第2話 それぞれの勇者の印象
応接室での話が終われば、ミィアさんとアイリスさんは一度お別れです。
ただ、ルフナさんは騎士団長さんに呼ばれ、騎士団長さんの執務室にやってきました。
執務室の立派な椅子に座った騎士団長さんは、微笑みを浮かべてルフナさんに話しかけます。
「ルフナ、息災か?」
「はい、騎士団長から授けられた技の数々のおかげで」
「それは何よりだ。変わらぬ日常のため、日々の鍛錬を怠るなよ」
「はっ!」
勇ましく返答するルフナさんの目は、騎士団長さんへの憧れでいっぱいでした。
ルフナさんにとって、騎士団長さんはもうひとりのお母さんのような存在です。
いつか騎士団長さんのような最強の騎士になり、ミィアさんを守る。
それがルフナさんの夢なのです。
一方の騎士団長さんも、そんなルフナさんを娘のように想い、かわいがっていました。
2人は上司と部下、師匠と弟子という関係を超えた間柄なのです。
そんな2人が、2人っきりで話す久々の時間。
執務室のソファにルフナさんを座らせると、騎士団長さんは真面目な表情に戻りました。
「で、本題だ。ルフナは3人の勇者の戦いを間近で目の当たりにし、また共に戦った数少ない騎士である。そこで、ルフナから3人の勇者の印象を聞きたい。無論、正直に」
「分かりました」
特に考えることもなく、ルフナさんはすぐに答えます。
「まずはショクの勇者の印象について」
思い出すのは、勇者同士の勝負と『テントだらけの国』付近での戦い。
「ショクの勇者——クロワは、おそらく腕力だけならば他の勇者を圧倒しているでしょう。クロワ本人が戦わず、共にいるシキネを強化させマモノを撃退する、という戦い方も、なかなかに興味深いものがあります」
そう言うルフナさんの口調は、淡々としていました。
淡々とした評論は続きます。
「シキネは獣のような人物ですが、そうであるからこそ、クロワによる強化が活きている。そういう面では、長所と短所が同じ場所にある。ここが戦場にどう影響するかは、多少の注意が必要かと」
言われた通りの正直な印象です。
騎士団長さんは、デスクの上で指を組み、うなずきました。
「ふむ、ショクの勇者とは私も何度か一緒に戦ったことがあるが、ルフナと同じ印象を抱いたな」
正直な印象に同意する、ということでしょう。
これでショクの勇者の話は終わりです。
ルフナさんは間を置かず、次に進みました。
「イの勇者——イショーは計り知れぬ力の持ち主であると思われます。戦闘力ではまず間違いなく、最強の勇者でしょう。共に戦うルリとは関係が深いようで、それがさらに戦闘力を高めている」
まだ出会ったばかりとはいえ、ルフナさんはイショーさんとルリさんに感心しています。
だからこそ、抱いた印象は以下の通りに。
「短所らしきものもあまり見当たらない。勇者伝説にふさわしき勇者、それがイの勇者の印象でしょうか」
「ほお、それは頼もしいな。たしかにイの勇者は伝説通りの戦いを見せつけてくれる。しかし、そうか、ルフナにそうまで言わせるほどの力の持ち主であったか」
ちょっと驚いた様子の騎士団長さん。
あまりイの勇者さんと行動したことがないからこその反応です。
ただ、騎士団長さんはイの勇者さん以上に、ジュウの勇者さんと行動したことがありません。
おかげで、騎士団長さんは前のめり気味に尋ねました。
「それで? ジュウの勇者は?」
「スミカさんは——」
これこそ考える必要はありません。
少しの淀みもなく、心のままに、ルフナさんは答えます。
「スミカさんは不思議な勇者です。まず勇者らしくない。姿形、性格、戦い方、何もかもが勇者らしくない。細かい点では他の勇者に劣っているところも少なくない」
それは常日頃から抱いている印象。
「ですが、私はスミカさんこそ、総合的に最強の勇者であると思っています。なぜなら、スミカさんの力は多岐にわたり、また応用力が凄まじい。何より、共にいるユラやシェフィーといった存在が、ジュウの勇者の総合力を飛躍的に高めている」
それは、長いことスミカさんたちと暮らして気づいたこと。
だんだん、ルフナさんは早口になります。
「戦略面、戦術面でジュウの勇者は移動要塞に相応しい力を持っている。長期的な視点で見れば、ジュウの勇者の右に出る者はいない」
「なるほど。では——」
「加えて、ジュウの勇者はよく分からないスキルを数え切れぬほど持っています! しかも、戦闘とは関係ない、生活の利便性を高めるものばかり! これがミィアとの同棲生活——じゃなくて共同生活にどれだけ役に立ったことか!」
「おい、ルフナ?」
「ぬくぬくなリビング、ふかふかなベッド、気持ちのいいお風呂、スミカさんの美味しい料理、ユラが教えてくれたゲーム! 何もかもが新鮮で、楽しい!」
「おーい」
「しかもです! いんたーねっととやらのおかげで、異世界の品が手に入るのです! カメラというのを入手してからは、ミィアの一瞬一瞬を記録し放題!」
「待て! その『かめら』というの、気になる! それはアイリス陛下の一瞬一瞬も記録し放題なのか!?」
「もちろんです!」
「おおっ! ジュウの勇者、素晴らしい!」
2人のテンションは上がるばかり。
いつの間に自分が立ち上がっているのに気づいた騎士団長さんは、静かに椅子に座り、咳払いしました。
「……コホン、ともかく、それぞれの勇者の印象は分かった。助かったぞ」
続けて、おかしそうにルフナさんに言います。
「にしても、ルフナがミィア様以外のことでそこまで語るとはな」
「え? ああ……それは……その……」
騎士団長さんに指摘され、自分がソファから離れ、騎士団長さんのデスクに両手をついているのに気づいたルフナさん。
これには何も言い返せず、ルフナさんはシルバーのショートヘアに手を当てることしかできません。
それがとてもかわいかったのでしょう。
お母さんのような顔をした騎士団長さんは、優しく笑いました。
「夢中になるときはとことん夢中になる。子供の頃から変わらないな。誰に似たんだか」
おどけたような言葉。
執務室には、楽しげな笑い声が踊るのでした。
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