20けんめ 『ヤミノ世界』に行く話
第1話 イショクジュウ勇者集合
目を覚ました私の視界には、スミカさんの笑顔がいっぱい。
どうやら私はスミカさんに膝枕してもらっているらしい。
「ここはどこ? 今、どういう状況?」
「フフフ、ここは大きなお城よ。さっき転移魔法陣を使って、海底神殿からテイトにやってきたのよ。でもテイトに転移した後、たくさん人が集まってきちゃって、びっくりしたユラちゃんは気絶しちゃったの」
「ああ、そういえばそうだった」
人見知りが発動しちゃったんだよね、たしか。
おかげでスミカさんに膝枕してもらえたんだから、人見知り万歳だね。
「ところで、シェフィーたちは?」
「シェフィーちゃんは書斎で魔法陣を作ってる最中よ。ミィアちゃんとルフナちゃんはアイリスちゃんのところね。ルリちゃんとイショーちゃん、まおーちゃんはお出かけ中だわ」
みんな、それぞれ好き勝手なことをしてるらしい。
なら私も好き勝手に、このまま膝枕を楽しんじゃおう。
と思っていたのだけど、突如として自宅が揺れ、爆音が耳に飛び込んできた。
まるで爆弾でも落ちたみたい。
私は焦って立ち上がる。
「何事!? 戦争!?」
「マモノの襲撃ですか!?」
いかにもヤバそうな事態に、シェフィーも真っ青な顔をしてリビングにやってきた。
2人で窓の外に目を向ければ、爆音の正体が分かる。
大きなお城の広場には、ひび割れた地面に仁王立ちする、謎の肉を引きずったポニーテール少女が。
「到着したぞ! 魔王が現れたって聞いて、ババッと飛んできた! 魔王はどこだ!?」
続けて、ポニーテール少女に背負われ気持ち悪そうな顔をする少女がぼやいた。
「うう……シキネのジャンプ移動は胃と三半規管に厳しいんじゃい……」
あの2人は間違いない。
私たちは思ったことをそのまま口にした。
「シキネさんとクロワさんです!」
「うわぁ……本当に爆弾だった……」
「久々の再会ね」
ショクの勇者とそのおまけ、クロワとシキネの登場だ。
意外であり、納得の人物の登場に、私は頭を抱える。
シキネは私たちに気がついたらしい。
彼女は私たちに人さし指をさし、宣言した。
「お! ジュウの勇者と氷の女王がいるぞ! よし、勝負だ!」
「反応が想像通りすぎる!」
だからこそ私は大きなため息をついた。
このままじゃ、シキネとの第三次勇者勝負がはじまっちゃう。
それだけは回避しないと。
でも、どうやってシキネとの勝負を回避しよう。
さらに頭を抱えていると、たくさんの買い物袋を持ったルリ、イショーさん、まおーちゃんの姿が視界の端に映った。
イショーさんはシキネを見つけるなり声をかける。
「フッフーン、これはびっくり。シキネとクロワじゃない」
「なっ! お前はイの勇者イジョーとラリルレロ!」
「イショーとルリよ。あなた、何回間違えれば気が済むの?」
どうやらイショーさんとルリは、シキネとクロワの2人と顔見知りらしい。
一気に賑やかになった大きなお城の広場。
スミカさんは楽しそうに言う。
「フフ、3人の勇者が勢ぞろいね」
言われてみればそうだ。
伝説の3人が一堂に会しているんだ。
もしかして今、この広場って歴史的な一場面になってるんじゃない?
シキネも勇者が集まったことに、おかしな方向でテンションを爆発させる。
「なんてグッドタイミング! お前ら、アタシと勝負だ! 勝負の内容は、魔王を先に見つけて、倒したヤツが勝ちな!」
何度目かのため息をつく私とシェフィー、そしてイショーさん。
加えて、魔王を倒すという言葉に、まおーちゃんは怯えちゃったらしい。
まおーちゃんはルリの背中に隠れ、ちょっと涙目。
対するルリは、まおーちゃんの頭をなでながら優しい口調で言った。
「……大丈夫、シキネは悪い人じゃ、ない……ちょっと、バカなだけ……」
優しい口調にしては辛辣な内容だね。
まあ、事実だから仕方がない。
ここでクロワがシキネの肩を掴み、言い放つ。
「シキネ、待つんじゃい。ウチらがここに呼ばれた理由を思い出すんじゃい」
「そんなの決まってるだろ! 魔王を、倒す!」
「違うんじゃい。ウチらは女帝と魔王を助けにここに来たんじゃい」
「なんだと!? そうだったのか!?」
「そうだったんじゃい」
クロワのおかげで、シキネはようやく戦闘モードを解いた。
やっぱりクロワがいてくれて良かったよ。
これで、なんとか第三次勇者勝負は回避された。
回避されたと同時、イケメンな女騎士を連れたお姫様が広間にやってくる。
普段からは想像もできないくらいにロイヤルなミィアとルフナだ。
ミィアはスカートの裾を持ち上げ挨拶し、口を開いた。
「皆様方、お揃いのようですね」
そんなロイヤル挨拶に続いて、ロイヤルな一団がやってくる。
ただし、ロイヤルな一団の中心にいたのはアルパカだった。
アルパカの背中では、『大きな帝国』の幼女帝アイリスが腰に手を当て胸を張っている。
「3人のゆーしゃがそろうなんて、そーかんね!」
偉そうな感じで言ってるけど、ちっちゃい子がアルパカの上で胸を張っている絵面は普通にかわいい。
私もシェフィーもスミカさんも、主にシキネのせいで呆れていた心が癒された。
さて、アイリスが現れた途端、まおーちゃんがルリから離れる。
まおーちゃんがルリから離れるなんて珍しいなと思っていれば、まおーちゃんは目を輝かせ、アイリスに声をかけた。
「じょてーちゃん!」
「まおー!? ぶじなのね!?」
「うん、ぶじ」
「それはよかったわ! まおーがついほーされたって聞いて、おどろいたわよ! 今はだいじょーぶなのね!?」
「だいじょうぶ。ルリおねえちゃんとイショーおねえちゃんがたすけてくれたから」
「ふ〜ん、さすがは『イのゆーしゃ』ね!」
なぜか誇らしそうにしながら、アイリスはアルパカから降り、まおーちゃんと手を繋ぐ。
ちっちゃい子2人が仲良く手を繋ぐ光景は、もはや癒しの極致だよ。
ただ、私たちの頭には当然の疑問が浮かんでくる。
「あらあら、アイリスちゃんとまおーちゃんはお友達だったのね」
「女帝と魔王が友達って、どういうこと?」
「わ、わたしにも分かりません……」
想定外の展開に思わず困惑。
そんな私たちのことなんて気にせず、アイリスちゃんとまおーちゃんの会話は続くのだった。
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