺やってくれると思うよ。ピーターと狼みたいなストーリー性のあるやつ』


 なんだかもう俺、キャパオーバー。とにかくこれを持って行って提案しよう。って言ってもプロのイベント企画屋の案なんだから通るに決まってんだけど。


 そして俺は幽霊のお陰で、この後めちゃめちゃ評価が上がり、幽霊が成仏しちゃったらマジでヤバいな、なんて思ってしまうのだった。

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