ついてくる男の子

ハツカ

第1話 中3・春・女の子

「高校はどこ行くの?」

週に1度の、囲碁・将棋部の部活中。

私と対局中の彼が聞いてきた。

―パチリ

将棋の駒が鳴る。

「K高が第1志望で、S女子も滑り止めで受けるつもり」

「ふーん…」

そっけない返事だけど、適当な生返事でもない。

私と彼は、一応、幼稚園の頃からの幼馴染だ。

特に仲良しという関係でもないが、来年の春どこにいるのか、興味くらいはあるのだろう。

「そっちはどこに行くつもりなの?」

―パチリ

駒を打ってから、私も同じ質問をした。

「僕もK高が第1志望なんだ」

彼の答えに私は驚いた。

「へえ、てっきりT高が第1志望かと思った」

K高は市内の公立高校の中では、上から2番目の学力の学校だ。

彼の学力なら最も偏差値の高いT高を狙うと思っていた。

彼はプルプルと首を振った。

その動きに合わせて彼の髪もフワフワ揺れる。

「いや、T高は勉強が本当に大変そうだし。

それにあの学校、交通の便がすごく悪いんだよ。

通学が大変そうでさ」

へえ、そうなのか。

私は学力的にT高に行くのは無理なので、あの学校の場所すら知らない。

場所を知っているということは、やっぱりT高は彼の候補の1つではあったんだろう。

盤を挟んで目の前に座っている彼を見る。

男の子の中では小柄だ。

髪も長い、というか、量が多くて、短髪というよりショートボブと表現した方がしっくりする。

顔立ちも柔らかそうな優しい顔立ちで、さすがに女の子には見えないけど可愛らしい顔をしている。

そこそこ美少年だと思う。

10年以上、細く、でも途切れずのつきあいがあるせいか、幼稚園児の頃から大して見た目が変わっていないように思える。

変わってないはずないのに。

でも、白いワイシャツと紺色のブレザーに包まれた体は女子の私の目から見てもやっぱり華奢だ。

もう中学3年生の春の季節も終わる。

もし私が来年の春K高に合格しなかったら、彼と会うこともめったになくなる。

幼稚園の頃からの知り合いと、あと1年足らずでお別れになるかもしれないと思うと、今から少し寂しかった。

いや、私が合格すればお別れにならないんだけど。

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