第6話 高2・春・女の子・前編
新学期が始まってすぐ。
桜の花が散るのと一緒に、私の小さな恋も散った。
まあ、恋は恋でも小さな恋だった。
ちょっといいなと思っていた程度だ。
私と違って陽気でサッパリした性格が眩しくて、目を惹かれていた。
それだけ。
それでも、下校しようと下駄箱で靴を履き替えている時は、ついA川君のスニーカーを見てしまう。
そして少し、ほんの少しションボリする。
その程度だ。
さあ、テストも近いし、さっさと家に帰って勉強しよう。
そんなことを考えながら校門に向かっていると、後ろから声をかけられた。
「ねえ!待って!」
声変わりして、以前ほど高音ではないけど、それでも聞き慣れた声。
振り返ると、幼馴染の彼が、私に小走りで近付いてきた。
校門近くで立ち止まっていても他の生徒の邪魔になる。
彼が私の傍まで来ると、私達は自然に2人で歩き出した。
「何よ?何の用?」
「一緒に帰ろうと思って」
私の疑問に、彼はサラリと答える。
「…なんで?」
本当になんでよ。
一緒に帰った事なんて、中1のあの日1回きりじゃない。
「いや、なんか具合悪そうに見えるから。大丈夫かなって思って」
「え?別にどこも悪くないけど」
「でも…元気無さそうに見えるよ?」
「…!」
鋭い。
さすが幼馴染。
最近の私のことなんて何も知らないはずなのに、私の心理状態を言い当てるなんて。
図星を突かれてしまったし、私は素直に白状した。
「…別に、体調が悪いわけじゃないわ。
ただ…最近少し嫌なことがあって、ちょっと落ち込んでるだけ」
「嫌なこと?」
「うん」
「…」
「…」
詳しくは聞いてこないでいてくれるのは、ありがたい。
久し振りに喋る男の幼馴染に恋愛関係の話はやりにくい。
そのまま私達は会話もせずに2人で一緒に帰る。
いや、一緒に帰るっていうか…どうせ途中まで方向は同じだし。
隣の彼をチラリと見上げる。
いつの間にか身長を抜かれてしまった。
小学生の頃は私の方が大きくて、中学生の時でも同じ位だったのに。
結局ロクに話もしないうちに私の家に着いた。
「じゃあまた明日。学校でね」
「あ、うん…」
中1の時もこうして家まで送ってくれたことがあったな。
あの時は、変な男につけられてる私を助けるために。
今日は元気のない私を心配して。
…今日こそ言うべきじゃない?
あの日は言えなかった一言を。
心臓が早くなる。
顔も熱くなってる。
でも、言おう。
「…今日はありがとう」
彼はキョトンとした顔で私を見つめた。
なんだか、恥ずかしい。
でも彼はニコリと微笑み
「どういたしまして、じゃあね」
それだけ言うと、行ってしまった。
今日の私、何か変じゃなかったかな。
いや、変だったかも。
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