第2話 中3・春・男の子
「高校はどこ行くの?」
内心ドキドキしていることが悟られないように、さりげなく聞いてみる。
―パチリ
将棋の駒が鳴る。
「K高が第1志望で、S女子も滑り止めで受けるつもり」
「ふーん…」
簡潔に答えてくれた彼女に、僕も軽く頷く。
でも、S女子と聞いて自分の体温がスッと下がるのを感じた。
女子高に進学されたら困る。
僕は男だから女子高には行けない。
なんとかK高に合格してほしい。
「そっちはどこに行くつもりなの?」
―パチリ
駒を打って、彼女も同じ質問をしてきた。
「僕もK高が第1志望なんだ」
僕の答えに彼女は少し驚いた顔をした。
「へえ、てっきりT高が第1志望かと思った」
僕はプルプルと首を振った。
「いや、T高は勉強が本当に大変そうだし。
それにあの学校、交通の便がすごく悪いんだよ。
通学が大変そうでさ」
嘘は言っていない。本当のことだ。
それにT高には君がいない。
だから行かない。
僕はK高に行く。
君がいるから。
僕達は他の部員に迷惑が掛からない声の大きさで進路の話を続けながら将棋を打った。
この中学校の『生徒は全員必ず部活に入らなければならない』という規則を知った時には、なんて面倒な規則だと思ったものだけど、彼女を追って囲碁・将棋部に入部したおかげで、こうしてゆっくり会話するチャンスには恵まれている。
盤を挟んで目の前に座っている彼女を盗み見る。
良く言えば意志の強そうな、悪く言えば気のキツそうなツリ目。
初めて会った日から10年以上経つけど、どんなに体が成長しても、年頃になって綺麗になっても、目元だけは昔からの面影を残している。
この学校の制服の、白いブラウスと紺色のブレザー。
校内には同じ服装の女の子が数百名いるはずだけど、間違いなくこの子が1番良く似合っている。
もう中学3年生の春の季節も終わる。
この制服を着ている彼女を見ていられるのもあと1年足らずだと思うと、今から少し寂しかった。
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