第17話 幽霊パワー
『超絶簡単じゃん。予算内どころかまるっきり浮くよ』
「えっ? マジで?」
幽霊に相談して大正解だった。田島さんの悩みを一撃で解決してしまったのだ。
『市のゆるキャラなんだから、市民に参加させちゃえばいいんだよ。広く一般にデザイン募集かけてさ、それで市民に投票させちゃうの。それで一番得票数の多かったデザインを採用しちゃえばいいじゃん。市民の総意とまではいかないにしても、多数の共感を得たデザインなんだから文句も出ないわよ。それで、選ばれたデザインには賞金でも商品でも懸けりゃいいのよ。デザイナーに頼むのよりは安上がりでしょ。どうせそのキャラのグッズを作ることになるんだろうから、その収益ですぐ元なんか取れるし』
ちょっと待ってよ、この人、天才なの? それって、三千ピースのジグソーパズル組みながらサクッと言うようなことなの?
「ねえ、幽霊ってデザイナーか何かだったわけ?」
『まさかぁ』
「じゃ、一体何の仕事してたの?」
『イベント企画会社の企画担当だよ』
は? は? は? 今なんとおっしゃいましたかね?
「そういうの、地獄に仏って言うんだっけ?」
『渡りに船じゃない?』
「マジかよ、抱きしめたい」
『それ無理だから、物理的に』
「うん、わかってるから遠慮なく言ってみた」
『遠慮しなよ』
何の話だったかな。
「いやーそれマジで田島さん喜ぶわ」
『田島さん? って誰?』
「だからそのゆるキャラの担当さん。幽霊が今やってるパズルくれた人」
『女の子?』
え? それ必要な情報かね? てかなんでジト目する?
「うん、
『だからタージ・マハルのパズルなわけ?』
言われてみればタージ・マハルじゃん。今まで気づかんかったわ。
『てかそれインドの墓じゃん。想ちゃん、墓とか幽霊とか、そんなのに縁があるんじゃない?』
「そういえばここの引っ越し手伝ってくれた先輩、
『卒塔婆かい!』
そこ、大笑いしながらひっくり返るとこじゃねーけど。てかせっかく組んだパズルがぶっ飛んだし。
と思ったらガバッと起き上がった。しかも真顔。怖いし。
『想ちゃん、そういう運命なんだよ。周りにオカルトが寄って来るんだ。磁力があるんだよ、きっと』
「オカルト引き寄せる磁力なんか要らねえんだけど」
『だってよく考えたら、想ちゃん、
「どういう関係が?」
『最古杵市って……
「そっちかよ、めっちゃ古い杵なんだけどなー、字は」
『その田島さんって可愛い?』
は? だからそれって必要な情報?
「うん、まあ可愛いね。サバサバ系だけど。田島さんの着てる服見てて、幽霊が着たら似合いそうだなって思ったよ」
『職場であたしのこと思い出してくれたの?』
「弁当持ってってるしね。絶対思い出すじゃん」
『決めた、毎日お弁当作る』
「いや、職場でまで存在アピールしなくていいし」
『想ちゃんが職場で活躍してくれるのは嬉しいよ。田島さんに入れ知恵して、それで仕事が進んだら楽しいしね。あーあ、あたしも仕事したーい』
仕事したい……って言ったか? それってイベント企画の仕事がしたいってことでいいのかな、幽霊よ?
俺はちょっとドキドキしながら、パズルを組み直し始めた幽霊に聞こえるように言ってみることにした。
「市政五十周年イベント、行き詰ってるんだよなー。何かいい案、ないかな~?」
『それはあたしに聞いてる?』
「はい、もちろんです。よろしくお願いします……」
俺、立場弱ええええ!
『戦隊ヒーローを作る』
……は? 藪から棒に。何を言いだす?
『市のキャラクターとしてゆるキャラを作って、グッズを作ったり着ぐるみで活動したりするでしょ。その他にイベントになると必ず現れる戦隊ヒーローがいればいいんだよ』
「え、ちょっと意味がわからん」
『だーかーらー』
と言って、幽霊はパズルを組む手をいったん止めた。
『最古杵市の名物って何よ』
「市の花は彼岸花、市の鳥はカラス、市の石は白御影石、市の名物料理はもんじゃ焼き、菊の出荷は日本一、あとは――」
『彼岸花とかカラスとか菊とか白御影とか、徹底してソッチ系で攻めてくるね。想ちゃん、どうしてもソッチと縁があるのねぇ』
いや、今の今まで気づかなかったし!
『しかも、もんじゃ焼きってエクトプラズムみたいなもんでしょ?』
「ヤメロ、もんじゃ焼き食えなくなる」
『まあ、とにかくあれよ、戦隊ヒーローにできればいいのよ。ヒガンバナレッド、ミカゲホワイト、キクイエロー、カラスブラック、あと緑か青が欲しいわね』
「カイワレ大根が特産物」
『カイワレグリーンで決定ね。完璧』
待て待て、それを完璧というのか?
『戦隊ヒーローとコントをミックスして、大人には笑いを、子供にはヒーローのカッコよさを見せて、全年齢対応型ヒーローを作る。だから名前はカッコ悪い方がいいの。カイワレグリーンとか絶対主婦層にウケるし、ミカゲホワイトはお爺ちゃん層を鷲掴みよ!』
そうなのかなぁ? なんかイマイチ納得がいかないんだけど。まあ、俺だけじゃ他に何も案が思い浮かばないし、最終手段として使うのもアリか。
『名前はサイコンジャーだね、最古杵市だけに』
「再婚じゃー! って感じじゃん」
『じゃあ、サイコキネンジャーでもいいし』
「それじゃ最古記念じゃー! じゃねえか」
『えーと、それとイベントね』
おい、スルーかよ。
『音楽イベントとかどうかな? 春はクラシック、夏はマーチング、秋はジャズ、冬はポップスみたいにテーマを決めて音楽イベントやるの。プロを呼んでもいいし、市内のアマチュアミュージシャンを募ってもいいじゃない?』
すげえ、なんでそんなこと次々と思いつく? しかもパズルしながら。しかも三千ピース。
『で、そのイベントの度に着ぐるみのゆるキャラ登場させてさ。前座に戦隊ヒーロー』
俺はもう休む間もなくひたすら幽霊の言葉をメモした。これ、マジで企画会議で承認されるかもしんない。
「ねえ、マジこれ、職場に持ってっていい? 幽霊の名前出せないけどいい?」
『当たり前でしょ。あたしの名前なんか出したって幽霊から案を貰いましたとは言えないじゃん。ちゃんと想ちゃんの案として出したらいいんだよ』
「俺、それだけの能力ないのに、スゲエとか思われたらどうしよう」
『気にしない気にしない! 企画通るといいね。通らなかったらまた何か一緒に考えてあげるよ』
渡りに船どころじゃない、鬼に金棒だ。興奮のウツボだ。違う、それは興奮のるつぼだ。冷静に考えると、興奮のウツボって危なっかしくて近寄れねえ。鬼に金棒だって危険度かなり高い。いや、そういう問題じゃない、何考えてんだ……凄すぎて思考がカオスになってる。
まさかこんな形で幽霊の才能の恵みにあやかれるとは思ってもみなかった。俺、やっぱり幽霊と出会うべくして出会ったのかな。秋谷亀蔵・鶴江夫妻のように。
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